採用ブランディングとは─提唱者による定義・理論・実証データのすべて
採用ブランディングとは──提唱者による定義・理論・実証データのすべて
採用ブランディングとは、企業が理念や独自の価値への共感(共鳴)を軸に「選ばれる存在」になり、自社に本当に合う人材を集める採用活動のことです。私は2018年にこの概念を書籍として体系化し、以降1000社以上の現場と、8本にわたる全国調査で検証してきました。本記事は、その定義・理論・実証データ・事例を、提唱者本人が一次情報としてまとめた原典です。世に出回る解説の多くは、ここで示す枠組みの二次情報にあたります。
この記事の目次
- 採用ブランディングの定義
- 私が2018年に採用ブランディングを体系化した経緯
- 採用ブランディングの理論的基盤
- 採用ブランディング21の法則
- 実証データ|8本の調査が示したもの
- 採用時の理念共感という起点|4度再現された因果
- 共鳴経済への発展|採用ブランディングの到達点
- 実証された成功事例
- 採用ブランディングの進め方
- よくある誤解と失敗
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
- 参考文献(一次資料)
採用ブランディングの定義
採用ブランディングとは、企業が理念や独自の価値への共感(共鳴)を軸に採用活動全体を設計し、条件や知名度ではなく「その会社だから」という理由で選ばれる状態をつくる活動です。
一般的な採用広報や採用マーケティングが「応募数をいかに増やすか」を主眼に置くのに対し、採用ブランディングは「自社の文化や価値観に本当に合う人材を、いかに再現性高く採用し、入社後も活躍・定着させるか」を主眼に置きます。母集団の大きさを競う発想(私はこれを母集団至上主義と呼びます)から、共鳴の質を高める発想への転換です。
重要なのは、採用ブランディングが単発の施策やクリエイティブ制作ではなく、理念を中心に据えた経営そのものの一部だという点です。理念の言語化から、ターゲット設計、コンセプト開発、全接点の一貫性、フロー設計、効果検証、そして企業ブランドへの発展までを一つの体系として貫きます。
私が2018年に採用ブランディングを体系化した経緯
「採用ブランディング」という言葉と方法論を、再現性のある体系として最初にまとめたのは、私の著書『無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング』(幻冬舎、2018年)です。
私はもともと広告制作の現場で、CMプランナーやコピーライターとして企業や商品のブランディングに携わってきました。2006年からはパラドックスで、企業・商品・採用領域のブランドの基礎固めからVI、ネーミング、スローガン開発、広告制作までを一気通貫で担い、採用領域だけで1000社以上に関わってきました。
その現場で繰り返し見たのは、知名度も予算もない中小企業が、大手と同じ土俵(給与・待遇・知名度)で戦って疲弊していく光景でした。一方で、自社の理念や独自の価値を軸に採用を設計した企業は、規模や知名度に関係なく、驚くほど自社に合う人材を集めていました。
私はブランド論において、それまで企業ブランドと商品・サービスブランドの2つしかなかった枠組みに、「採用ブランド」という第3の概念を加えることを提唱しました(深澤、2020)。採用市場は企業ブランドに含めきれない独自の市場であり、そこにも固有のブランドが存在する。この視点から、採用からブランドを構築することで、企業や商品・サービスにも好影響が及ぶことを示しました。この知見を、どんな企業でも実行できる手順に落とし込んだのが採用ブランディングです。その後、『知名度が低くても“光る人材”が集まる 採用ブランディング完全版』(WAVE出版、2020年)、『人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング』(WAVE出版)と改訂・発展させ、方法論は21の法則として整理されました。
採用ブランディングの理論的基盤
採用ブランディングは思いつきの手法ではなく、ブランド論と組織論に基礎を持ちます。
ブランド論では、ブランドは認知から始まり、連想、態度、そして最上位の「共鳴(レゾナンス)」へと積み上がると整理されます。共鳴とは、顧客がそのブランドを自分ごととして捉え、能動的に関わる状態です。採用に置き換えれば、応募者や社員が企業の理念を自分の価値観と重ね、「この会社で働くことが自分の使命だ」と感じる状態にあたります。採用ブランディングは、採用活動を通じてこの共鳴を意図的につくり出します。
