組織風土とは?組織文化との違いと、変える前にやるべき「見立て」

「人が辞める」「新しい提案が出てこない」「理念を掲げたのに浸透しない」。制度は整えたはずなのに、何かがうまくいかない。その原因を探っていくと、多くの場合たどり着くのが「組織風土」です。

この記事では、組織風土とは何かをはっきりさせたうえで、混同されやすい組織文化・社風・企業風土との違いを整理します。さらに、診断ツールを入れる前に自分でできる「風土の言語化」の方法と、その風土を直すべきか・活かすべきかを見きわめる考え方まで解説します。

読み終わったとき、「うちの会社の空気」を自分の言葉で説明できるようになる。それがこの記事のゴールです。

組織風土とは何か——「職場の空気」に名前をつける

組織風土とは、その組織で働く人たちが日々感じ取っている「職場の空気」のことです。もう少しかたく言うと、社員の考え方や行動に影響を与える、その会社に特有の環境の性質を指します。

学術的には、ハーバード・ビジネススクールのリトウィンとストリンガー(1968年)が、組織風土を「その環境で働く人々によって直接的または間接的に知覚され、彼らの動機づけおよび行動に影響を及ぼすと考えられる、一連の仕事環境の測定可能な特性」と定義しています。長い定義ですが、分解するとシンプルです。

たとえば「会議で若手が発言しない」「稟議に判子が5つ必要」「失敗した人が次のチャンスをもらえない」。こうした一つひとつは小さな事実ですが、積み重なると「この会社では出しゃばらないほうが得だ」という空気になります。この空気が組織風土です。

ポイントは、風土が「誰かが決めたもの」ではないことです。就業規則には書かれていないのに、全員がなんとなく従っているルール。それが風土の正体です。

そしてもうひとつ。風土は空気のように見えますが、実は観察し、言葉にできる対象です。その方法は記事の後半、「自社の風土を言語化する方法」でくわしく扱います。

組織文化・社風・企業風土との違い

「組織風土」を調べると、必ずセットで出てくるのが「組織文化」です。結論から言うと、この2つは研究の系譜からして別物です。ただし実務では、厳密に分けることより「どう使い分けるか」のほうが大切です。順に説明します。

よくある説明——「文化は作れる、風土は自然にできる」

多くの解説記事では、次のように説明されます。

この説明は間違いではありませんし、実務のとっかかりとしては十分使えます。ただ、もう一段深く理解しておくと、風土の扱い方が変わります。

研究の系譜で見ると——「知覚」の風土と「前提」の文化

学術の世界では、風土(organizational climate)と文化(organizational culture)は別の研究分野として発展してきました。

風土研究は、先ほどのリトウィンとストリンガーに代表されるように、**社員が職場をどう感じているか(知覚)**を扱います。定義に「知覚され」という言葉が入っていたのは、このためです。感じ方なので、アンケートで測定できます。「上司に意見を言いやすいと感じるか」「挑戦が評価されると感じるか」といった問いに答えてもらえば、風土は数値になります。

一方、文化研究の代表は組織心理学者のエドガー・シャインです。シャインは組織文化を「共有された基本的仮定」と捉え、文化には3つの層があるとしました。

  1. 人工物:オフィスのレイアウト、服装、儀式、社内用語など、目に見えるもの
  2. 標榜される価値観:理念、行動指針、戦略など、言葉として掲げられているもの
  3. 基本的仮定:「うちの会社ではこうするのが当たり前」という、本人たちも意識していない無意識の前提

いちばん深い「基本的仮定」は、社員に聞いても出てきません。当たり前すぎて、本人が気づいていないからです。

つまりこう整理できます。風土は「社員が感じ取れるもの」、文化は「感じ取れないほど深く染み込んだ前提まで含むもの」。研究の系譜は別々に発展してきましたが、扱っている対象は重なっています。風土は文化という氷山の、水面から見えている部分だと考えるとイメージしやすいでしょう。

実務での使い分け——比較表

社風・企業風土も含めて、実務での使い分けを表にまとめます。

用語 中身 測れるか 実務でのニュアンス
組織風土 社員が日々感じている職場環境の性質 測れる(サーベイ・観察) 社内の課題を扱うときの言葉。「風通し」「挑戦しやすさ」など
組織文化 共有された価値観と、無意識の前提 深い層は測りにくい 理念・バリューの設計や浸透を扱うときの言葉
社風 風土・文化をまとめた日常語 対象外(日常語のため) 社外向け・カジュアルな場面の言葉。採用サイトなどで使う
企業風土 組織風土とほぼ同義 測れる 会社全体を指すときに使われやすい。意味の違いはほぼない

