ブランドステートメントとは?日本企業12社の実例と書き方

制作会社から届いた提案書に「ブランドステートメントの開発」という項目が入っていた。あるいは上司から「うちもブランドステートメントを作ろう」と言われた。それで検索して、この記事にたどり着いた方が多いと思います。

先に定義を言います。ブランドステートメントとは、その会社やブランドが顧客に何を約束するのかを、まとまった文章で書いたものです。一言のコピーであるタグラインとは、長さも役割も違います。

ただ、言葉の説明を読んでも、いまひとつ手触りがつかめないはずです。理由ははっきりしていて、解説記事の多くが「実物」を見せていないからです。有名企業の名前が並んでいても、そこで紹介されている文章が、その会社が本当にブランドステートメントと呼んでいるものとは限りません。

そこでこの記事では、日本企業が自社の公式サイトで「ブランドステートメント」という名前で掲げている文章を、実際に開いて集めました。原文、載っている場所、文字数まで並べています。実物を並べると、長さも書き方もばらばらです。ただ、伝わる文章に何が入っているかは、そこから見えてきます。

私たちはブランドや理念の言葉づくりを仕事にしています。その立場からの実務的な見方も添えます。この記事でわかることは次のとおりです。

ブランドステートメントとは何か

定義をもう少しだけ広げます。ブランドステートメントで大事なところは二つあります。ひとつは、読む相手が社外の人だということ。もうひとつは、一言のコピーではなく、ある程度の長さを持った文章だということです。

一言のコピーはタグラインやスローガンと呼ばれます。ブランドステートメントはその手前にある、もう少し説明の入った文章です。実物を見ると、8文字のものから390字を超えるものまで幅があります。まとまった文章として書かれているものは、100字から300字が中心です。詳しくは後の実例のところで数字を出します。

「約束」という言い方をしたのには理由があります。企業理念やミッションは、うちの会社は何のためにあるのか、という自分たちに向けた話です。ブランドステートメントは、その考えを顧客の側から見て書き直したものになります。だから主語が「私たち」でも、視線の先には必ずお客さんがいます。

なお、世の中には「ステートメント」と名のつくものがいくつもあります。ミッションステートメント、ブランドステートメント、ポジショニングステートメントなど、企業で使われるステートメントの種類の整理は別記事にまとめてあります。ここではブランドステートメント一本に絞ります。

ミッションやタグラインと混同されている

ブランドステートメントの説明が分かりにくい最大の原因は、実は他の概念の文章がブランドステートメントとして紹介されていることにあります。

よく見かける説明に、こんなものがあります。「ナイキのブランドステートメントは、世界中のすべてのアスリートにインスピレーションとイノベーションをもたらすこと」。

これはナイキの公式サイトを見ると、ブランドステートメントではなくミッション(Our Mission)として掲げられている文章です。

BRING INSPIRATION AND INNOVATION TO EVERY ATHLETE* IN THE WORLD
*If you have a body, you are an athlete

(出典: NIKE, Inc. 公式サイト「Our Mission」)

つまり、ナイキ自身は自社の言葉に「ブランドステートメント」というラベルを貼っていません。日本の解説記事の側が、そう名づけて紹介しているわけです。

アップルの「Think different」も似た例です。これは1997年に始まった広告キャンペーンのコピーで、日本語でいうタグラインにあたります。アップル自身も、公式の商標リストでこの言葉をスローガンに分類しています。ブランドステートメントの例として引かれることがありますが、広告のために作られた一言なので、性質が違います。

なぜ混同が起きるのか

理由は二つあると考えています。

ひとつめ。英語の brand statement は、企業ブランディングの文脈では意味の幅が広く、使う人によって指すものが変わります。企業向けの文書では mission statement、vision statement、positioning statement のほうがよく使われます。さらに英語圏では、brand statement という言葉は個人のキャリア紹介文(personal brand statement)を指して使われることも多く、日本でのブランドステートメントとは、ずれがあります。だから海外企業を例に出そうとすると、別のラベルの文章を持ってくることになります。海外向けのサイトを作るときも、そのまま訳すより、どのラベルで出すかを先に決めたほうがいいです。