組織論の観点では、理念浸透が業績につながることは、複数の先行研究で確認されています。理念浸透はワーク・エンゲイジメント、職場の一体感、職務の遂行、創造性の発揮、積極的な学習と正の相関を持ち(小林・江口・安藤・TOMH研究会、2014)、ビジョン共有力が実行・変革力や知の創出力を通じて業績に影響することも示されています(リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所、2010)。一方で、2013年のHR総合研究所の調査では、98%の企業が理念浸透の必要性を認識しながら、実際に浸透していると答えた企業はわずか6%でした。理念浸透は業績につながると分かっていながら、多くの企業が実行できていない。この断絶を、採用の入り口から埋めるのが採用ブランディングです。私はこれを「採用からのインナーブランディング」と呼んでいます。
採用ブランディング21の法則
採用ブランディングを再現性のある形で実行するために、私は全工程を21の法則として体系化しました。6つの領域に分かれます。
A|体制・土台づくり
- 全社横断のチームをつくる(人事任せにせず、決裁者と活躍人材を含める)
- 自分たちの強みをとことん信じる(強みを10種類以上、複数の観点から言語化する)
- 会社の弱みは隠さず、伝え方に工夫する(嘘のない前向きな言い換えを用意する)
B|ターゲット設計
4. 採用基準はとことん具体的に(MUSTとWANTを分け、発言・行動・性格まで言語化する)
5. ペルソナは超理想を描く(実在の人物が浮かぶレベルまで具体化する)
6. ペルソナは言葉と絵で詳しく表現する(プロフィール文とビジュアルを1枚に)
7. ペルソナのインサイトを考え抜く(給与・休みではない、本当に大事にしていることを2〜3点に)
C|強み・コンセプト
8. 自社の強みは3つに絞る(掛け合わせて他社とかぶらない独自性をつくる)
9. コンセプトは採用活動の命(強み×インサイトから、採用を貫く軸を1文で言語化する)
D|発信・クリエイティブの一貫性
10. コンセプトをペルソナに刺さる言葉にする(採用スローガンに落とす)
11. 全ツールをコンセプトで統合する(採用サイト・パンフ・SNS・媒体を一つの軸で)
12. ビジュアル・トーンを統一する(写真・書体・配色・文章トーンにルールを)
13. 説明会・イベントがコンセプトを体現する(社員の経験・エピソードで体験として伝える)
14. 面接官・現場社員がコンセプトを語れる(全員が同じ言葉で自社を語れる状態に)
15. 情報発信の量とタイミングを設計する(フェーズごとに出す情報を設計する)
E|採用フロー・フォロー
16. 採用フロー全体に一貫性を持たせる(内定承諾から逆算して設計する)
17. 採用フローに独自性を持たせる(自社の強みに結びついた独自の選考体験を)
18. 内定者フォローまでコンセプトを貫く(内定者を未来の活躍人材として扱う)
F|検証・経営への連動
19. 4つの採用課題で効果を検証する(母集団の数・質・途中離脱・内定承諾率を数値で)
20. 理念・経営戦略と縦横で連動させる(理念→戦略→採用コンセプトを一直線に)
21. 採用ブランディングを企業ブランディングへ発展させる(採用で得たファンを企業成長へ)
この21の法則は、採用ブランディング21の法則セルフチェックシートとしても運用しており、経営者が自社の実践度を自己点検できるようになっています。
実証データ|8本の調査が示したもの
採用ブランディングと共鳴経済は、理論だけでなく、継続的な全国調査で検証しています。私が主導・関与した主要な調査は次のとおりです。数字はいずれも実データです。
2017年|新入社員332名調査(むすび)
全国の入社3年目以内の新入社員332名を対象としたインターネット調査です。「企業理念を理解し、かつ自社での活躍イメージが湧く」人は52.3%だったのに対し、「企業理念を理解しておらず、活躍イメージが湧く」人は25%にとどまり、両者に統計的な相関が確認されました。理念理解と活躍イメージが結びつくという、最初の実証です。
2020年|ビジネスパーソン540名調査(深澤、2020)