なお「企業風土」と「組織風土」は、指す範囲がわずかに違う(企業全体か、部署などの単位も含むか)程度で、実務上は同じものと考えて差し支えありません。

使い分けの目安はこうです。社員の「今の感じ方」を変えたいなら風土の話。会社の「価値観そのもの」を作り直したいなら文化の話。社内文書で用語を選ぶときは、この基準で選べば大きく外しません。

組織風土をつくっている要素

では、風土は何からできているのでしょうか。大きく3つに分けると整理しやすくなります。

ハード面——制度と構造

目に見える仕組みの層です。

ハード面は風土の「骨格」です。たとえば減点主義の評価制度がある会社で「挑戦する風土」が育つことは、まずありません。ただし、制度にできるのはここまでです。悪い制度は良い風土を壊せますが、良い制度を入れただけで良い風土ができるわけではありません。

ソフト面——人間関係と暗黙のルール

制度には書かれていない、人と人のあいだにある層です。

風土の正体に近いのは、実はこちらです。制度をいくら変えても、ソフト面が変わらなければ空気は変わりません。

メンタル面——一人ひとりの心の状態

最後に、社員それぞれの内側の層です。

メンタル面はハード面・ソフト面の「結果」として表れることが多い層です。あきらめが広がっている職場には、あきらめを学習させてきた制度や人間関係がたいていあります。

3つの層はつながっています。風土を考えるときは「どの層の話をしているのか」を意識すると、議論が空中戦になりません。

良い風土・悪い風土はどこに表れるか

風土は抽象的な概念ですが、表れる場所は具体的です。日常の4つの場面を見れば、その会社の風土はかなりわかります。

会議。良い風土の会社では、役職に関係なく反対意見が出ます。悪い風土の会社では、会議は「決まったことの確認の場」で、本当の議論は会議の前の根回しか、会議の後の廊下で行われます。

雑談。良い風土では、雑談の中に仕事のアイデアや相談が自然に混ざります。悪い風土では、雑談が会社への愚痴と噂話で埋まります。

稟議。良い風土では、決裁は「早く実行するための手続き」です。悪い風土では、稟議は「責任を分散させるための儀式」になり、判子の数がリスクの保険として増えていきます。

評価。良い風土では、挑戦して失敗した人と、何もしなかった人の評価に差がつきます。悪い風土では、失敗しないことが最も合理的な戦略になります。

風土を意図的に扱っている会社の例として、メルカリがよく挙げられます。同社は「Go Bold(大胆にやろう)」などのバリューを掲げ、日常の意思決定や評価の場面でバリューを判断基準として使うことで知られています。掲げた価値観を「壁の飾り」にせず、会議や評価という日常の場面に落とし込んでいる例です。

組織風土が引き起こす経営課題

風土の問題は、風土の問題として表面化しません。別の顔をして現れます。代表的なのは次の3つです。

離職。退職理由のアンケートに「風土が合わなかった」と書く人はほとんどいません。「キャリアアップのため」「家庭の事情」と書きます。しかし本音の部分では、「言っても変わらない」「頑張っても報われない」という空気に疲れて辞めていくケースが少なくありません。制度を整えても離職が止まらないとき、疑うべきは風土です。

エンゲージメントの低下。エンゲージメントサーベイのスコアが低い、しかも数年変わらない。この場合、個々の施策(1on1の導入、福利厚生の充実)では動きません。スコアの底にあるのは日々の職場の空気、つまり風土だからです。

理念が浸透しない。理念やバリューを刷新したのに、現場では誰も口にしない。これは理念の出来の問題ではなく、風土との不一致の問題であることが多いです。「挑戦」を掲げても、失敗が減点される風土のままなら、社員は理念ではなく風土に従います。理念と風土が矛盾したとき、勝つのは必ず風土のほうです。(理念が浸透しない原因と対策は理念浸透の方法と施策一覧|浸透しない原因は理念の側にあるでくわしく扱っています)

このほか、大企業病と呼ばれる「挑戦しない社風」や、不祥事の温床になる「言えない空気」も、根っこは風土にあります。逆に言えば、風土に手を入れることは、これらの課題にまとめて効く可能性があるということです。