ふたつめ。そもそも日本企業の間でも呼び方が揃っていません。同じ性質の文章を、ある会社はブランドステートメント、別の会社はブランドメッセージ、また別の会社はブランドコンセプトと呼んでいます。統一されたルールがないところに、解説だけが積み重なっている状態です。

この記事で日本企業の実例にこだわるのは、そのためです。呼称ごと確認できる実物を見ないと、話が前に進みません。

紛らわしいブランド用語との違い

提案書に出てくる似た言葉を整理します。結論から言うと、業界に共通の定義はありません。ただ、実務でよく使われる意味は次のとおりです。

ブランドコンセプト

社内向けの指針です。このブランドは何であるか、を短く決めたもの。「働く人の朝を10分ラクにする」のような、判断に使える一行です。

作る順番でいうと、コンセプトが先です。コンセプトを決めて、それを社外向けの文章にしたものがブランドステートメント、さらに一言に圧縮したものがタグラインになります。コンセプト、ステートメント、タグラインは別物というより、同じ中身を粒度を変えて三段階に書いたものだと考えるとつかみやすいです。

ブランドプロミス

顧客への約束を書いたものです。正直に書くと、実務上はブランドステートメントとほとんど重なります。

違いを説明する記事もありますが、実物を見ると「プロミス」と名づけられた文章と「ステートメント」と名づけられた文章に、はっきりした差はありません。会社がどちらの言葉を選んだか、という違いに近い。提案書に両方が並んでいたら、中身がどう違うのかを確認したほうがいいです。

ブランドアイデンティティ

自分たちがどうありたいか、という内向きの理想像です。ブランドステートメントが顧客に向けた約束なのに対して、こちらは社内の合意事項に近い。

ロゴやカラー、書体などのデザイン規定をまとめてブランドアイデンティティと呼ぶ会社もあります。ここも会社によって指すものが変わる言葉です。

ブランドメッセージ

この言葉がいちばん厄介です。会社によって、まとまった説明文を指すこともあれば、一言のコピーを指すこともあります。

たとえば同じ「ブランドメッセージ」という見出しの下に、ある会社は300字の文章を置き、別の会社は10文字のフレーズを置いています。どちらが正しいという話ではなく、決まりがないだけです。

言葉の定義で揉めるより、具体物を見る

打ち合わせで用語の定義を議論しても、たいてい結論は出ません。共通の定義がないからです。

そこで実務的におすすめしたいのは、その言葉が出てきたら「具体的にどんな文章になりますか」「他社でいうとどれにあたりますか」と聞くことです。制作会社に見本を見せてもらう。それだけで話が早く進みます。長さと、社外向けか社内向けかの二点が分かれば、認識のずれはほぼ消えます。

日本企業のブランドステートメントの実例

ここが記事の中心です。日本企業の公式サイトを一社ずつ開いて、「ブランドステートメント」という名前で掲げられている文章を集めました。

集める条件は一つだけ、その会社自身が「ブランドステートメント」と呼んでいることです。ミッション、パーパス、スローガンと書かれているものは入れていません。このうち、まとまった文章として書かれている12社をまず一覧にします。もっと短い言葉をブランドステートメントと呼んでいる会社は、この後で別に見ます。

12社の一覧

文字数は、改行と空白を除いた実測です。冒頭は各社の書き出しをそのまま引いています。

社名 書き出し 文字数
味の素冷凍食品 ある少年は、フライパンを使うのも、コンロの火をつけるのもはじめてでした。 390字
ニチイ学館 人はやさしい。そう思いませんか。 322字
ロイヤル化学研究所 現場の施工者を何よりも大切にし、 249字
三井不動産レジデンシャルリース いちばんに、住む人のこと。 238字
アビームコンサルティング 企業・組織を変革し、変革を繋いでいく。 222字
ニチレイフーズ おいしさと健康を、わかちあえる世界へ 199字
JECC 創立60周年を迎えることができました。 171字
コロナ 快適とは、なにか。 140字
大日本印刷 DNPグループは、人と社会をつなぎ、新しい価値を提供する。 112字
アバントグループ グループ再編を通じて、 64字
ぐるなび 食でつなぐ。人を満たす。 62字
塩野義製薬 SHIONOGIは、 38字

