採用マーケティングと採用広報の違い|結論ほぼ同じ、本当の差は「計画」に出る

採用マーケティングと採用広報の違い|結論ほぼ同じ、本当の差は「計画」に出る

採用マーケティングと採用広報は、実務ではほぼ同じ意味で使われています。あえて厳密に分けても、両者はともに「応募者に届ける工程」に収れんする。本当に差が出るのは、その手前の「計画」です。計画の段階で戦略と共鳴を設計できた企業だけが、届ける段階で違いを生みます。

私は採用領域だけで1000社以上に関わってきました。その現場で、この2つの言葉の定義を厳密に分けることに意味を感じたことは、ほとんどありません。大切なのは言葉の切り分けではなく、どこで勝負が決まるかを知ることだ。本記事では、あえて4Pで厳密に分解したうえで、なぜ差が「計画」に出るのかを解説します。

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この記事の目次

  1. 採用マーケティングと採用広報は、実務ではほぼ同じ意味で使われている
  2. あえて厳密に分けるなら、マーケティングの4Pで採用を分解する
  3. 「広報」をどう捉えるかで、採用広報の意味は変わる
  4. 厳密に定義し、使いこなせている企業がどれだけあるか
  5. 結局、両者はともに「応募者に届ける工程」に収れんする
  6. 本当に差が出るのは「計画」。急がば回れ
  7. 計画に「共鳴」を仕込めた会社だけが、届ける段階で差を生む
  8. よくある質問(FAQ)
  9. まとめ

採用マーケティングと採用広報は、実務ではほぼ同じ意味で使われている

まず結論から。採用マーケティングと採用広報は、多くの現場でほぼ同じ意味で使われています。違いを厳密に論じる記事は多いのですが、実務上の境界はあいまいだ。

採用マーケティングは、応募者を消費者に見立て、認知から応募、入社までの態度変容を設計する考え方として語られます。採用広報は、自社の魅力や情報を応募者に届ける発信活動として語られる。並べてみると、どちらも「自社を知ってもらい、応募してもらうために伝える」という同じ目的を指しています。私自身、書籍の中でも両者をほぼ同じ意味の言葉として扱ってきました。言葉が2つあるだけで、やっていることは重なっているのです。

だからこそ、違いを暗記することに時間を使う必要はありません。それよりも、あえて厳密に分解したときに何が見えるか。そこに、実務で効く発見があります。

あえて厳密に分けるなら、マーケティングの4Pで採用を分解する

厳密に考えるなら、マーケティングの基本フレームである4Pに採用の要素を当てはめると整理できます。ただし、そのうち3つは採用広報の外側にある要素です。

マーケティングの4P 採用に置き換えると 採用広報との関係
Product(製品) 採用ツール、採用段階ごとの企画の完成度 広報の外。中身そのもの
Price(価格) あえて言えば給与や待遇 広報の外。条件そのもの
Place(流通) 採用フロー(応募から内定までの経路) 広報の外。設計そのもの
Promotion(販促) 採用広報とほぼ同一 ここが採用広報

この表が示すのは、4Pのうち採用広報に当たるのはPromotionの1つだけ、という事実です。プロダクトは採用ツールや、説明会・面接といった採用段階ごとの企画の完成度。プライスはあえて言えば給与。プレイスは応募者がたどる採用フロー。これらは伝える前に決まっている中身であり、広報の担当領域ではありません。

つまり採用マーケティングという言葉は、この4つ全体を含む広い概念であり、採用広報はそのうちのPromotion部分を指す。そう整理すると、両者は対立する概念ではなく、片方がもう片方を含む入れ子の関係だとわかります。採用の全体設計は、採用ブランディングとはの考え方とも重なります。

「広報」をどう捉えるかで、採用広報の意味は変わる

ここで一段深く考えると、「広報」という言葉の捉え方によって、採用広報の意味が2通りに割れます。この揺れが、混乱の正体だ。

広報を本来のパブリックリレーションズ(PR)として捉えると、それは無料で信頼を獲得する活動を指します。この立場に立つと、有料媒体をどう使うかという話は広報ではなく、Promotion(販促)の領域に移る。広報は本来お金を払わずに関係をつくる営みだから、有料になった瞬間に別のものになる、という理屈です。

