ステートメントとは?企業の宣言文の種類・作り方・例文を解説

「ステートメントを出してください」

サイトのリニューアルや会社案内の制作で、制作会社からこう言われて、この記事にたどり着いた方が多いと思います。理念でもキャッチコピーでもなく「ステートメント」。社内を探しても、そんな名前のファイルはどこにもない。

先に定義から。ステートメントとは、企業や団体が自分たちの姿勢や約束を言葉にして掲げた宣言文のことです。ただ、この言葉は現場で2つの意味で使われています。10〜30文字ほどの短いフレーズを指す場合と、数百字の文章を指す場合です。

困っているのは、あなたの会社に何もないからではありません。「ステートメント」という言葉が、業界の中でも指すものがバラバラだからです。だから、まずやるべきなのは文章を書くことではなく、「どっちの意味で言っていますか」と聞き返すことです。

この記事では、言葉の意味から始めて、企業で使われるステートメントの種類、理念やタグラインとの違い、日本企業の実例(公式サイトで呼称まで確認したもの)、作り方の手順、そして「作ったのに誰も使わない」を避ける方法までをまとめました。読み終わるころには、制作会社に何を返せばいいかがはっきりしているはずです。


ステートメントとは — まず言葉の意味から

ステートメント(statement)の原義は「声明」「宣言」「述べたもの」です。英語では「はっきり言葉にして示したもの」全般を指す、かなり広い言葉です。

広いので、分野によって指すものが変わります。ここで一度、混乱の元を整理しておきます。

分野 ステートメントが指すもの
ビジネス 企業や団体が、自分たちの姿勢や約束を言葉にした宣言文
プログラミング プログラムの命令の1単位(if文、代入文など)
論文・研究 主張を述べた一文。または研究機関などが出す声明
アート アーティストステートメント。作品の意図や背景を作者自身が書いた文章
金融 明細書。銀行やカード会社が出す取引の記録(bank statement など)

ばらばらに見えますが、共通しているのは「言葉にして、外に示したもの」という点です。プログラムの命令も、銀行の明細も、アートの解説も、「事実や意図をはっきり書いたもの」という意味では同じ筋にあります。

**この記事で扱うのは、いちばん上のビジネスの意味です。**つまり、企業が「自分たちはこういう存在です」「こういうことをします」と言葉にして掲げる宣言文の話です。ここから先は、その意味に絞って進めます。


実は「企業のステートメント」の指すものもバラバラ

ここがこの記事でいちばん大事なところです。

ビジネスの意味に絞っても、まだ揺れています。企業のステートメントという言葉は、大きく2つの意味で使われています。

1つめは、短い一文やフレーズを指す使い方。「〇〇を、もっと自由に。」のような、10文字から30文字くらいの言葉です。ロゴの近くに置いたり、サイトのトップに大きく載せたりするあれです。

2つめは、数百字の宣言文を指す使い方。「私たちは〇〇という思いで創業しました。〜」と続く、読み物に近い文章です。会社案内の見開きや、コーポレートサイトの「私たちについて」のページに載っているものです。

同じ「ステートメント」という言葉なのに、片方は30文字、もう片方は500文字。この差は大きい。しかもこの2つの用法は、制作会社の中でも、企業の広報の中でも、どちらも普通に使われています。どちらかが間違いというわけではありません。

だから、実務の第一歩は「どっちの意味か」を確定させること

「ステートメントをください」と言われたら、書き始める前に、次の3つを聞いてください。

**どこに載せるものですか。**トップページの一等地に大きく置くのか、会社紹介ページの本文として置くのか。置き場所が決まれば、必要な長さはおおよそ絞れます。

**何文字くらいを想定していますか。**これがいちばん早い。制作会社側もラフに文字数のイメージを持っていることがほとんどです。「30文字くらい」なのか「400字くらい」なのかで、作業はまったく別物になります。

**既存の理念やミッションとは、別物として作りますか。**すでに企業理念がある会社なら、それを言い直すのか、それとは別に新しく作るのかで進め方が変わります。

この3つを確認しないまま社内で「ステートメントを作ろう」と動き出すと、数週間かけて数百字の文章を書いたあとに「いや、欲しかったのは1行のほうです」となります。実際、これは珍しくありません。順番として、書くのは後です。まず何を作るかを決めてください。