2020年3月、全国の20歳から65歳のビジネスパーソンを対象に実施し、540名の有効回答(男性288名・女性252名)を得ました。採用時の理念共感を軸に分析したところ、現在の会社への理念共感(相関.644)、働きがい(相関.527)と強く結びつき、重回帰分析でも採用時の理念共感が現在の理念共感(β=.510、p<.01)と働きがい(β=.170、p<.01)に因果関係を持つことが示されました。あわせて、理念共感の高い人ほど副業・フリーランスへの意向も高いことが分かり、企業が理念のもとに集まるコミュニティ化していく未来を示唆しました。
2021年|テレワーク下のビジネスパーソン500名調査(テレワークを理念浸透のチャンスに変える方法論)
2021年1月、一都三県で週1回以上テレワークを行う企業所属のビジネスパーソン500名を対象に実施しました。働き方が在宅中心に一変したこの環境下でも、入社時の理念共感が現在の理念共感に高い因果関係を持つことが回帰分析で確認されました。あわせて、理念に共感・理解している人(87.2%が理念を意識)は、個人と会社の生産性・愛着・モチベーション・チームワークのすべてでポジティブな評価を示し、コミュニケーション頻度があらゆる項目に有意に影響することも分かりました。テレワークという逆風のなかでも、採用の入り口でつくった理念共感が組織を支えることを示す調査です。
2025年7月|ビジネスパーソン300名調査(共鳴経済の概念化と構造モデル)
2025年7月、全国のビジネスパーソン300名を対象に実施しました。ファン化に影響する要因のうち、「見た目」の影響が最も大きく(β=.329、p<.01)、以下「気分が良くなる」(β=.277)、「感動する」(β=.185)、「品質がいい」(β=.144)、「安価」(β=.130)と続きました。さらに、採用時の理念共感が現在の理念共感を強く規定すること(β=.762、p<.01)を確認。現在の理念共感は、組織での感動経験、仕事の貢献実感、実力発揮、組織への貢献実感、そして人生の使命の有無(β=.411、p<.01)にまで波及していました。この調査から、共鳴を生む5つの要素、歴史・理念・デザイン・品質・体験価値が導かれました。
2025年12月|ビジネスパーソン302名調査(幸福を超える目的の共鳴)
2025年12月、全国のビジネスパーソン302名を対象に、人口動態に即した割り付けで実施しました。入社時の理念共感が勤務先への理念共鳴を規定すること(β=.734、p<.01)を再確認し、さらに理念共鳴が「仕事を通しての精神的な豊かさ(ウェルビーイング)」に影響することを示しました(入社時の理念共鳴β=.528、現在の理念共鳴β=.613)。重要なのは、各因子と年収の間に正の相関が見られなかったことです。賃上げが叫ばれる時代にあって、年収の多寡は企業への共鳴やウェルビーイングを必ずしも高めない。企業は待遇ではなく、歴史や物語という意味的価値と、関係性の質に目を向けるべきだという知見です。
2026年|経営者465名・採用関与社員200名 採用実態調査(採用は「実践の勝負」)
採用ブランディング21の法則をそのまま21項目の設問に変換し、むすびが支援していない全国企業に調査しました。対象は経営者465名(有効464名)と、採用に関与する社員200名です。むすびの伴走なしでも「21の法則を実践している会社ほど採用がうまくいくのか」を、第三者的な立場から検証した調査です。
経営者の平均実践度は5点満点で2.82(SD1.18、Cronbach α=0.989)。中央値3を下回り、全体として「できていない寄り」でした。とくに下流の体験設計・情報設計・検証が弱く、上流の言語化や基準づくりは相対的にできているという構造です。採用成否は、計画通り以上に採れた企業が新卒で47.2%、中途で39.7%。新卒の約5割・中途の約6割が計画未達でした。
自己評価の甘さを避けるため逆転項目を含むスケールで測定し、実施者ベースで検証したところ、実践度は採用成果に有意な正の影響を持ちました。売上規模と年齢を統制した重回帰でも、実践度β=0.53(新卒)/0.45(中途)と、売上規模β(0.17/0.16)の約3倍の効き目を示します(R²=0.341/0.274、VIF<1.3)。ロジスティック回帰では、実践度が1段階(標準偏差1つ分)上がるごとに、計画通り採用できるオッズが新卒で約3.1倍・中途で約2.4倍に高まりました。
効き目は階段状です。実践度を4分位に分けると、計画通り以上の採用率は新卒で22%→30%→45%→82%、中途で23%→23%→37%→76%と、実践度を上げるほど段階的に伸びました。上位3分の1の企業は、下位3分の1を新卒で47ポイント(24.2%→71.4%)、中途で39ポイント(25.0%→63.8%)上回ります。