いずれも、各社の公式ページで「ブランドステートメント」という見出しが付いている文章です(表記は「ブランド・ステートメント」「BRAND STATEMENT」を含みます)。URLは記事末尾にまとめています。

短いものを全文で見る

短い例のほうが構造が見えやすいので、まず短いものから引きます。

株式会社ぐるなびは、会社案内のなかに「ブランド・ステートメント」というページを持っています。

“食でつなぐ。人を満たす。”

私たちぐるなびは食の可能性を信じ、
世界中のヒト・モノ・コトをつなげ、
人々が満たされる場を創出します。

(出典: 株式会社ぐるなび「ブランド・ステートメント」)

短い一言と、それを説明する三行。この二段構えは実例のなかでよく出てくる形です。

株式会社コロナは、ブランドサイトに「BRAND STATEMENT」として次の文章を掲げています。同じページに「BRAND SLOGAN」として「つぎの快適をつくろう。」があります。

快適とは、なにか。それは、温度や湿度にとどまらない。ココロとカラダが望むものすべて。
そこには、無限の可能性がある。私たちの未来がある。さあ、つぎの快適をつくろう。
今までの常識に捉われず。培ってきた技術と経験を注ぎ。考えよう。追究しよう。開発しよう。くらしをもっと豊かにするために。

(出典: 株式会社コロナ「つぎの快適をつくろう。」)

暖房器具の会社が「快適とは、なにか」と問いから入って、温度や湿度の話ではないと自分で否定してみせる。そのうえでスローガンに着地する組み立てです。

長いものは冒頭を見る

味の素冷凍食品株式会社のものは、集めたなかで最も長い390字でした。書き出しがこうです。

ある少年は、フライパンを使うのも、
コンロの火をつけるのもはじめてでした。
もちろん餃子を焼くのも。だけど、
「ひとりで、つくれた!」

(出典: 味の素冷凍食品株式会社「ブランドステートメント」冒頭より)

会社の話から始まっていません。人の場面から始まって、そのあとに会社が出てきます。このあと女子高生の話、お母さんの話と場面が続き、締めくくりの一文は「ひとりひとりの食卓に、もっと。」です。

株式会社ニチイ学館は、会社情報のなかに「ブランドステートメント」のページを置いています。冒頭はこうです。

人はやさしい。そう思いませんか。困っている人がいれば、声をかけずにはいられない。

(出典: 株式会社ニチイ学館「ブランドステートメント」冒頭より)

こちらも人の話から入ります。同じページで「やさしさを、私たちの強さにしたい。」がブランドスローガンとして掲げられていて、ステートメントはその意味を説明する役割を持っています。

「ブランドステートメント」と呼ばれているのに短い会社もある

ここが実例を集めて一番おもしろかったところです。

株式会社荏原製作所は、ブランドステートメントとして「Ahead, Beyond」という二語を掲げています。同じページに続く長い文章は、「解説文」「ブランドコンセプト」という別の見出しの下に置かれています。

つまり荏原製作所では、短い言葉がステートメントで、長い文章はコンセプトなどの別の名前です。この記事で先に整理した使い分けとは逆になります。

呼び名の付け方は、このように会社ごとに違います。ただ、呼び名の話と、作る順番の話は別です。判断に使える短い指針を先に決めて、それを社外向けの文章に広げ、最後に一言へ圧縮する。名前をどう付けるかがどうであれ、この順番で作るのが進めやすい、という点は変わりません。