そのまま制作会社への返信に使える形にすると、こうなります。

社内でも呼び方を揃えておく

制作会社とのすり合わせが済んだら、社内でも呼び方を1つに決めておくことをおすすめします。「ステートメント」「メッセージ」「コピー」「宣言文」が会議ごとに入れ替わると、承認する経営陣が何を承認しているのかわからなくなります。

呼び方は何でもかまいません。決まっていることが大事です。


企業で使われるステートメントの種類

ステートメントには、頭に別の言葉がつく形がたくさんあります。ミッションステートメント、ブランドステートメントなどです。これらは「何について宣言するか」が違うだけで、構造は同じです。

整理するときは、**「誰に向けた言葉か」「どのくらいの期間もつか」**の2つで見ると、迷いにくくなります。

種類 何を書くか 誰に向けた言葉か
ミッションステートメント 使命、自分たちが存在する理由 主に社内。日々の判断基準になる
ビジョンステートメント 目指す未来の姿 社内と社外の両方
バリューステートメント 大事にする価値観、行動のしかた 社内。評価や採用にも使う
パーパスステートメント 社会の中でどんな役割を果たすか 社内と社外の両方
ブランドステートメント ブランドが顧客や社会に約束すること 主に社外
コーポレートステートメント 企業全体としての姿勢 社外中心
採用ステートメント どんな人と働きたいか、働く場としての約束 求職者と社員
サステナビリティステートメント 環境や社会への姿勢 社外中心。投資家や取引先も読む

期間の目安にも差があります。ミッションやパーパス、バリューは数十年単位で変えない会社が多く、ビジョンや採用ステートメントのように期間や相手を区切ったものは5年前後で見直されることが多い、という違いです。

このうち、ミッション・ビジョン・バリューの3つはセットで語られることが多く、MVVと呼ばれます。この3つの関係を詳しく知りたい方は、ミッション・ビジョン・バリューの解説記事にまとめてありますので、そちらもあわせて読んでみてください。

実務で気をつける2つのこと

**コーポレートステートメントは、いちばん定義が曖昧です。**企業全体の姿勢を掲げる宣言、という説明はできるのですが、実際にはタグラインやスローガンとの境目がはっきりしません。この言葉が出てきたら、必ず具体物で確認してください。

**全部を作る必要はありません。**種類が8つあるからといって、8つ作る会社はまずありません。多くの会社は、ミッション(または経営理念)が1つと、社外向けの短い言葉が1つ、この2つで足りています。数を増やすほど、社員は覚えなくなります。言葉の数だけ判断基準が増えて、結局どれも参照されなくなるからです。

サステナビリティステートメントや採用ステートメントのように、特定のテーマに絞ったものは、「その領域で発信する必要が出てきたとき」に足していけば十分です。


企業理念・スローガン・タグライン・キャッチコピーとの違い

似た言葉が多すぎる、というのがこの領域のいちばんの厄介さです。ここは階層で考えるとすっきりします。

**企業理念は「中身」です。**その会社が何のために存在し、何を大事にするか。これは考え方そのもので、必ずしもきれいな一文である必要はありません。

**タグラインやスローガンは「短い旗」です。**理念の中から、いちばん外に見せたい部分を短く切り出したもの。覚えてもらうことが目的なので、リズムや語感が重視されます。ロゴの横に置かれるのがタグライン、キャンペーンや期間で使われるのがスローガン、という区別をする会社が多いですが、ここも会社によります。

**キャッチコピーは「売るための短い言葉」です。**商品や広告のために書かれるもので、基本的に企業の存在意義とは別レイヤーです。半年で変わることもあります。

**ステートメントは「旗の意味を語る文章」です。**なぜその旗を掲げるのか、その言葉の裏に何があるのかを、読んで伝わる長さで書いたもの。だから数百字になりやすい。

この4つを1枚で言うと、こうなります。

ただし冒頭で書いたとおり、「ステートメント」を短い旗のほうの意味で使う人もいます。この整理は、混乱したときに立ち返るための地図として使ってください。現場の呼び方を矯正するためのものではありません。

理念のほうから整理したい場合

「そもそも、うちの理念の体系がぐちゃぐちゃで」という状態であれば、ステートメントを書く前に理念側を整理したほうが早いです。理念の言葉の使い分けについては企業理念とは何かを整理した記事を、経営理念と企業ビジョンの関係が混ざっている場合は経営理念と企業ビジョンの違いをまとめた記事をご覧ください。


日本企業のステートメント例文(公式サイトで呼称を確認)

