自社のWHYの見つけ方|経営者のための実践5ステップとワークシート

「ゴールデンサークル理論はわかった。WHYから始めるべきなのもわかった。で、うちのWHYはどうやって見つけるのか」

この記事は、その問いに答える実践編です。理論の解説は最小限にして、自社のWHYを見つけるための具体的な手順だけを書きます。ストーリーを集めるワークシート、掘り下げるための問いリスト、ステートメントの書式と例文、できあがった言葉の品質テストまで、この記事の中でひと通りそろいます。

読み終えたら、今日からワークを始められる状態になる。それがこの記事の約束です。所要時間の目安は、全体で3週間ほど。といっても、机に向かうのは1週目のワーク(合計3〜4時間)だけで、残りの2週間は日常の仕事の中で試す期間です。

WHYとは──ゴールデンサークル理論の要点だけ

WHYとは、サイモン・シネックが提唱した概念で、「自社がなぜ存在するのか」という存在理由のことです。シネックは、企業の伝え方をWHY(なぜ)・HOW(どうやって)・WHAT(何を)の三層で説明し、人を動かす企業はWHYから語ると論じました。

ここで押さえておくべき要点は2つだけです。

1つ目。WHYは「儲けるため」ではありません。利益は結果であって、存在理由ではないというのがシネックの立場です。

2つ目。WHYは未来に向かって「作る」ものではなく、過去の中から「掘り出す」ものです。シネック自身も、WHYは自分の来歴の中にすでにあると繰り返し述べています。この前提が、後で紹介する5ステップの土台になります。

理論の全体像、Appleの事例、この理論への批判については、ゴールデンサークル理論の詳細を解説した記事にまとめてあります。理論を確認したい方はそちらをどうぞ。この記事は、その先の「見つけ方」に集中します。

なぜ自社のWHYは見つからないのか──3つのつまずき

WHYの見つけ方を間違える会社には、共通のつまずきがあります。先に知っておくと、ワークの途中で軌道修正できます。

つまずき1:WHATから考えてしまう

「うちは金属加工の会社だから、WHYはものづくりへの貢献かな」。この考え方は、事業内容(WHAT)から逆算してWHYをでっち上げています。順番が逆です。

WHATから作ったWHYは、今の事業を説明するだけの言葉になります。それでは「なぜ他社ではなくうちなのか」に答えられません。WHYは事業の説明ではなく、事業を選ぶ前からその人の中にあった動機です。

つまずき2:強みの列挙になる

「技術力」「対応の速さ」「品質へのこだわり」。これらは強みであってWHYではありません。強みはHOWかWHATに属するもので、「なぜそこにこだわるのか」というもう一段深い層がWHYです。

強みとWHYの混同は、WHY探しでいちばん起きやすいつまずきです。強みの列挙で止まったら、「なぜ、その強みを持つに至ったのか」と問い直してください。

つまずき3:きれいごとで終わる

「社会に貢献する」「お客様の笑顔のために」。間違ってはいません。ただ、どの会社が言っても成立する言葉は、自社のWHYとしては機能しません。

私たちは仕事として企業の理念づくりを支援していますが、その現場で見てきた限り、正しさから作ったWHYは、発表の場では納得されます。でも、その後の日常で参照されません。会議で誰も引用しない。判断に迷ったとき、誰も思い出さない。

日常の判断にまで持ち込まれるのは、経営者や社員の中にもともとある衝動——「これが許せない」「これがやりたくてたまらない」——とつながった言葉だけです。きれいごとには衝動がありません。だから残らないのです。

準備──誰と、どうやるか

ワークに入る前に、進め方を決めます。ポイントは「一人でやるか、誰かとやるか」です。

原則はパートナーと。シネックらの推奨

シネックが共著者らと書いた実践書『FIND YOUR WHY あなたとチームを強くするシンプルな方法』(サイモン・シネック、デイビッド・ミード、ピーター・ドッカー著)では、WHY探しにはパートナーが必須とされています。条件は、好奇心が強く、聞き上手であること。一方で、配偶者や親友、親族のような近すぎる相手は、あなたの話を客観視できないため不向きとされています。

社外の友人、経営者仲間、士業の知り合いなどで、この条件に合う人がいれば頼んでください。社内のナンバー2も、あなたの話を「知っているつもり」で聞いてしまうので、実は向いていません。

一人で始める場合の代替手順

とはいえ、ちょうどいいパートナーがいない。中小企業の経営者なら、それが普通だと思います。原書はパートナー必須の立場ですが、一人でも進め方はあります。次の3つで、聞き手の役割を代替します。

そしてもうひとつ、大事な前提を伝えさせてください。創業経営者が意思決定の中心にいる会社なら、「経営者個人のWHY」と「自社のWHY」を分けて考える必要は、ほとんどありません。会社の意思決定の癖、こだわり、断ってきた仕事。それらはすべて経営者個人の衝動から出ています。つまり、あなた個人の個人史が、そのまま自社のWHYの原石です。「会社のWHYを探さなきゃ」と構えず、自分の話をしてください。