自社の組織風土を言語化する方法

風土に課題がありそうだ、となったとき、多くの会社が最初に検討するのが組織診断ツールです。ツール自体は有用ですが、その前に自力でやれることがあります。むしろ、自力の観察をせずにツールを入れると、スコアを眺めて終わりになりがちです。

ここでは、コンサルタントが実際に使う観察と問いのセットを紹介します。必要なのはメモ帳だけです。

ステップ1:場面を観察する(1〜2週間)

前の章で挙げた4つの場面——会議・雑談・稟議・評価——を、評価を交えずに記録します。コツは「解釈を書かない」ことです。

事実だけを2週間ためると、それだけでパターンが見えてきます。

ステップ2:4つの問いを立てる

観察メモを前に、次の問いに答えてみてください。

  1. この会社で「やってはいけないこと」は何か。 就業規則ではなく、暗黙のタブーです。「社長の方針に人前で反対すること」「定時で帰ること」など、書かれていないのに全員が守っているルールを探します。
  2. この会社で「得をする振る舞い」は何か。 実際に昇進した人、可愛がられている人は、何をした人か。掲げられた評価基準ではなく、実際の結果から逆算します。
  3. 新人が最初に「学習」することは何か。 入社3か月の社員に「入ってみて、意外だったことは?」と聞くのが最も効きます。古参社員には見えない風土が、新人にはまだ見えているからです。
  4. 社内でよく使われる言葉、絶対に使われない言葉は何か。「とりあえず」「前例」「上に確認します」が多い会社と、「やってみよう」「誰がやる?」が多い会社では、風土がまったく違います。

ステップ3:一文にまとめる

最後に、観察と問いの答えを「うちの会社は、____な会社だ」という一文にします。きれいな言葉にする必要はありません。「怒られないことを最優先する会社」「仲は良いが、お互いの仕事に踏み込まない会社」。身も蓋もないほど、良い言語化です。

現場でこの作業をやると、経営者と社員で答えがずれることがよくあります。実は、そのずれ自体が最も重要な発見です。経営者が「風通しの良い会社」と言い、社員が「本音を言えない会社」と言うなら、そのギャップこそが風土の課題の中心にあります。

ここまでは、ツールなしでできます。そのうえで、規模が大きく全社の傾向を数値で押さえたい場合や、経年で変化を追いたい場合に、診断ツールを検討すれば十分です。

その風土、直すべき欠点か、活かすべき個性か

ここが、この記事でいちばん伝えたいことです。

風土について書かれた記事のほとんどは、「悪い風土を見つけて直す」という前提で書かれています。しかし現場で風土を見ていくと、この前提には落とし穴があることがわかります。欠点に見える風土の裏側には、たいてい強みが貼り付いているのです。

例を挙げます。

このとき、教科書どおりに「悪い風土」だけを切除しようとすると何が起きるか。副作用ごと強みを失います。意思決定の遅さを直そうとしてトップダウンを強めた結果、「全員でやり抜く」力まで失われた——という失敗は、風土改革では珍しくありません。

もうひとつ、実務でよく突き当たる壁があります。正しいだけの風土改革は、動かないということです。「風通しを良くしよう」「挑戦する組織になろう」。誰も反対しないスローガンは、誰の行動も変えません。反対されない言葉は、当たり障りがない分だけ、心にも残らないからです。

では、動く改革はどこから始まるのか。自社の風土の「個性」を見立てるところからです。順番はこうなります。

  1. まず、風土を良い・悪いで裁かずに言語化する(前の章の方法)
  2. その風土が「何を守ってきたのか」を考える。長く続いた風土には、多くの場合、その会社なりの合理性があります
  3. そのうえで、「守るべき個性」と「もう役目を終えた癖」を仕分ける

たとえば「石橋を叩く風土」を持つ会社なら、「慎重さを捨てて挑戦的になる」のではなく、「慎重さはうちの武器。ただし叩く回数を3回から1回に減らす」という改革のほうが、社員は動けます。自分たちの来歴を否定されていないからです。

風土は、会社の「らしさ」の源泉でもあります。直す前に、見立てる。この順番を間違えないことが、風土に向き合ううえでいちばん大事なことだと考えています。

変えると決めたら——風土が変えにくい理由と、動かす順番

見立てた結果、「この部分は変える」と決めたとします。ここで知っておきたいのは、風土がなぜ変えにくいかです。

理由は主に3つあります。第一に、風土は誰かが決めたものではないので、「決め直す」という操作ができないこと。第二に、風土はその環境で得をしてきた人たちの行動に支えられており、変化には静かな抵抗が伴うこと。第三に、シャインの言う「基本的仮定」のレベルは無意識なので、本人たちに変えている自覚を持たせにくいことです。