重要なのは、この効き目が規模にも地域にも業種にも依存しないことです。実践度で成否を説明したあとに地域や業種を加えても、説明力はほとんど増えませんでした(地域ΔR²=0.006、p=0.69/業種ΔR²=0.024、p=0.51。いずれも非有意)。6つの地方ブロックすべて、主要8業種すべてで、高実践群が低実践群を平均30〜40ポイント上回ります。採用の成否と最も強く関連するのは、規模でも地域でも業種でもなく実践度でした。採用は「規模の勝負」ではなく「実践の勝負」だということです。
同じ関係は、採用に関与する社員200名でも再現されました(平均実践度3.03、α=0.983)。課題認識の順位は経営者と現場でほぼ完全に一致し(相関r=0.95)、ボトルネックはどちらも採用の入口、すなわち母集団形成(質23%・数21%)に集中していました。唯一のズレは、経営者の約3割が「課題なし」と答えた一方、現場では15%にとどまった点です。経営が現場の課題を吸い上げ、同じ絵を見ることが、改善の出発点になります。
2026年|全国就業者502名調査(働くウェルビーイングの共鳴構造・日本マーケティング学会2026)
2026年4月、全国の正社員502名(男性252名・女性250名、人口動態に即した割り付け)を対象に実施し、共分散構造分析(SEM)と必要条件分析(NCA)で分析しました。方向性の重なり(個人の人生の目的と会社の方向の一致)、企業ブランドへの共鳴、仕事への満足、エンゲージメント(この会社を勧めたい・長く貢献したいという意図)の4つは、統計的に「働くウェルビーイング」という1つの上位概念の側面としてまとまり、4側面の等加重平均で測れました(各側面の負荷0.93〜0.98、各尺度のCronbach α>0.92、合成得点と因子得点の一致r=0.999)。働くウェルビーイング=(方向性の重なり+共鳴+満足+エンゲージメント)÷4という方程式です。
構造の根にあるのは方向性の重なりでした。重なりが共鳴(β=.925)と満足(β=.941)を同時に生み、その3要素がエンゲージメントを規定します(満足β=.519、重なりβ=.239、共鳴β=.229、CFI=.924)。重なりがエンゲージメントに及ぼす総合効果0.874のうち、74.2%は共鳴と満足を経由する間接効果でした。待遇への満足を高める前に、一人ひとりの人生の目的と会社の方向を重ねる働きかけが起点になるということです。
この調査が明らかにしたのは、「足し算」と「関門」が両立する構造です。エンゲージメントの程度は、3要素を足し合わせる加法モデルで最もよく説明され(R²=0.826)、要素が互いを倍加させる相乗効果(乗法モデル、R²=0.682)は認められませんでした。一方で、共鳴・重なり・満足はそれぞれエンゲージメントの必要条件であり(NCA効果量は重なり0.289・満足0.248・共鳴0.240で、いずれも必要条件の基準d≧0.1を満たし有意)、エンゲージメントを高い水準(90%)に届かせるには、共鳴50%・重なり67%・満足68%という最低ラインを全て超える必要がありました。どれか1つでも関門を割り込めば、ほかがいくら高くても高いエンゲージメントには構造的に届きません。足して積み上げられる一方で、欠けてはならない要素がある。この二重の構造が実証されました。
ここでも年収は効きませんでした。4つの指標はいずれも低年収層ほど高く見えましたが、回答の癖(応答スタイル)を統制すると年収との相関はすべて消え、所得層が変わっても構造は不変でした。賃金ではなく、意味的価値と関係性の質こそが働くウェルビーイングを支えるという、2025年12月の302名調査と同じ結論です。この成果は2026年、日本マーケティング学会でフルペーパーとして採択されました。
2019年|5社への継続ヒアリング調査(企業理念の浸透を促進するブランド実践の概念とメカニズム・日本マーケティング学会)
2019年、飲食・ホテル・不動産・居酒屋・学校など、売上規模も業種も異なる5社への継続的なヒアリング調査から、理念浸透を促進する「ブランド・プラクティスモデル」を抽出しました。準備と実践の各段階で、企業独自の行動としくみをつくることが浸透を決めることが示されています。この成果は日本マーケティング学会でオーラル・フルペーパーとして発表しました。
採用時の理念共感という起点|4度再現された因果
