マーケティング発想で捉え直す採用コミュニケーション|「共鳴経済」から見た接点設計
マーケティング発想で捉え直す採用コミュニケーション|「共鳴経済」から見た接点設計
この記事は、『広報会議』2026年10月号 巻頭特集「マーケティング発想で捉え直す 採用コミュニケーション」『広報会議』2026年10月号 巻頭特集「マーケティング発想で捉え直す 採用コミュニケーション」に深澤了が寄稿した記事(3ページ)を、HP読者向けにさらに掘り下げた深掘り版です。共鳴を生む5要素の設計順序、内定後の体験設計、経営と現場の認識ギャップまで、誌面では書ききれなかった実務のポイントを加えて再構成しました。
採用コミュニケーションとは、採用サイトや説明会といった個々の施策のことではありません。誰に、何を、どう伝えるかを起点に、出会う前から入社後まで、候補者との接点全体を設計する営みです。今すぐ転職しない人も数年後の候補者になり得る時代に、企業には長い時間軸が求められます。その入口にあるのが、その企業ならではの「体験」です。
この記事の目次
- 採用コミュニケーションとは、点ではなく接点全体を設計すること
- 共感と共鳴は違う|同意で終わるか、行動が伴うか
- すべての入口は「体験」|5要素を正しい順番で設計する
- 入口をつくるのは、いつも「体験」から
- 内定後こそコミュニケーションが要る|承諾後辞退が増えている
- 人事と広報が同じ絵を見る
- 採用実態調査2026|経営者465名と現場200名、ズレるのは数、揃うのは順位
- よくある質問(FAQ)
- まとめ|長い時間軸で、企業と人の関係を設計する
自社の採用コミュニケーションを接点全体から設計し直したい方は、まず無料相談をご利用ください。1000社以上の支援実績から、最短の一手をお伝えします。
採用コミュニケーションとは、点ではなく接点全体を設計すること
採用コミュニケーションの出発点は、個々の施策ではありません。誰に、何を、どう伝えるかという設計思想です。
候補者が企業を知り、理解する接点は広がり続けています。採用サイト、求人媒体、会社説明会だけでなく、SNS、オウンドメディア、社員による発信、さらには生成AIまで。新卒やキャリアといった採用区分だけでなく、リファラルやアルムナイ、そして「今すぐ転職しない人」も、将来の候補者になり得ます。だからこそ、施策ごとに最適化するのではなく、誰に何をどう伝えるかを起点に接点全体を捉えることが要ります。その時すぐに応募へつながらなくても、企業への理解や関心を少しずつ育てれば、数年後の選択肢になる。採用コミュニケーションには、より長い時間軸が求められます。マーケティング発想とは、この長い時間軸で対象と接点を設計する思考プロセスです。
共感と共鳴は違う|同意で終わるか、行動が伴うか
採用コミュニケーションが目指すのは、共感の一歩先です。共感と共鳴は、日常ではほとんど同じ意味で使われますが、両者は明確に違います。
私が提唱している「共鳴経済」は、従業員を真ん中に置き、その従業員が求職者、組織、顧客と共鳴でつながっている状態を指す考え方です。ここで言う共感は、相手が言ったことに対して「ああ、そうだよね」とうなずき、同意する状態を指します。一方の共鳴には、行動が伴います。深く響いて、自分がどうするかというところまでのニュアンスが含まれる。うなずいてもらうことと、動いてもらうこと。その間にある隔たりを埋めるのが、その企業ならではの体験です。採用は、そもそもの構造からして共鳴だったと、私は後から腑に落ちました。候補者が大手に行きたいと考える中でも、わざわざ中小企業に応募し、自分の意志でそこを選ぶ。これは共感ではなく共鳴です。だから採用のとき、人は共鳴していたのだと気づきます。
すべての入口は「体験」|5要素を正しい順番で設計する
共鳴を生む要素は5つあります。しかも、この5つには役割の違いと、踏むべき順番があります。
私たちの調査では、共鳴を生む要素として、理念、歴史、デザイン、品質、体験価値の5つを挙げています。共鳴(ファン化)は、理念、歴史、デザイン、品質、体験価値が連関して生まれます。5要素は独立していて、それぞれに役割があります。デザインと体験価値は、まず気を引く「単独の入口」です。品質は、単独ではファンを生みませんが、信頼を支える「接着剤」です。理念と歴史は、この2つだけで惹きつけ、代替されない深い絆をつくる「奥座敷」です。最近の研究でわかってきたのは、5つの要素には順番があるということです。デザインと体験価値で気を引いて入口をつくり、品質で信頼を接着し、理念と歴史で絆に変える。この順番のコミュニケーションが、統計的にも成果が早いと私たちは考えています。歴史や物語が最もファンをつくるという事実は、拙い言い方を避けて言えば、実証データが示す構造です。人がファンになる理由を重回帰分析すると、歴史・文化・背景・由来のβ値が最も大きく、安さよりも歴史や物語のほうが強く人を動かします。