一方で、実務で「採用広報」と言うときは、応募者に「どう伝えるか」という文脈になりがちです。無料か有料かを問わず、自社の魅力を言葉や写真や動画でどう届けるか。この使い方では、有料媒体の運用も採用広報に含まれます。

同じ「採用広報」という言葉が、厳密なPRの定義と、現場の使い方とで、指す範囲がずれている。だから議論がかみ合わないのです。私はこの揺れ自体を否定しません。ただ、どちらの意味で使っているかを自覚しないまま施策を組むと、力の入れどころを見失います。

厳密に定義し、使いこなせている企業がどれだけあるか

では、ここまでの区別を厳密に定義したうえで、有効に使いこなせている企業がどれだけあるでしょうか。私の実感では、ごくわずかだ。

多くの企業は、採用マーケティングという言葉を掲げながら、実際にはPromotion、つまり「どう伝えるか」だけに労力を集中しています。プロダクト(企画の完成度)、プライス(待遇)、プレイス(採用フロー)という残り3つは手つかずのまま、発信のテクニックだけを磨く。媒体を増やし、動画を作り、SNSを回す。けれど中身が変わっていないから、伝えるほどに「聞いていた話と違う」という不一致が生まれます。

言葉の定義に詳しいことと、採用が強いことは別物です。定義を暗記した企業ではなく、4つの要素を一貫して設計できた企業が勝つ。ここに、この記事の核心があります。

採用の4要素をどこから設計すべきか整理したい方は、無料相談からご相談ください。

結局、両者はともに「応募者に届ける工程」に収れんする

言葉を厳密に割っていくと、逆説的に見えてくることがあります。採用マーケティングも採用広報も、突き詰めれば「応募者に届ける工程」に収れんするということです。

呼び方が違っても、実行フェーズでやっていることは、決めた中身を、決めた相手に、決めた経路で届けること。この点では両者に本質的な差はありません。私たちの経営者302名を対象とした2026年の調査でも、採用の成果を分けていたのは、届ける段階の派手さではありませんでした。むしろ、その手前でどれだけ設計しているかが効いていた。採用ブランディング21の法則の実践度が、採用成果に与える影響はβ=0.43。この数字は、届け方のうまさよりも、届ける前の設計が成果を左右することを示しています。

つまり、届ける工程だけを比べても、大きな差はつかない。差は、もっと手前で決まっているのです。

本当に差が出るのは「計画」。急がば回れ

本当に差が出るのは、計画の段階です。急がば回れ。ここを考え抜いておくと、応募者に届ける段階で大きな違いになります。

計画とは、発信の前に決めておくべきことのすべてです。自社は何者か。誰に来てほしいのか。その人が本当に大事にしていることは何か。自社の強みと、来てほしい人の価値観が交差する一点はどこか。私はこの交差点を「ビクトリーゾーン」と呼んでいます。ここを定めずに発信だけを始めると、万人向けの薄いメッセージになり、誰の心にも残りません。

反対に、計画で勝負どころを決めた企業は、届ける段階のすべてが揃います。求人票の一行目も、説明会の最初の30秒も、面接官の最初の問いも、同じ一点に向かう。伝え方のテクニックではなく、伝える中身が最初から尖っているから、届いた瞬間に応募者の心が動く。私たちの調査では、理念への共感が採用成果を押し上げる関係は、2020年の540名でβ=.510、2025年の302名でβ=.734と、年々強まっています。しかも年収と共鳴度のあいだに正の相関はありませんでした。人を動かすのは条件ではなく、計画で仕込んだ意味なのです。

この計画の立て方は、「人が集まる中小企業の経営者が実践している、すごい戦略 採用ブランディング 新版」(WAVE出版)でも詳しく解説しています。
https://www.musubi-inc.co.jp/musubi-books/saiyou-branding-sugoi-senryaku-2024