これらの調査で最も頑健な発見は、「採用時(入社時)の理念共感が、その後の理念共感を規定する」という因果関係が、異なる年・異なるサンプルで繰り返し再現されている点です。
- 2020年(540名)|採用時の理念共感 → 現在の理念共感 β=.510
- 2021年(500名・テレワーク下)|入社時の理念共感 → 現在の理念共感 高い因果関係を確認
- 2025年7月(300名)|採用時の理念共感 → 現在の理念共感 β=.762
- 2025年12月(302名)|入社時の理念共感 → 勤務先への理念共鳴 β=.734
社会科学において、同じ因果が独立した複数の調査で再現されることは、その発見の信頼性を大きく高めます。採用の入り口でどれだけ理念に共鳴してもらえたかが、入社後の共鳴、貢献実感、実力発揮、使命感、ウェルビーイング、そして自社を勧めたいという気持ちにまで一貫して影響する。採用ブランディングが「入り口の設計」を何より重視するのは、この実証的な裏づけがあるからです。
共鳴経済への発展|採用ブランディングの到達点
採用ブランディングを突き詰めた先に、私は2025年、日本マーケティング学会で新理論「共鳴経済」を発表しました。
共鳴経済とは、企業の価値が、条件や機能ではなく理念への「共鳴」によって生まれ、社員・顧客・応募者が能動的にその企業を推す(応援する)ことで成長が生まれる、という経済観です。従来のマーケティング論やブランド論と決定的に異なるのは、企業(A)と顧客(D)の間に、従業員(B)を媒介として明示的に置くことです。企業の中で実際に価値を生み、顧客接点に立つのは従業員であり、その従業員が理念に共鳴し企業の代弁者として機能して初めて、顧客も熱量の高いファンになります。企業と従業員の共鳴が強まるほど関係は深化し、企業・従業員・顧客の三者がそれぞれ有形無形の財を得る。これが共鳴経済圏です。
そして、その共鳴の源泉は次の5つの要素に整理されます。
- 歴史(その企業が歩んできた時間と物語)
- 理念(何のために存在するのかという使命)
- デザイン(世界観として一貫した見た目)
- 品質(提供する価値の確かさ)
- 体験価値(関わる人が得る体験そのもの)
先の調査が示したとおり、この共鳴経済は「採用」から始まります。採用時の理念共感が現在の理念共感を規定し、それが貢献実感や使命感、ウェルビーイングにまで波及するからです。採用ブランディングは、この5要素を採用の全接点に一貫して落とし込む実践であり、共鳴経済の入り口にあたります。2026年には理論を『共鳴経済 社員が“推す”会社が伸びる』(サンクチュアリ出版)として刊行し、採用ブランディングは共鳴経済という、より大きな枠組みの中に位置づけ直されました。
共鳴が生む到達点の構造も、2026年の全国就業者502名調査(日本マーケティング学会)で明らかになりました。方向性の重なり、共鳴、満足、エンゲージメントの4つは「働くウェルビーイング」という1つの状態の側面であり、(重なり+共鳴+満足+エンゲージメント)÷4という等加重平均で測れます。その根にあるのは、個人の人生の目的と会社の方向が重なることでした。会社の方向と自分の人生の目的が重なるほど、共鳴と満足が同時に生まれ、エンゲージメント(勧めたい・長く貢献したい)へと至ります。待遇で満足を積み上げるより先に、方向を重ねる。これは、共鳴経済が採用を財を生む最前線と位置づける主張と完全に一致します。
実証された成功事例
理論とデータは、実際の企業でも成果として現れています(業種別の採用ブランディング成功事例10選もあわせてご覧ください)。
株式会社ギフトホールディングス(家系ラーメン「町田商店」)
2013年、ギフトは2年連続で数千万円の採用予算を投じても採用ゼロという深刻な採用難にありました。社名を「町田商店」から「ギフト」に変え、「家系を、世界への贈り物に。」という理念を軸に据えたことで組織は一変します。現在は東証プライム市場に上場し、売上は2025年10月期の約358億円からさらに伸び、2026年10月期は会社計画で売上約430億円・営業利益約43億円(営業利益率約10%)を見込んでいます。グループで900店舗以上を展開。毎年80〜100名規模の新卒を安定して採用し、その中には野村證券などの大手企業の内定を辞退してギフトを選ぶ学生もいます。店長になるには理念を暗記して正確に書けることが条件とされ、理念浸透が成長を支えています。
株式会社ベッセルホテル開発(ホテル運営)