実例を見ると、一気にイメージがつかめます。ここでは公式サイトで文言と呼称を確認したものだけを載せています。

短い一文型

ファーストリテイリング
「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」
同社は「FAST RETAILING WAY(FRグループ企業理念)」の中で、この言葉をステートメントとして掲げています。会社全体の宣言に「ステートメント」という語をそのまま使っている、めずらしい例です。

リクルート
ミッション「まだ、ここにない、出会い。より速く、シンプルに、もっと近くに。」
基本理念とあわせて体系化されています。「まだ、ここにない、出会い。」の部分だけが単独で引用されることも多いのですが、公式には後半とセットです。

メルカリ
グループミッション「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」
グループ全体のミッションで、日本事業には別の言葉が置かれています。引用するときは「グループミッション」と書いておくと正確です。

サイボウズ
Purpose「チームワークあふれる社会を創る」
パーパスとして掲げられています。

freee
MISSION「スモールビジネスを、世界の主役に。」

資生堂
OUR MISSION「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」
英文をそのまま掲げている例です。

日立製作所
MISSION「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」
創業以来の言葉として、Hitachiのアイデンティティの中心に置かれています。

短い一文型を並べてみると、多くに動きの言葉が入っています。「変えていく」「広げる」「創る」「貢献する」。一方で、freeeの「世界の主役に。」のように、動詞を置かずに向かう先だけを示す書き方もあります。共通しているのは、自社がどんな会社かを説明するのではなく、何をするか・どこへ向かうかを書いている点です。

一文だけでなく、体系で持っている型

ZOZO
企業理念「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」に加えて、サステナビリティステートメントとして「ファッションでつなぐ、サステナブルな未来へ。」を掲げています。テーマ別にステートメントを立てている、わかりやすい例です。

LIFULL
社是「利他主義」という2文字の言葉を置き、その下に経営理念「常に革進することで、より多くの人々が心からの『安心』と『喜び』を得られる社会の仕組みを創る」を続けています。

体系で持っている会社は、いずれも公式サイトで全文を公開しています。作るときの参考にするなら、他社の一文だけを見るより、体系のページを丸ごと1枚見るほうが役に立ちます。記事の最後にURLをまとめました。

数百字の宣言文型

もうひとつの意味である「数百字の宣言文」の実物も、1本見ておきましょう。アウトドアメーカーのスノーピークは、「The Snow Peak Way」と呼ばれる文章を、公式にMission Statement(ミッションステートメント)として掲げています。

私達スノーピークは、一人一人の主体性が最も重要であると自覚し、同じ目標を共有する真の信頼で力を合わせ、自然指向のライフバリューを提案し実現するグローバルリーダーになろう。
私達は、常に進化し、革新を起こし、時代の流れを変えていきます。
私達は、自らもユーザーであるという立場で考え、お互いが感動できる体験価値を提供します。
私達は、地球上の全てのものに良い影響を与えます。

(出典:スノーピーク「スノーピークの経営方針」)

構造を分解してみると、宣言文の骨格が見えてきます。1文目は「〜なろう」という呼びかけで、目指す到達点を社内に向けて宣言しています。続く3文は、すべて「私達は〜します」という約束の形です。主語が全部「私達」なので、読んだ社員が自分ごとにできます。数百字型を書くときに参考になるのは、この「主語+約束」の骨格です。

なお、他社の宣言文は著作物です。この記事では引用の範囲で1本だけ紹介し、ほかは公式ページの案内にとどめています。

呼称は必ず公式サイトで確認してください

例文を集めていて気づいたのですが、ネット上の解説記事に載っている呼称は、公式と食い違っていることがあります。

たとえば伊藤忠商事の「ひとりの商人、無数の使命」。企業理念として紹介されることの多い言葉ですが、公式では企業理念は「三方よし」で、こちらは企業行動指針という位置づけです。海外の例だと、Appleの「Think different」をブランドステートメントとして挙げている記事を見かけますが、これは1997年の広告キャンペーンのタグラインで、現在Appleが公式に掲げているものではありません。

やっかいなのは、公式の側でも呼称がひとつに定まっていない場合があることです。三菱電機の「Changes for the Better」は、2001年に「コーポレートステートメント」として制定された言葉で、公式サイトの沿革ページには今もその呼称が残っています。一方、現在の企業理念ページではGuiding Principle(大切にする考え)として整理されています。どちらも公式です。同じ言葉に、時期によって複数の呼称が併存しているわけです。