株式会社永谷園ホールディングスも短い型です。「ブランド・ステートメント」として掲げられているのは「味ひとすじ 永谷園」の8文字で、そのあとに説明文が続きます。

リクルートマネジメントスクールは「一人ひとりに最適な学びを提供し、個と組織の力を引き出します」という29字。住友ゴム工業は2025年12月に、DUNLOPブランドの新しいブランドステートメントとして「TAKING YOU BEYOND」を策定したと発表しています。

逆に、ひとつの文章に二つの名前が付いている会社もあります。ぐるなびは先ほどの一文を、同じページでパーパスとしても掲げています。塩野義製薬の38字も、同社は同じページでパーパスと説明しています。

言葉の定義は業界で固まっていない、と前のほうに書きました。その裏づけがこれです。同じ「ブランドステートメント」という名前で、8文字から390字までが並んでいます。

だから提案書に「ブランドステートメント」と書いてあっても、それだけでは何が納品されるか分かりません。長さを聞いてください。

どこに載っているか

置き場所も見ておきます。一覧の12社のうち9社は、企業情報や会社情報の配下にページを置いています。企業理念のページと同じ階層か、そのすぐ近くです。コロナとアバントグループはブランド専用のページで、コロナは独立したブランドページにロゴ、スローガン、ステートメントをまとめて見せています。大日本印刷は、ビジョンを説明するページの中に置いています。

もう一つ、調べていて気づいたことがあります。本文を画像で載せている会社が複数あったことです。住友生命は本文がまるごと1枚の画像、きのくに信用金庫は画像1枚と動画で、どちらもテキストとしては読めません。人が読む分には問題ありませんが、検索エンジンには文字として読まれません。せっかく作るなら、テキストで載せることをおすすめします。

実例からわかったこと

集めた文章を並べて見えたことを、三つに分けて書きます。

分量は100字から300字が中心

一覧にした12社の文字数は38字から390字で、中央値は185字でした。短い言葉をステートメントと呼ぶ会社まで含めると、下は8文字まで広がります。

ばらつきは大きいですが、まとまった文章として書かれているものに限ると、だいたい100字から300字のあいだに集まります。原稿用紙で半枚弱から1枚弱、ウェブページなら画面一つに収まる長さです。

書くときの目安としては、まず200字前後を狙って書いてみるのが現実的だと思います。短すぎるとタグラインと変わらなくなり、長すぎると読まれません。

300字を超えているものは、味の素冷凍食品のように場面を三つ重ねるなど、読ませるための構成が入っています。構成なしで300字を書くと、たいてい説明が続くだけの文章になります。

中身は三つの要素でできている

集めた文章のうち、具体的な場面まで書けているものに共通していたのは、次の三つが入っていることでした。

誰に向けているか。 味の素冷凍食品は料理をする人、ニチイ学館は介護や医療の現場で働く人と支えられる人、ロイヤル化学研究所は施工の現場に立つ人。対象がはっきりしています。

とくにロイヤル化学研究所は「現場の施工者を何よりも大切にし」と冒頭で名指ししています。自動車のコーティング剤の会社が、エンドユーザーではなく施工者を選んでいる。この選択そのものが、その会社らしさになっています。

何を約束するか。 三井不動産レジデンシャルリースは「いちばんに、住む人のこと。」を掲げ、住む人の満足を出発点にすると書いています。JECCは、ITとファイナンスを組み合わせたサービスを通じて何をするかを書いています(2021年の創立60周年に合わせて掲げた文章を、現在も載せています)。抽象的な価値ではなく、自社が実際にやっていることの延長で書かれています。

どんな態度でやるか。 コロナの「今までの常識に捉われず」、アビームコンサルティングの「One Teamで成し遂げる」。ここが会社の性格の出るところです。

逆に言うと、この三つのどれかが抜けると弱くなります。相手がいない文章は独り言になり、約束のない文章は感想になり、態度のない文章は他社と入れ替え可能になります。

書き出しには四つの型がある

書き出しを見ると、型は大きく四つありました。

場面から入る。 「ある少年は、フライパンを使うのも」(味の素冷凍食品)、「人はやさしい。そう思いませんか。」(ニチイ学館)。読み手を引き込む力は一番強いですが、書くのが一番難しい型です。