計画に「共鳴」を仕込めた会社だけが、届ける段階で差を生む

計画の段階で最も重要なのは、誰と、何で共鳴するのかを決めておくことです。ここまで設計できた会社だけが、届ける段階で本物の差を生みます。

採用マーケティングも採用広報も、届ける工程である以上、手法はいずれ横並びになります。良い媒体も、良い動画も、誰でも真似できる。真似できないのは、計画に埋め込まれた共鳴の設計です。私が「共鳴経済」と名づけた考え方の中心には、この発想があります。自社の物語に社員が共鳴し、その社員の熱が応募者に伝わり、応募者が同志として入ってくる。この連鎖は、発信のテクニックではなく、計画の質から生まれます。

だから私は、差別化を追いかけないでほしいと言い続けています。差別化は、他社と違うことをやろうとして手に入るものではありません。自社は何者かを突き詰め、計画に共鳴を仕込み、それを一貫して届けた結果として、後から生まれるものだ。差別化は、追いかけるものではなく、結果として生まれるもの。この順序を取り違えないことが、採用マーケティングと採用広報という言葉の違いを超えて、いちばん大切なことです。

この共鳴の連鎖の全体像は、「共鳴経済 社員が"推す"会社が伸びる」(サンクチュアリ出版)に1冊かけて書きました。
https://www.musubi-inc.co.jp/musubi-books/kyomei-keizai

よくある質問(FAQ)

Q1. 採用マーケティングと採用広報は、結局どう違うのですか。
実務ではほぼ同じ意味で使われています。厳密に分ければ、採用マーケティングは4P(プロダクト・プライス・プレイス・プロモーション)全体を含む広い概念で、採用広報はそのうちのプロモーションを指します。片方がもう片方を含む入れ子の関係です。

Q2. どちらに力を入れるべきですか。
どちらの発信を磨くかより、その手前の計画に力を入れてください。私たちの調査でも、採用成果を左右するのは届ける段階ではなく、計画段階の設計でした(21の法則の実践度が採用成果にβ=0.43)。

Q3. 採用広報は無料のPRと有料媒体、どちらを指しますか。
広報を本来のパブリックリレーションズと捉えれば無料の活動を指し、有料媒体の運用は販促(プロモーション)に入ります。ただし実務で採用広報と言うときは、無料か有料かを問わず「応募者にどう伝えるか」を広く指すことが多いです。

Q4. 採用マーケティングの4Pとは何ですか。
プロダクトは採用ツールや採用段階ごとの企画の完成度、プライスはあえて言えば給与や待遇、プレイスは応募から内定までの採用フロー、プロモーションは採用広報とほぼ同一です。伝える前に決まる3つと、伝える1つに分かれます。

Q5. 差別化はどうやってつくればいいですか。
差別化を直接追いかけないでください。自社は何者かを突き詰め、計画の段階で誰と何で共鳴するのかを決め、それを一貫して届ける。差別化は、その結果として後から生まれます。

Q6. 中小企業でも同じ考え方でよいですか。
同じです。むしろ予算の限られる中小企業ほど、発信量の勝負では大手に勝てません。計画で勝負どころを1点に絞り、共鳴で選ばれる設計にすることが、最も費用対効果の高い戦い方です。

まとめ

採用マーケティングと採用広報の違いは、実務ではほぼ同じ意味であり、厳密に分けても両者は「応募者に届ける工程」に収れんします。本当に差が出るのは、その手前の計画です。誰と何で共鳴するのかを計画で決め、それを一貫して届けた会社だけが、届ける段階で違いを生む。差別化は追いかけるものではなく、結果として生まれるものだ。言葉の定義を暗記するより、計画に共鳴を仕込むこと。それが、この2つの言葉をめぐる議論の、最も実務的な答えです。

自社の採用を計画から設計し直したい方は、無料相談からご相談ください。1000社を支援してきた深澤了が、御社の勝負どころを一緒に描きます。

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著者プロフィール

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。学術論文7編(査読付き)。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても"光る人材"が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践している、すごい戦略 採用ブランディング 新版」(WAVE出版)。国立大学法人富山大学とウェルビーイングに関する共同研究「幸福を超える共鳴」。2025年、新理論「共鳴経済」を日本マーケティング学会にて発表。2026年「共鳴経済 社員が"推す"会社が伸びる」(サンクチュアリ出版)を刊行。