入口をつくるのは、いつも「体験」から
順番の話をしましたが、では入口の「体験」は、どう設計すればいいのか。ここを誤解している企業が少なくありません。
ここで言うデザインは、サイトの見た目だけではありません。説明会の資料、話す人の清潔感や話し方まで含めた、広い意味でのデザインです。大事なのは、決めたコンセプトがそこに貫かれているかどうかです。「20代の若者が、素直で元気な誰でもいい」といったざっくりしたペルソナのまま制作会社に依頼すると、「なんとなくいいデザイン」で見た目を整えてしまい、書いてある内容とデザインがばらばらになります。特にBtoBの無名企業や中小企業の場合、それではまったく印象に残りません。技術の話が必要になるのは、その段階からです。決めたコンセプトに社員が入って、品質が信頼を支え、社員も社長も役員もフィードバックする。社員が入ると、さらに満足度が上がります。フィードバックをきちんとやると、仕事内容だけでなく歴史やストーリーまで全部伝わる。どこまでいっても自分たちの話ですから、仮に同じ手法を使う会社が増えても、変わらず差別化が可能です。
5要素のどこから設計を始めるべきか、自社の入口を一緒に棚卸ししたい方は、この段階で一度無料相談をご利用ください。現状を伺い、順番を整理します。
内定後こそコミュニケーションが要る|承諾後辞退が増えている
接点設計は、内定を出して終わりではありません。むしろ、内定承諾の後にこそ、個別のコミュニケーションが要ります。
私たちの調査でも、内定承諾後の辞退がここ2年から3年で増えています。以前は8月に入れば辞退は少なかったのが、いまは9月になっても出てくる。内定が簡単には出ないようになり、暗い雰囲気を伴わずに知名度や規模で決めてしまう構造が背景にあります。放っておけば、辞退は起きます。多くの企業がここで実施するのは、バーベキューや懇親会です。飲み会をやるのは差別化になりませんが、その代わりに学びのコンテンツを必ず1つ入れると、印象が変わります。できれば月に1回、たとえば店舗を回ってレポートを出してもらい、それについて面談する。工場を回ってもらう、店舗見学をしてもらうという形でもいい。企業理解が進み、前後の個別対応が必然になります。避けたいのは、「最近どう」「他の内定先は増えた」といった問いかけです。候補者からすれば嫌なものですし、企業理解の観点からも適切ではありません。
人事と広報が同じ絵を見る
ここまでの設計を実行に移すとき、欠かせないのが人事と広報の連携です。ここが分かれている企業は、実に多いと感じます。
企業が大きくなると、採用サイトは広報が管理し、採用の観点が抜け落ちたまま同じ絵になっていない。すると採用チーム内で認識がばらばらになります。人事が実際に面接や説明会で話していることと、広報がつくるページの内容が一貫していなければ、話にはなりません。「今どういう話をしているのか」「サイトに何を載せようとしているのか」を、部署を越えて話せばいいだけの、とても簡単な話です。もうひとつは、現場で活躍している社員3人に話を聴くことです。「どういう気持ちで仕事をしているのか」「どんな工夫をしているのか」。この「なぜ」「どのように」は、その人の価値観を深掘りする魔法のワードです。3人でも共通点が見えてくればしめたもので、見えなくてもネタが拾えます。広報の方なら、それをフックにインタビュー記事をより深いものにできる。人事と広報が同じ絵を見て初めて、接点は一貫します。
採用実態調査2026|経営者465名と現場200名、ズレるのは数、揃うのは順位
接点設計の前段にあるのが、課題の棚卸しです。ここで私たちは、経営と現場の見え方に大きなズレがあることを確かめました。