問いから入る。 「快適とは、なにか。」(コロナ)。自分の商売の中心にある言葉を、あえて問い直します。

名乗りから入る。 「DNPグループは、人と社会をつなぎ、新しい価値を提供する。」(大日本印刷)、「SHIONOGIは、常に人々の健康を守るために、」(塩野義製薬)。企業理念に近い書き方です。堅い代わりに、ぶれません。

宣言から入る。 「企業・組織を変革し、変革を繋いでいく。」(アビームコンサルティング)。何をする会社かを先に言い切ります。

自社で書くなら、まず名乗りか宣言の型で骨組みを作るのが安全です。場面から入る型は、素材として具体的なエピソードが手元にないと成立しません。

自社に必要かを先に判断する

作り方の前に、作らないという選択について書きます。提案書に載っているから作る、という順番だと、たいてい途中で目的を見失います。

作らなくていい状況

次のような会社は、無理に作らなくていいと思います。

企業理念やミッションで対外発信が足りている会社。 すでにある理念が顧客にも通じる言葉で書かれていて、サイトでも営業でもそれを使えているなら、新しい文章を足す理由がありません。似た文章が二つ並ぶと、社員がどちらを使えばいいか分からなくなります。理念まわりの言葉が既にそろっているかどうかは、ミッション・ビジョン・バリューの整理の記事で確認できます。

社名やタグラインだけで伝わっている会社。 事業が一つで、名前を見ればやっていることが分かる会社。ここに長い文章を足しても、読まれずに終わります。

顧客との接点が対面中心で、ウェブをほとんど使っていない会社。 掲げる場所がなければ、作っても使われません。

半年以内に事業の方向を変える可能性がある会社。 決まっていないことを文章にすると、抽象的な言葉に逃げます。あとで直すことになります。

作る価値があるのはこういうとき

逆に、次のどれかに当てはまるなら作る意味があります。

社員によって会社の説明の仕方がばらばらで、営業資料と採用サイトとコーポレートサイトで言っていることが違う。これは一番よくある動機です。

事業が増えて、社名だけでは何の会社か伝わらなくなった。複数の事業を束ねる一段上の言葉が必要になっている状態です。

値段以外の理由で選ばれたいのに、その理由を言葉にできていない。競合と比べて何が違うのかを説明できず、結局価格の話になってしまう。

サイトのリニューアルや周年、社名変更など、掲げる場所と機会がすでにある。作ったものをすぐ使える状況は、作る側にとって追い風です。

判断するときの質問

ひとつだけ、有効な質問があります。「できあがった文章を、来週どこに載せますか」。

載せる場所がすぐ答えられないなら、まだ早いです。作ることが目的になっている可能性が高い。逆に、コーポレートサイトのトップとして使う、会社案内の見開きに入れる、といった答えが出てくるなら進めていい状況です。

ブランドステートメントの作り方

ここでは、ブランドステートメントを作るときに固有の工程だけを書きます。強みを洗い出して言葉にして検証する、という一般的な進め方はステートメント全般の作り方5ステップに譲ります。

大事なのは工程の名前ではなく、各工程で必ず起きる詰まりどころです。そこを先に知っておくと、進行がずいぶん楽になります。

1. 誰に向けて書くかを一人に絞る

最初にやるのは、この文章を読む人を決めることです。ここを飛ばすと、あとの全部がぼやけます。

「お客様と社員と株主と地域社会」のように全員を対象にすると、全員に向けた言葉、つまり誰にも刺さらない言葉になります。まず一人決める。他の人にも届くならそれは結果です。

詰まりどころ: 社内で意見が割れます。営業は既存顧客を、経営企画は投資家を、人事は応募者を想定して話し始めるからです。

抜け方はひとつで、「この文章をどこに置くか」を先に決めることです。コーポレートサイトのトップに置くなら、そこに来る人が読者です。採用サイトに置くなら応募者です。場所が決まれば読者は自動的に決まります。用途の議論を先にやるほうが早い。