担当者が進める場合・後継経営者の場合

この記事の読者には、経営者本人ではなく理念づくりを任された担当者の方や、会社を継いだ2代目・3代目の経営者もいるはずです。その場合は、次のように読み替えてください。

自社のWHYを見つける5ステップ(ワークシート付き)

ここからが本編です。5つのステップを順に進めます。ベースはシネックらの『FIND YOUR WHY』のプロセスですが、一人でもできる形に組み直してあります。

ステップ①:ストーリー収集──「山と谷」の年表を作る(所要60分)

最初にやるのは、分析ではなく思い出す作業です。創業前も含めた自分の仕事人生を振り返り、感情が大きく動いた出来事を10個前後書き出します。『FIND YOUR WHY』で「山と谷」と呼ばれる方法です。

そのまま使えるワークシートはこの形です。

いつ 何があったか 感情の振れ(+5〜−5)
例:2015年 大口の取引先に値下げを断り、契約を切られた −4

コツは3つあります。第一に、成功体験だけでなく谷(怒り・悔しさ・喪失)を必ず入れること。山の話は外向けに取り繕えますが、谷の話は取り繕いがききません。だからWHYの原石は、山より谷に埋まっていることが多いのです。第二に、「会社として正しい出来事」ではなく「自分の感情が動いた出来事」を選ぶこと。第三に、この段階では意味づけしないこと。並べるだけで終えてください。

ステップ②:問いで掘る──10の問いリスト(所要60〜90分)

年表ができたら、問いを使って掘り下げます。以下の10問に、書くか、録音で答えてください。全部でなくて構いません。答えながら手が止まらない問い、逆に答えたくない問いこそ、鉱脈です。

怒りを掘る問い

  1. 創業のとき(継いだ方は、継ぐと決めたとき)、何に腹を立てていましたか。何が許せませんでしたか
  2. 同業他社の仕事ぶりを見て「それは違うだろう」と感じるのは、どんな瞬間ですか
  3. 社員の行動で、他のことは許せても、これだけは本気で叱る、というものは何ですか

衝動を掘る問い
4. 儲けを度外視してでも、やってしまった仕事はありますか。なぜやったのですか
5. 逆に、儲かるのに断った仕事はありますか。何が引っかかりましたか
6. 誰にも頼まれていないのに、気づくとやってしまっていることは何ですか

記憶を掘る問い
7. お客様に言われた言葉で、今も覚えているものは何ですか。なぜそれが残っているのですか
8. この仕事を辞めなかった理由を、家族に説明するとしたら何と言いますか

存在を掘る問い
9. 会社がなくなったとき、世の中から消えて困るものは何だと思いますか
10. あなたの会社の仕事で、「うちがやらなければ、たぶん誰もやらない」部分はどこですか

答えが出たら、それぞれに「それはなぜですか」をもう一回だけ重ねてください。私たちの経験では、一回目の答えは説明で、二回目の答えに本音が出ます。ここでも、立派な答えを出そうとしないことが大事です。「安売りする同業に腹が立つ」でいい。怒りや偏りこそが素材です。

ステップ③:テーマ抽出──繰り返し現れる言葉を見つける(所要30分)

ステップ①②で書いたものを、翌日以降に全部読み返します。そして、繰り返し出てくる言葉・場面・感情に印をつけてください。

印をつけたものを、2つの箱に仕分けます。

影響の箱がなかなか埋まらないときは、年表の各出来事に「その結果、お客様や相手はどうなったか」を一行ずつ書き足してから、ここに戻ってきてください。

それぞれの箱から、いちばん繰り返し出てきたものを1つずつ選びます。3つも4つも選びたくなりますが、こらえて1つずつ。絞れないときは「谷のエピソードに登場したか」を基準にしてください。

ステップ④:ステートメント下書き──書式に流し込む(所要30分)

『FIND YOUR WHY』のWHYステートメントは、次の1文の書式で書きます。

「A(貢献)することで、B(影響)になる」

ステップ③の貢献の箱からA、影響の箱からBを入れます。たとえば「仕事の裏側を全部見せる」+「安心して任せられる」なら、「仕事の裏側をすべて見せることで、お客様が安心してものづくりを任せられるようになる」。

この段階では下手でいいです。むしろ、きれいに整えないでください。3案ほど書いて、全部残しておきます。書いた3案は、後の章「WHYステートメントの書き方と例文」の原則でひと通り磨いてから、次のステップ⑤のテストにかけてください。

ステップ⑤:寝かせて検証──2週間の実地テスト(所要2週間)

下書きができたら、すぐに確定させず2週間寝かせます。ただ待つのではなく、日常の判断場面でテストします。

やることは1つ。この2週間に発生した実際の意思決定——受注するか断るか、誰を採用するか、クレームにどう対応するか——のたびに、その判断の直後に「下書きしたWHYを思い出したか、判断の役に立ったか」を振り返ってメモする。 それだけです。大事なのは順番で、判断の前に下書きを見返してはいけません。それでは「自然に浮かんだかどうか」が測れなくなります。

