【ホテル】ベッセルホテル開発:「自分たちは何者か」の再定義が、採用から事業・地域までを動かす。企業・事業ブランディング事例
株式会社ベッセルホテル開発は、採用の課題から始めた「自分たちは何者か」の再定義を、事業のブランド設計、顧客体験、地域との関わりまで一貫させることで、グループ全体の成長エンジンをつくりました。むすびが約10年にわたり伴走し、同社はグループ売上の85%以上を稼ぐ主力事業へと成長しています。ここでは、一つの問いがどのように企業・事業ブランディングへ広がったのかを、経営全体の視点で紹介します。
この事例のポイント
- 出発点は採用課題だったが、本質は「会社の主語」を定める企業ブランディングだった
- 「福山は、世界だ」という自己定義が、採用、インナー、ブランド事業へと連鎖した
- 2023年にホテルを5ブランドへ再編し、各ブランドの役割を社員自らが言語化して現場が自走を始めた
- 顧客満足はJDパワーなどの調査で「カテゴリー別日本一」、地域活動も継続し、選ばれる理由が積み上がった
- グループ売上の85%以上、営業利益の95%以上を稼ぐ主力へ。店舗は15から35超へ拡大した
目次
- 課題:財務も需要もあるのに、成長が止まっていた
- 足し算では、組織の軸は定まらない
- やったこと1:採用を入り口に「企業の主語」を定義する
- やったこと2:5ブランドへ再編し、役割を社員の言葉で描く
- やったこと3:顧客体験と地域との関わりまで一貫させる
- 効果:採用、事業、財務が同じ方向で伸びた
- 共鳴経済の視点で見ると何が起きたのか
- よくある質問(FAQ)
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課題:財務も需要もあるのに、成長が止まっていた
ベッセルホテル開発は、地方都市を中心にホテルを展開する企業です。創業百年を超える企業グループの一員で、客室稼働率は安定し、出店候補地も多く、財務も健全でした。次の一手を打つ体力は十分にある。それでも新しいホテルをつくれない。理由はただ一つ、「任せられる支配人がいない」ことでした。
ホテルの価値を生むのは建物ではなく人です。支配人は現場の文化をつくり、スタッフを育て、数字と現場の両方に責任を持ちます。その人材が育たない限り、出店計画は机上の空論で終わります。財務でも立地でも競合でもなく、「人材の質」が成長のボトルネックになっていました。多くの企業がこのとき採る打ち手は、求人広告の見直しや初任給の引き上げといった直接的メリットの提示です。しかしそれは、より手前にある問いを飛ばした対症療法でした。
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足し算では、組織の軸は定まらない
「何かが足りない」という前提で考え続けると、答えはいつも足し算になります。新しい研修、新しい制度、新しいルール。施策は積み重なるものの、組織の軸はいつまでも定まりません。判断軸が増えすぎて、経営陣も現場も判断が分散してしまうからです。
むすびが提案したのは、足し算ではなく掛け算でした。「どうやって人を集めるか」を問うのをやめ、「そもそも自分たちは何者か」から見つめ直す。会社の主語が定まれば、採用も、事業も、顧客への提供価値も、同じ一点から説明できるようになります。ベッセルホテル開発の変化は、この順番の入れ替えから始まりました。
やったこと1:採用を入り口に「企業の主語」を定義する
最初に取り組んだのは、ターゲット設定よりさらに手前、「自分たちは何者なのか」の言語化でした。地方に本社を置くビジネスホテルなのか、それとも全国や海外へ展開する意思を持った企業なのか。過去の歩みと現在の強み、これから目指す姿を、経営陣と社員の代表とともに徹底的に描き出しました。
「真面目」「堅実」「お客様第一」といった、どの会社でも言える言葉は残しません。「それはどの場面で表れるのか」「具体的なエピソードはあるか」と問い、体験に分解し、また概念へ戻す。この往復のなかで、社員自らが自社を象徴するフレーズにたどり着きます。「福山は、世界だ」。同社は当時すでにタイやミャンマーでの展開に動いており、挑戦のフィールドは世界へ広がっていました。地方に拠点を置くことと、世界に挑戦することは矛盾しない。外から与えたスローガンではなく、社員自身の言葉だったからこそ、現場が動き始めました。
やったこと2:5ブランドへ再編し、役割を社員の言葉で描く
採用で得た手応えは、事業のブランド設計へと引き継がれます。2023年、同社はホテルを「ベッセルホテル」「ベッセルイン」「カンパーナ」「レフ」「レクー」の5ブランドへ拡大しました。ここで再びブランディング戦略を見直し、採用課題の解決時と同じように社員の代表を招集してプロジェクトを立ち上げます。