2. 機能価値と情緒価値を分けて書き出す

次に、自社が顧客に渡しているものを二種類に分けて書き出します。

機能価値は、実際にできること。早い、安い、壊れない、24時間対応する、といった事実です。情緒価値は、それによって顧客の気持ちがどうなるか。安心する、迷わなくなる、人に自慢できる、といったものです。

ブランドステートメントは、この二つを両方含みます。機能だけだとカタログの説明になり、情緒だけだと中身のない美文になります。

詰まりどころ: 情緒価値を出そうとすると、いきなり抽象的になります。「感動」「豊かさ」「笑顔」といった言葉が並び始めたら要注意です。

対策は、その言葉が出た瞬間に「具体的にどういう場面ですか」と聞くことです。「安心」なら、どの場面で誰が何に安心しているのか。場面まで降りると、その会社にしか書けない言葉が出てきます。

3. 社内の視点を顧客の視点に置き換える

ここが、ブランドステートメント作りでいちばん時間がかかるところです。

社内で出てくる言葉は、たいてい主語が自分たちです。「独自の技術で」「創業以来の理念に基づき」「業界に先駆けて」。これらは全部、書き手の側の話です。

顧客はそれを読んでも、自分に何が起きるのか分かりません。「独自の技術で」を「機械を止めずに交換できる」に変える。「創業以来の理念に基づき」を「10年後も同じ担当者が対応する」に変える。同じことを、相手に起きることとして書き直す作業です。

詰まりどころ: 社長の言葉をそのまま使ってしまうことです。

創業の思いを聞くと、たいてい良い話が出てきます。それを尊重するあまり、社長の語り口をそのまま文章にしてしまう。すると、社内の人には響くのに、顧客には何のことか分からない文章になります。社長の話は素材であって、完成品ではありません。素材として扱う許可を、最初に社長からもらっておくといいです。

4. 一言に圧縮してタグラインを作る

ステートメントができたら、それを一言にします。ここで作るのがタグラインです。

順番が逆になることがよくありますが、先に一言を作ってから説明文を書くと、たいてい説明文がこじつけになります。長い文章のなかで何が中心かを見つけて、それを短くするほうが素直です。

詰まりどころ: 短くする過程で、その会社らしさが抜けていきます。

「未来へ」「共に」「新しい価値を」といった、どこの会社でも使える言葉に着地しやすい。短くしたあと、必ず他社名を入れて読み返してください。他社名でも成立するなら、それは圧縮しすぎです。

誰が書くか。社内、コピーライター、ブランディング会社

外に頼むかどうかで迷う方が多いので、三つの選択肢を並べます。先にことわっておくと、以下の期間と費用は、私たちがブランドや理念づくりの案件で見聞きしてきた範囲での目安です。公表された相場調査があるわけではないので、幅のあるものとして読んでください。

社内で書く

成果物: ステートメント本文とタグライン。デザインは含みません。

期間: 2か月から半年。内訳の目安は、経営陣への聞き取りに2週間、顧客への聞き取りに2週間、書いて直すのに1か月ほど。そこに社内の意思決定が加わり、他の業務と並行するので、止まる期間が出やすいです。

費用: 人件費のみ。

向いている会社: 経営者が言語化に強い会社。社員数が50人以下で、全員に話を聞ける規模の会社。すでに理念があり、それを社外向けに言い直すだけで済む会社。

注意点: 社内でやると、決め手がなくて終われないことがあります。誰の案を採るかで角が立つのを避けて、全員の意見を足した無難な文章に着地しがちです。最初に「最終決定は社長がする」と決めておくと、この事故は減ります。