これは紹介する側が悪いというより、そもそも呼称の定義が業界でも企業の中でも揃っていないことの表れだと思います。実務上の対処はシンプルで、社内資料に他社事例を載せるときは、必ずその会社の公式ページを開いて、いまの呼称をコピーする。これだけです。役員会で「これ、本当にステートメントなんですか」と聞かれたときに、出典ページを出せる状態にしておくと安心です。


ステートメントの作り方

ここからは実際の手順です。5つのステップで進めます。

先に進め方の目安を書いておきます。会社の規模や作るものによりますが、私たちが支援してきた範囲では、社内だけで進める場合で素材集めから検証まで2〜3か月、経営者へのヒアリングは合計3〜5時間、巻き込む社員は5〜10名くらいが現実的なところです。短い一文型だけなら、もっと短く済むこともあります。

ステップ1:素材を棚卸しする

いきなり書き始めないでください。ステートメントは発明するものではなく、すでに社内にあるものを見つけて言葉にするものです。先に材料を集めます。

集めるものは3種類です。

**歴史。**創業年、創業のきっかけ、事業の転換点、うまくいかなかった時期とその乗り越え方。社史があるなら読み返します。なければ、いちばん古い社員に聞きます。

**創業者の動機。**なぜこの事業を始めたのか。何に困っていたのか、何に腹を立てていたのか。ここがいちばん濃い素材になります。

**現場の言葉。**営業がお客さんに説明するときに毎回言っているセリフ、面接で候補者に伝えている自社の特徴、社内でよく出る口ぐせ。議事録やSlackを検索すると出てきます。

この3つを、A4で3〜5枚くらいのメモにまとめます。この段階では整えなくていいので、量を優先してください。

ステップ2:経営者に問いを投げる

素材の中心になるのは、たいてい経営者の中にあります。ただし「わが社の理念は何ですか」と直球で聞くと、たいてい借り物の言葉が返ってきます。教科書に載っていそうな、きれいで無難な答えです。

効くのは、具体的な出来事を思い出させる問いです。実際のヒアリングで使っている問いを挙げます。

ポイントは、答えがエピソードになる問いを選ぶことです。「腹を立てていたこと」「断った仕事」「許せなかったこと」は、抽象的には答えられません。必ず具体的な場面が出てきます。その場面の中に、その会社らしさが入っています。

もうひとつのコツは、感情が動いた瞬間を聞くことです。うれしかった、悔しかった、許せなかった。理屈で組み立てた言葉より、感情が動いた話のほうが、あとで社員が読んだときに伝わります。

このステップは、自社のWHYの見つけ方でより詳しく扱っています。

ステップ3:中心に置く一つを決める

素材が集まったら、次は捨てる作業です。

出てきた話は、たいてい10個も20個もあります。全部を入れようとすると、「お客様も社員も社会も大事にします」という、どこの会社でも通る文章になります。ここで踏ん張るかどうかで、結果が変わります。

決め方はシンプルです。「これを外したら、うちの会社じゃなくなる」というものを1つだけ選ぶ。2つでも多い。1つです。

選ぶときの目安として、こう自問してみてください。「この言葉を、同業のライバル社がそのまま使えるか」。使えるなら、それは中心になりません。使えないなら、いい候補です。

ステップ4:文章に起こす

ここでやっと書きます。長さは、最初に確定させた「どっちの意味か」に従います。

**短い一文型を書くとき。**先ほど例文で見たとおり、「〜な企業です」と状態を説明するより、何をするか・どこへ向かうかを書くほうが強くなります。それから、自社しか言えない具体を1語入れられないか探してください。業種の言葉、扱っているものの言葉、顧客の言葉。

**数百字の宣言文型を書くとき。**おすすめの型は「具体の場面 → 気づき → 約束」です。抽象的な決意表明から始めると、3行目で読者が離れます。創業のときの具体的な場面、お客さんとのやり取り、そういう手触りのある話から入って、そこから何を学んだか、だから何をするかへ進めます。

どちらの場合も、書き上げたら声に出して読んでください。社長が朝礼で読み上げる場面を想像して、言いにくければ直します。読みにくい文は、使われません。

ステップ5:検証してから、運用に載せる

書いた文は、いきなり役員会に持っていかないでください。先に3つの検証をします。

**社名を隠して見せる。**同業他社のステートメントを3つ並べて、自社のものを混ぜ、社員に「どれがうちですか」と聞きます。当てられないなら、中心が1つに絞れていないサインです。ステップ3に戻って、外したら自社でなくなる要素を選び直してください。この検証は残酷ですが、いちばん早く問題が見つかります。