一度も思い出さなかった案は、正しくても捨ててください。頭で作った言葉です。逆に、判断の場面でふと浮かんだ案は、あなたの衝動とつながっています。それが残すべき案です。

3案とも一度も思い出さなかったら、ステップ③に戻って箱の中身を選び直してください。選んだテーマが、あなたの衝動から少しずれていたということです。また、2週間で大きな判断が起きない時期もあります。その場合は、この1年の大きな判断——断った仕事、揉めた案件、迷った採用——を3つ思い出し、「あのときこのWHYがあったら、判断の支えになったか」を追体験でテストしてください。

WHYステートメントの書き方と例文

ステップ④で書いた下書きを磨くための、書き方の要点と例文です。使いどころは④の直後、⑤のテストの前です。

書式のおさらいと3つの原則

書式は「Aすることで、Bになる」。原書の英語では "To A so that B" です。磨くときの原則は3つあります。

業種別の例文

あくまで書き方の見本です。そのまま使うと他社のWHYになるので、構造だけ参考にしてください。

添削プロセス──悪い例はこう直す

実際の直し方を、架空の食品メーカーの例で見てみます。

悪い例:「食を通じて社会に貢献し、人々を笑顔にする」

「食を通じて」はWHAT(事業内容)の言い換え、「社会に貢献」「笑顔に」は、つまずき3で見たきれいごとです。この会社の衝動が1ミリも入っていません。

直し方。 この会社の経営者にステップ②の問いを当てたところ、「原材料表示をごまかす同業のニュースに本気で腹が立つ」「儲からないのに産地見学会を続けている」という答えが出たとします。怒りは「隠すこと」、衝動は「見せること」に向いています。

良い例:「作る過程を隠さず全部見せることで、買う人が自分の目で選べるようになる」

「社会」も「笑顔」も消えました。代わりに、この会社にしか言えない言葉になっています。添削とは、立派にすることではなく、その会社の怒りと衝動が透けて見えるまで一般論を削ることです。

見つけたWHYの品質テスト──3つの問い

ステートメントができたら、確定前に3つのテストにかけます。私たちが実務で使っている基準です。

テスト1:トレードオフが入っているか

できあがった文を読んで、こう自問してください。「このWHYを守るために、うちは何を後回しにすることになるか」。

たとえば先ほどの「作る過程を隠さず全部見せることで、買う人が自分の目で選べるようになる」。見せるには手間がかかります。効率やスピードは、ある程度後回しになります。効率最優先の人なら「そこまでやる必要があるのか」と反対するでしょう。それでいい。何かを大事にするとは、別の何かを後回しにすることです。

逆に、何も後回しにしない言葉は、何も選んでいません。誰も反対しない言葉は、誰の心にも残らないのです。反対する人の顔が浮かぶステートメントだけが、判断の基準として機能します。

テスト2:社名を隠して、社員が当てられるか

ステートメントから社名を伏せて、社員に見せてみてください。「これ、うちの言葉だと思うか」と。

「どこの会社でも言えそう」と返ってきたら、まだ一般論です。逆に「ああ、社長が言いそう」「あの仕事のときのあれですよね」と具体的な場面につながったら、合格です。このテストは、きれいごと(つまずき3)を最終検知する仕組みでもあります。

テスト3:もう一段「なぜ」を掘れるか

できあがった文に、もう一度「それはなぜ?」と聞いてみます。すらすら答えが出るなら、その答えの方が本当のWHYに近いかもしれません。掘り直してください。

逆に、「なぜと言われても……そういうものだから」と言葉に詰まったら、底に着いています。理屈で説明しきれない、でも譲れない。その手応えがあるものが、衝動とつながったWHYです。納得はされるが参照されない言葉と、理屈を超えて判断に持ち込まれる言葉の差は、ここで生まれます。

WHYを見つけた後にやること

WHYステートメントは、ゴールではなく始点です。やることは3つあります。

1つ目、経営理念の形に整える。 WHYステートメントは判断の核ですが、社外に掲げる理念としてはまだ原石です。ミッションやビジョンとの関係を整理しながら文書化する手順は、経営理念の作り方5ステップの記事にまとめています。そもそも経営理念とビジョンがどう違うのかを整理したい方は、経営理念とは何かを解説した記事が入口になります。なお、この段階から外部の専門家と一緒に進める会社も多くあります。相場観を知りたい方は理念策定を外部に依頼する場合の費用相場を参考にしてください。

2つ目、浸透させる。 額に入れて飾った理念は、飾られた時点で終わります。朝礼・評価・採用にどう組み込むかは、理念浸透の方法と施策の記事で具体策を紹介しています。

3つ目、日常の判断に使う。 これが一番大事です。受注の可否、採用の合否、値付け。迷ったときに「うちのWHYに照らすとどうか」と口に出す。経営者が使わないWHYを、社員が使うことはありません。ステップ⑤の2週間テストを、そのまま習慣にしてください。

まとめ

自社のWHYの見つけ方を、要点だけ振り返ります。

必要な道具は、この記事にすべて置きました。年表のワークシートに最初の1行を書くところから、今日始めてみてください。