コピーライターに単独で頼む

成果物: ステートメント本文とタグライン。会社によっては複数案の提示と、選定のための打ち合わせまで。

期間: 1か月から2か月。

費用の目安: 一言のコピーだけなら10万円前後から頼めますが、ヒアリングを重ねてステートメントとして仕上げてもらうと数十万円になります。実績のあるコピーライターや、調査から入るケースではさらに上がります。金額の幅は依頼範囲でかなり変わるので、詳しくは理念策定の費用と外注の相場の記事にまとめています。

向いている会社: 何を言いたいかは決まっていて、言い方だけ困っている会社。社内に材料がそろっている会社。

注意点: 素材を出すのは自社の仕事になります。「いい感じにしてください」と丸投げすると、そのコピーライターの得意な型に寄った文章が返ってきます。良し悪しではなく、自社らしさが薄まるという意味です。

ブランディング会社に頼む

成果物: 調査、コンセプト設計、ステートメント、タグライン、ロゴやデザインの規定、使い方のガイドラインまで。範囲は契約によります。

期間: 3か月から1年。

費用の目安: 制作が中心なら100万円台から。戦略の設計や浸透の支援まで含めると数百万円になります。規模と範囲によって上下します。

向いている会社: 事業が複数あって整理から必要な会社。ロゴやサイトも同時に作り替える会社。社内に推進できる人がいない会社。

注意点: 成果物が多いぶん、どこまでが契約範囲かを最初に確認してください。特に、できあがったあとの運用支援が入っているかどうか。ここが入っていないと、立派な資料が納品されて終わり、ということが起きます。

選び方

分かれ目は、材料が社内にあるかどうかです。材料があって言い方だけの問題ならコピーライター。何を言うかから決めるならブランディング会社。理念があってそれを言い直すだけなら社内でも十分です。

できあがった文章を自分で判定する

案が出てきたとき、それをどう評価すればいいか。ここがいちばん困るところだと思います。「なんとなくいい気がする」以外の判断基準を持っておくと、社内の議論が空中戦になりません。

五つの質問で見てください。

1. 社名を他社に置き換えても成立しないか

いちばん効く質問です。文章のなかの社名を競合の名前に変えて読み返す。それでも通ってしまうなら、その文章は自社のものではありません。

「お客様第一」「変化の激しい時代に」「社会に貢献する」といった言葉が多いほど、置き換えが効いてしまいます。

2. 顧客が読んで、自分への約束だと分かるか

書いてあることが、読んだ人の身に起きることとして書かれているか。「私たちは挑戦を続けます」は書き手の話です。読み手には何も起きません。

社外の人に読んでもらうのが早いです。取引先でも、家族でもいい。「これを読んで、この会社に何を期待しますか」と聞いてみる。期待が言葉にならないなら、届いていません。

3. 実態が伴わない約束をしていないか

書いた内容を、来月から実行できるか。できないことを書くと、顧客との接点で必ず矛盾が出ます。

たとえば「24時間、いつでもお応えします」と書いたのに電話が夜つながらない。「一人ひとりに合わせた提案」と書いたのに営業資料が全社共通のまま。こうなると、文章があることで逆に信用を減らします。

理想を書くこと自体は悪くありません。ただ、理想を書くなら、そこに近づくための行動を同時に決めてください。

4. 社員が自分の言葉で言い換えられるか

これは公開前にやってみる価値があります。何人かの社員に読んでもらって、「これ、要するにどういうこと」と聞く。

返ってくる言葉がばらばらなら、まだ焦点が定まっていません。だいたい同じ方向の言い換えが返ってくるなら、その文章は伝わる形になっています。

5. 誰も反対しない文章になっていないか

これは他の四つと少し性格が違います。

会議で全員が「いいと思います」と言った案は、たいてい何も言っていない案です。角が立たない言葉を選び、どの立場からも否定できない表現に整えると、最後には一般論だけが残ります。

私たちが仕事で大事にしているのは、誰も反対しない言葉は誰の心にも残らない、という考え方です。ブランドステートメントは、何かを選ぶ文章です。選ぶということは、選ばなかったほうを捨てるということです。全部を拾おうとした文章は、読んだ人の記憶に何も残しません。