私たちは採用実態調査2026で、全国の経営者・役員465名と、採用実務に関与する社員200名に、まったく同じ26項目の採用課題を尋ねました。結果、両者が食い違うのは「何が課題か」ではなく「課題をいくつ認識しているか」でした。新卒採用で「課題はない」と答えた割合は、経営者で29.6%、現場で14.8%。経営者のおよそ3割は、採用に課題を感じていません。課題1件あたりの選択数は、新卒で経営者1.84個に対し現場2.50個と、現場のほうが0.7個から0.8個多く挙げます。一方で、どの課題が上位に来るかという順位は、経営と現場でほぼ完全に一致し、相関は新卒で0.95、中途で0.89でした。差が最も大きかったのは「人事部以外の部署が協力してくれない」で、新卒で現場が8.6ポイント高く挙げています。説明会への参加、母集団形成、要件のあいまいさも、現場のほうが強く実感していました。何が問題かは共有できているのに、いくつ詰まっているかの見え方だけが違う。この構造は、共鳴経済の視点で採用を捉え直す出発点になります。詳しくは「共鳴経済 社員が"推す"会社が伸びる」(サンクチュアリ出版)に書きました。
https://www.musubi-inc.co.jp/musubi-books/kyomei-keizai
経営と現場の採用課題を両面から棚卸しし、接点設計につなげたい方は、無料相談をご利用ください。現状を伺い、最短の一手をお伝えします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 採用コミュニケーションとマーケティングは何が違いますか。
マーケティングを手法ではなく、課題や対象を定め、接点を設計し、社内で連携しながら実行と改善を進める思考プロセスとして採用に持ち込むのが、採用コミュニケーションです。個々の施策の最適化ではなく、出会う前から入社後まで接点全体を設計します。
Q2. 共感と共鳴は、どう違うのですか。
共感は「そうだよね」と同意する状態にとどまります。共鳴には行動が伴い、自分がどうするかまで踏み込みます。大手に行けたはずの候補者が、自分の意志で中小企業を選ぶ。この行動を伴う響き合いが共鳴です。
Q3. 採用コミュニケーションは何から始めればいいですか。
入口は「体験」からです。デザインと体験価値で気を引き、品質で信頼を接着し、理念と歴史で絆に変える。この順番で設計します。前提として、決めたコンセプトが資料や説明会の話し方まで一貫していることが要ります。
Q4. 内定承諾後の辞退を減らすには、何をすればいいですか。
承諾後に個別のコミュニケーションを設計します。バーベキューや懇親会だけでは差別化になりません。月に1回、店舗レポートや工場見学など学びのコンテンツを1つ入れ、企業理解を深める前後の対応につなげます。「他の内定先は増えたか」といった問いかけは避けます。
Q5. 人事と広報は、どう連携すればいいですか。
今どういう話をしているのか、サイトに何を載せようとしているのかを、部署を越えて共有します。採用サイトを広報が採用の観点抜きで管理すると、面接で話す内容とページが一貫しません。同じ絵を見て初めて、接点は一貫します。
まとめ|長い時間軸で、企業と人の関係を設計する
採用コミュニケーションは、出会う前から入社後まで、企業と人の関係を設計する営みです。個々の施策から考えるのではなく、誰に何をどう伝えるかを起点に、接点全体を捉える。共感の一歩先にある共鳴を生むために、デザインと体験価値で入口をつくり、品質で信頼を接着し、理念と歴史で絆に変える。内定後も個別のコミュニケーションを続け、人事と広報が同じ絵を見る。そして経営と現場の課題認識を揃える。この一貫性こそが、他社に真似できない採用コミュニケーションになります。
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著者プロフィール
深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。学術論文7編(査読付き)。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても"光る人材"が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践している、すごい戦略 採用ブランディング 新版」(WAVE出版)。国立大学法人富山大学とウェルビーイングに関する共同研究「幸福を超える共鳴」。2025年、新理論「共鳴経済」を日本マーケティング学会にて発表。2026年「共鳴経済 社員が"推す"会社が伸びる」(サンクチュアリ出版)を刊行。