現場の言葉に翻訳できるか試す。「この文にそって判断するなら、今日のあの案件はどうする?」と、実際の仕事に当てはめてみます。何も変わらないなら、その文は判断基準として機能していません。

**入社1年目に読ませる。**わからない言葉があれば、そこは書き直します。社内で長く使われている業界用語は、外から来た人には通じません。

検証を通ったら、承認プロセスに載せます。理念そのものの作り方については、経営理念の作り方をまとめた記事で手順を細かく書いています。


使われるステートメントと、使われないステートメントの違い

ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。

きれいに書けたステートメントが、半年後に誰にも使われていない。これは本当によく起きます。しかも、失敗しているステートメントの多くは、文章としては上手です。誤字もないし、リズムもいいし、役員会も全会一致で通っている。

問題は、全会一致で通ったことのほうかもしれません。

誰も反対しない文は、誰も覚えない

説明のために、こちらで例文を作りました。実在する会社の文ではありません。

私たちは、お客様に寄り添い、社会に貢献し、社員一人ひとりが輝ける企業を目指します。

これに反対する人はいません。役員会は5分で通ります。そして、3か月後には誰も内容を思い出せません。

なぜかというと、この文には引っかかりがないからです。お客様に寄り添うのも、社会に貢献するのも、社員が輝くのも、全部いいことです。いいことしか書いていない文は、読んだ人の中に何も残しません。反対する余地がないということは、選択していないということです。

逆に、社内で「これ、ちょっと言い過ぎじゃないですか」という声が出た文のほうが、あとで使われることが多いです。誰かが引っかかったということは、そこに具体的な意味があるということだからです。ただし、引っかかりの正体が「具体的すぎる」ならよい兆候ですが、「実態と違う」なら直したほうがいいです。

正しさだけで組み立てた言葉は、反対されない代わりに、誰の口からも出てきません。使われる言葉は、書いた人が「これは言いたい」と思った衝動から出てきます。私たちが理念づくりを支援してきた現場でも、ここは繰り返し同じ結果になっています。

使われないステートメントに共通する4つの特徴

主語がない。「〜が求められる時代です」「〜が重要とされています」。誰がそう思っているのかが書かれていない文は、自分たちの言葉になりません。主語を「私たちは」に変えて、それでも言えるかを確認してください。

**捨てているものがない。**何かを大事にすると宣言するなら、その裏で何を優先しないかが決まるはずです。それが読み取れない文は、判断基準として使えません。「スピードを優先する」なら、完璧さを少し捨てているはずです。そこまで書けているかどうか。

**社長が自分の言葉で言えない。**これは簡単に確認できます。ステートメントを見ずに、社長に「うちの会社って、要するにどういう会社ですか」と聞いてみる。返ってきた言葉と、書いてある文が全然違うなら、その文は使われません。社長本人が言えない言葉を、社員が使うことはないからです。

**現場の仕事とつながらない。**営業が提案書を書くとき、人事が面接をするとき、その文を思い出す場面があるかどうか。ないなら、それは壁に貼るためだけの文になります。

引っかかりのある言葉を、どう通すか

「尖った言葉のほうが機能するのはわかるが、社内が通らない」。これもよく聞きます。

現実的なやり方は2つあります。1つは、尖った言葉を裏づけるエピソードをセットで出すこと。「なぜこの言い方なのか」が創業の話とつながっていれば、反対しにくくなります。もう1つは、社外向けの短い言葉は無難に、社内向けの文は具体的に、と使い分けることです。全部を1つの文で背負わせないほうが、結果的にうまくいきます。


作った後:どこに置き、どう使うか

ステートメントが完成したら、次は置き場所です。ここを設計しないと、「立派な額縁に入れて役員室に貼って終わり」になります。

置き場所

**コーポレートサイト。**トップページか、「私たちについて」のページ。短い一文型はトップの一等地に、数百字型は専用ページに置くのが一般的です。このとき、呼称を明記してください。「ミッション」なのか「ステートメント」なのか、ページ上に書いておくと、他社やメディアが引用するときに間違われません。この記事で見たとおり、呼称の食い違いは実際に起きます。