社内で少し引っかかる人がいる案のほうが、外では効くことがあります。もちろん、ただ尖っていればいいわけではありません。実態から離れていないか、という3番目の質問と合わせて見てください。

作った後、どこで使うか

ブランドステートメントは、掲げて終わりではなく、顧客と接する場所に置いてはじめて意味が出ます。使いどころを具体的に挙げます。

コーポレートサイト。 いちばん多い置き場所です。トップページの上のほうか、企業情報のなかに専用ページを作るかの二択になります。実例で見たとおり、12社のうち9社は企業情報の配下に置いていました。専用ページを作る場合は、タグラインとセットで載せるのが一般的です。

サービスサイトやランディングページ。 ここでは全文ではなく、中心の一文だけを使うことが多いです。商品の説明の前に置いて、会社としての立ち位置を示す使い方になります。

会社案内、パンフレット。 見開きの最初に置く形。紙は読まれる順番が決まっているので、ウェブより効きます。

パッケージ、広告、採用サイト。 商品ブランドならパッケージや店頭が本番ですが、長い文章を印刷できる面積はほぼないので、タグラインを載せて詳しくはウェブへ、という組み立てになります。広告も同じで、最後に出るのはタグラインです。ステートメント本体はブランドムービーのナレーションなどに使われます。採用向けには別のステートメントを立てる会社もあります。顧客向けの文章をそのまま出しても、応募者にはピンと来ないことがあるからです。

営業資料の表紙や冒頭。 地味ですが、これが一番使われます。営業が毎回説明することが決まっていると、伝わり方がぶれません。

社内への広げ方については、理念浸透の方法と施策の記事で扱っています。

よくある質問

タグラインと両方必要ですか

両方あるほうが使いやすいです。役割が違うからです。

タグラインは覚えてもらうためのもの、ステートメントは理解してもらうためのものです。広告やロゴまわりではタグラインだけを使い、サイトや会社案内では両方を並べる、という使い分けになります。

ただし、片方しかない会社もたくさんあります。予算や体制が限られているなら、まずタグライン一本でも始められます。

途中で変えていいですか

変えていいです。事業が変わったのに文章が昔のままだと、そのほうが問題です。

見直しの頻度について、目安の年数を示した調査は見当たりません。実際に見直しが起きるのは、事業内容が大きく変わったとき、社名を変えたとき、周年のタイミングです。

ひとつだけ気をつけたいのは、変える理由を社内に説明することです。担当者が代わるたびに文言が変わる会社は、社員がどれも覚えなくなります。

BtoBでも必要ですか

BtoBのほうが効く場面があります。

BtoBは検討期間が長く、複数の人が関わって決まります。担当者が社内の上長に説明するとき、「この会社はこういう考え方でやっている」と言える材料があると通しやすい。ステートメントは、その材料になります。

また、BtoBは商品の違いを説明しにくい業界が多いです。仕様表で並べると差がつかない。そこで、何を大事にしている会社なのかが判断材料になります。

まとめ

ブランドステートメントは、顧客に何を約束するのかを、まとまった文章で書いたものです。一言のコピーであるタグラインとは、長さも役割も違います。

日本企業の実物を集めると、同じ名前で8文字から390字までが並んでいました。まとまった文章型の12社に限ると、38字から390字、中央値は185字です。そして伝わる文章には共通のかたちがあります。誰に向けて、何を約束し、どんな態度でやるのか。この三つが入っていて、抽象的な言葉で終わらずに具体的な場面まで降りていることです。

作る前には、自社に必要かどうかを決めてください。できあがった文章を来週どこに載せるか、が答えられないなら、まだ作る時期ではありません。できた案は、社名を他社に置き換えて読んでみる。それでも成立するなら書き直したほうがいい。全員が賛成した案ほど、何も言っていない可能性があります。

参照した一次情報

この記事で原文を引用・参照した企業の公式ページです。いずれも執筆時点で掲載を確認しています。