各ブランドの役割を再定義し、強みを見つめ直すと、ブランドコンセプトに沿った新しい事業アイデアが現場から自発的に生まれ始めました。採用の際に「自社とは何者か」を言語化したのと同じ手つきで、各ブランドの役割を言語化する。定義が明確になれば、現場は指示を待たずに動けます。企業の主語を定める企業ブランディングと、各ブランドの主語を定める事業ブランディングが、同じ考え方で地続きになったのです。
ブランドの役割を社員の言葉で定義し、現場が自走する状態をつくる。その伴走がむすびの中核です。
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やったこと3:顧客体験と地域との関わりまで一貫させる
自己定義は、顧客と地域への向き合い方にも一貫して表れました。各ブランドの独自の価値が研ぎ澄まされることで顧客満足度が上昇し、国際的マーケティング会社「JDパワー」などの調査で「カテゴリー別日本一」を獲得します。価格や立地だけでなく、「このブランドだから泊まりたい」と選ばれる存在へと変わりました。
地域との関わりも続いています。グループでは、地域の清掃活動「わがまちきれい運動」を2025年度に104回実施し、1万3千人以上が参加しました。地元の文化ホールで開かれるコンサートには、毎年小中高校生を数百名招待しています。従業員が誇りを持てる会社、顧客が選ぶ理由のあるブランド、地域に必要とされる存在。三つの関係が同じ方向でつながることで、成長は一過性ではなく再現性のあるものになりました。
効果:採用、事業、財務が同じ方向で伸びた
会社の主語が定まった効果は、複数の指標に同時に表れました。採用では、内定を出す学生の顔ぶれが変わり、旧帝大や難関私大、海外の大学からの志望者が一気に増えます。近年は承諾の歩留まりも改善し、2026年卒は26名が入社、2027年卒は16名の入社が確定、内定承諾率は55%に達しました。
事業では、支配人を任せられる人材が増えたことで、経営陣が「新店舗を出せば成功する」という確信を持てるようになります。踏み切れなかった新規出店が次々と動き出し、店舗は15から35を超える規模へ拡大しました。財務では、ベッセルホテル開発がグループ売上約317億円のうち、売上の85%以上、営業利益の95%以上を稼ぎ出す主力事業へと進化します。創業百年を超える企業グループの中で、最も稼ぐ柱になったのです。採用、事業、顧客、地域、財務。すべてが「福山は、世界だ」という一点から説明できるようになったことが、この事例の本質です。
共鳴経済の視点で見ると何が起きたのか
共鳴経済とは、従業員と会社、従業員と顧客、従業員と求職者、それぞれの間に絆と言える強固な関係性、すなわち「共鳴」が生まれ、その関係性が持続的な主体性を生み、企業・従業員・顧客の三者が有形無形の財を得る経営の状態を指します。
ベッセルホテル開発では、支配人が育つ環境が整ったことで、従業員に「任される体験」が増えました。任されるとは、単なる権限移譲ではなく、理念に沿った判断を自ら下し、その結果を引き受ける経験です。この経験が「自分がこの会社を前に進めている」という実感を生み、その実感が顧客への提供価値を高め、地域への関わりを支えました。制度を足し続けるのではなく、会社の主語という一点に施策を掛け合わせる。だからこそ、トップや担当者が代わっても現場の行動が変わり続ける、再現性のある成長になったのです。
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よくある質問(FAQ)
Q. この事例は採用ブランディングと何が違うのですか。
A. 出発点は採用課題ですが、本質は「会社の主語」を定める企業ブランディングです。定めた主語を採用だけでなく、5ブランドの事業設計、顧客体験、地域との関わりまで一貫させた点が、採用単体の施策との違いです。
Q. 企業ブランディングと事業ブランディングはどうつながったのですか。
A. 企業の主語を「福山は、世界だ」と定義した手つきを、そのまま各ブランドの役割の言語化に応用しました。同じ考え方で地続きに設計したため、現場がブランドごとに自走を始め、新しい事業アイデアが生まれました。
Q. ブランディングは財務にどう表れましたか。
A. ベッセルホテル開発は、グループ売上約317億円のうち売上の85%以上、営業利益の95%以上を稼ぐ主力事業へ成長しました。店舗は15から35超へ拡大し、採用では2027年卒の内定承諾率が55%に達しています。
Q. 「共鳴経済」とは何ですか。
A. 従業員と会社、顧客、求職者の間に強固な関係性である「共鳴」が生まれ、それが持続的な主体性を生み、企業・従業員・顧客の三者が財を得る経営の状態です。制度を足し続けるのではなく、会社の軸に施策を掛け合わせる考え方です。
Q. この手法は自社にも応用できますか。
A. 業種を問わず応用できます。重要なのは、施策を足す前に「自分たちは何者か」を社員の言葉で定義し、その一点から採用・事業・顧客・地域までを一貫させることです。詳しくはお問い合わせください。
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