**採用サイト。**求職者はここをいちばん熱心に読みます。ただし、コーポレートサイトと同じ文をコピーするだけだと弱い。「この文は、働く場としては何を意味するのか」を1段落足すと、伝わり方が変わります。

**社内。**Slackやイントラのトップ、会議室の壁、名刺の裏。ただし、貼るだけでは使われません。

「貼って終わる」問題への対処

貼るのは必要条件で、十分条件ではありません。使われるようにするには、判断の場面に登場させる必要があります。

いくつか、現実的にやりやすい方法を挙げます。

**入社式と新人研修で、社長本人が話す。**紙を読み上げるのではなく、なぜこの言葉になったのかというエピソードごと話す。作り方のステップ2で集めた素材が、ここで効いてきます。

**評価や表彰の基準にひもづける。**四半期の表彰で「この行動がうちのバリューのここに当たる」と説明する。抽象的な言葉が、具体的な人の行動とつながった瞬間に、社員の記憶に入ります。

**大きな意思決定のときに引用する。**新規事業をやるかどうか、この取引を受けるかどうか。経営会議で「うちの理念に照らすと」と実際に使われた事例が1つできると、社内での扱いが変わります。逆に言うと、一度も判断に使われないまま1年が過ぎたら、その文は機能していないと考えたほうがいいです。

**採用の合否判断に使う。**バリューステートメントがあるなら、面接の評価項目に落とし込む。ここまでやると、確実に使われます。


よくある質問

Q. 文字数の目安はどれくらいですか。

実務で見てきた範囲での目安ですが、短い一文型なら15〜40文字くらい、数百字の宣言文型なら200〜600字くらいが多いです。ただしこれは結果論であって、目標にするものではありません。先に「どこに置くか」を決めれば、必要な長さは自然に決まります。トップページの大見出しに500字は載りませんし、会社紹介ページに20文字だけでは足りません。

Q. 一度作ったら、いつ見直せばいいですか。

ミッションや理念にあたるものは、基本的に頻繁に変えません。数十年変えていない会社も普通にあります。一方で、ビジョンや採用ステートメントのように期間や相手を限定したものは、5年前後で見直す会社が多い印象です。

見直しのタイミングとして分かりやすいのは、事業の中身が変わったとき、代表が交代したとき、M&Aや統合があったとき、社員数が倍になったときです。逆に、「なんとなく古く感じる」だけで変えるのはおすすめしません。頻繁に変わる言葉は、覚えてもらえません。

Q. 英語版は必要ですか。

海外の顧客・投資家・人材と接点があるなら必要です。ないなら、急いで作らなくても困りません。

作る場合、翻訳ではなく英語で書き直すつもりで進めてください。日本語の語感に頼った表現は、直訳するとほぼ意味が壊れます。資生堂のように、最初から英語で掲げている会社もあります。日本語版と英語版で、伝わる中身が同じになっているかを、英語話者にチェックしてもらうところまでやると安心です。

Q. すでに経営理念があります。別にステートメントを作る必要はありますか。

制作会社が求めているのが「サイトに載せる文章」なら、既存の経営理念をそのまま掲載するか、理念に200字ほどの解説文を添える形で足りることも多いです。新しく作る意味があるのは、既存の理念が実態と合わなくなっているときや、社外に伝える言葉が明らかに足りていないときです。作り直しも含めて外部の力を借りる場合の費用感は、理念策定の費用相場をまとめた記事が参考になります。

Q. 『7つの習慣』に出てくる個人のミッション・ステートメントとは違うものですか。

目的が違います。スティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』で紹介されているミッション・ステートメントは、個人が自分の人生の指針を書き出すためのものです。何を大事に生きるかを自分で言語化して、日々の選択の基準にする。読者は自分ひとりです。

企業のステートメントは、複数の人が共有して、組織としての判断を揃えるためのものです。だから、社員が読んで理解できることや、社外に説明できることが求められます。書き方の考え方には重なる部分もありますが、「誰が読むか」がまったく違うので、そのまま流用はできません。


まとめ

「ステートメントを出してください」と言われたら、まず聞き返してください。どこに載せるのか、何文字くらいか、既存の理念とは別物か。ここを確定させるのが最初の仕事です。書くのはそのあとです。

書くときは、発明しようとしないでください。創業のきっかけ、断った仕事、うれしかったこと、許せなかったこと。素材は社内にあります。それを集めて、1つに絞って、文章にする。

そして、きれいに書けたかどうかより、その言葉が判断の場面で使われるかどうかで完成を判断してください。誰も反対しない文は、たいてい誰の記憶にも残りません。社内で少し議論になるくらいの言葉のほうが、1年後に生きています。


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