だからこそ、順番が重要になります。基本のステップだけ要約しておきます。

  1. 現状の言語化:どんな風土か、何を守り何を変えるかを言葉にする(この記事の方法で着手できます)
  2. 経営陣の行動から変える:風土はトップの日々の振る舞いを映します。メッセージより先に、会議での反応や決裁のスピードなど、経営陣自身の行動を変えます
  3. 制度を風土に揃える:掲げる方向と評価・決裁のルールの矛盾をなくします。「挑戦しろ」と言いながら判子が5つ必要なままでは、社員は理念ではなく制度のほうに従います
  4. 小さな成功を見えるようにする:新しい振る舞いをした人が実際に報われた事例を、社内に見えるかたちで示します

一般に、風土の変化は年単位の取り組みになります。改革の具体的な進め方や診断ツールの選び方は、それだけで1本の記事になるテーマなので、別の記事でくわしく扱う予定です。社内で推進するときにぶつかる壁とその越え方は、インナーブランディングの課題と解決策も参考になります。

組織風土は外から見えている

最後に、社内の話に閉じないもうひとつの視点を置いておきます。風土は、社外から見えています。

採用の面接で、候補者は面接官の質問の仕方、社員同士の目配せ、オフィスの空気から、その会社の風土を読み取っています。口コミサイトに書かれるのも、待遇の数字より「社内の空気」の記述です。つまり風土は、採用ブランディングの土台そのものです。

顧客にも伝わります。問い合わせへの返答の速さ、担当者がその場で決められる範囲、トラブル時の対応。顧客が「この会社は信頼できる」と感じるとき、実際に触れているのはその会社の風土です。

だからこそ、理念やブランドを「外向けの言葉」だけで作っても、風土と食い違っていれば外にはそのまま食い違いが伝わります。理念やブランドの価値を社内に浸透させていく取り組みは、インナーブランディングと呼ばれます。社内の風土と外に語る言葉を一致させることが、その狙いです。風土の言語化は、その出発点になります。進め方の全体像はインナーブランディング完全ガイドにまとめています。

まとめ・よくある質問

組織風土とは、社員に知覚され、動機づけと行動に影響を与える、測定可能な職場環境の特性のこと。平たく言えば「職場の空気」です。文化が無意識の前提まで含む深い概念であるのに対し、風土は社員が感じ取れる層を指します。

風土はハード(制度)・ソフト(人間関係)・メンタル(心の状態)の3層でできていて、会議・雑談・稟議・評価の場面に表れます。そして、ツールを入れる前に、観察と4つの問いで自力の言語化ができます。

いちばん大事なのは順番です。風土を欠点として直す前に、個性として見立てる。欠点の裏に貼り付いている強みを確かめてから、変える部分を決める。この記事がその第一歩になればうれしいです。

Q1. 組織風土と組織文化は、どちらが先にできるのですか?

きれいに順番が決まるものではなく、相互に影響し合いながら育ちます。あえて言えば、創業期には経営者の価値観(文化の種)が先です。それが日々の意思決定を通じて、社員の感じる空気(風土)になります。その空気の中で育った人たちが、次の価値観を強化していく。この循環なので、片方だけを変えることは難しく、両方をセットで見る必要があります。

Q2. 風土を変えるには、どれくらい時間がかかりますか?

会社の規模や変える範囲によるため一概には言えませんが、月単位ではなく年単位と考えておくのが現実的です。風土は長年の学習の積み重ねなので、上書きにも時間がかかります。ただし、経営陣の行動が変わると空気が変わり始めるまでは意外と早い、というのも現場でよくあることです。「完了までは長いが、手応えは早く出る」と捉えるとよいと思います。

Q3. 小さな会社でも組織風土はありますか?

あります。むしろ数十人規模の会社のほうが、経営者の個性がそのまま風土になっている分、風土の輪郭がはっきりしています。人数が少ないうちに風土を言語化しておくと、採用のミスマッチを減らせますし、組織が大きくなったときの「らしさ」の基準にもなります。規模が小さいことは、風土に向き合ううえではむしろ有利です。