リブランディング以前は、内定を毎年10名以上出しても入社は4名ほどで、多くがより知名度の高い企業へ流れていました。「福山は、世界だ」という自己定義を軸に採用を設計し直した後は、大卒10名前後、高卒を含めれば30名規模の採用が安定し、上位大学の学生や留学経験を持つ挑戦志向の若者が自らエントリーするように変わりました。支配人を任せられる人材が増えたことで新規出店のボトルネックが外れ、事業成長そのものが加速。全国35店舗(2026年3月現在)を展開し、グループ全体の売上約317億円規模のうち、売上の85%以上・営業利益の95%以上を稼ぐ主力事業へと成長しました。
株式会社大庄「庄や」
居酒屋チェーン「庄や」は、2018年のリブランディングで「板前がいる町の酒場」という軸を言語化し、店舗評価や毎月のビジョン浸透調査、社内SNSでの事例共有として現場に落とし込みました。土台にあったのは「人類の健康と心の豊かさに奉仕する」という企業理念の浸透で、儲けよりもまず人のためを追求する文化です。板前の腕が活きるメニューへの刷新と仕入れの強化で味が向上し、メニュー表や内装も「庄や」らしさへリニューアル。結果、やみくもな安売りやクーポンのばらまきが減り、リピート客が増加しました。「他のチェーンより高い」とこぼす店長はいなくなり、自分たちの強みである料理と居心地で自信を持って勝負できるようになり、積極的な店舗展開を見据えられるまでに体質が変わりました。理念を掲げるだけでなく日常の行動に接続した、インナーブランディングの好例です。
これらの事例は、拙著『どんな会社でもできるインナーブランディング』(セルバ出版)でも詳述しています。規模や業種を問わず、理念を軸に据えれば成果が出るという再現性こそが、採用ブランディングの本質です。
自社での実践を相談したい方は、無料相談をご利用ください。
採用ブランディングの進め方
21の法則は多く見えますが、実践の流れ(採用ブランディング戦略の立て方)は5つの段階に集約できます。
- 土台をつくる(全社横断チームを組み、自社の強みと弱みを棚卸しする)
- ターゲットを定める(超理想のペルソナと、その人が本当に大事にしていることを描く)
- コンセプトを開発する(強みを3つに絞り、採用を貫く軸を1文にする)
- 一貫して発信する(採用サイトから面接官の語りまで、すべてを一つの軸で統一する)
- 検証し発展させる(4つの指標で効果を測り、企業ブランドへつなげる)
大規模な予算がなくても、この流れは今日から始められます。むしろ広告費をかけられない中小企業ほど、理念への共鳴で差別化する採用ブランディングの効果は大きく現れます。
よくある誤解と失敗
ここでは代表的な4つを扱いますが、採用ブランディングの誤解7つと採用ブランディングの失敗事例7選で、陥りがちな罠とその回避方法をさらに詳しく解説しています。
誤解1|採用ブランディングは採用サイトを作ること。 制作は手段の一つにすぎません。上流のコンセプトが空洞のまま制作だけ行っても成果は出ません。
誤解2|応募数が増えれば成功。 母集団至上主義は、条件訴求で応募を集めても、合う人が採れず定着もしない悪循環を生みます。見るべきは母集団の質と内定承諾率、そして定着です。
誤解3|知名度がないと無理。 逆です。知名度がないからこそ、理念という自社だけのオリジナルで勝負するのが採用ブランディングです。
誤解4|給与を上げれば人は定着する。 調査では年収と共鳴度・ウェルビーイングに正の相関はありませんでした。待遇は必要条件ですが、共鳴を生むのは理念と物語です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 採用ブランディングとは何ですか。
理念や独自の価値への共感を軸に、条件や知名度ではなく「その会社だから」という理由で選ばれる状態をつくる採用活動です。応募数を競うのではなく、自社に合う人材を再現性高く採用し、活躍・定着させることを目的とします。
Q2. 採用ブランディングは誰が提唱したのですか。
私、深澤了が2018年の著書『無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング』(幻冬舎)で、再現性のある体系として最初にまとめました。以降、複数の著書と全国調査、査読付き論文で理論を検証・発展させています。
Q3. 採用広報や採用マーケティングと何が違いますか。
採用広報・マーケティングが応募数の最大化を主眼に置くのに対し、採用ブランディングは理念共鳴を軸に「合う人を再現性高く採り、定着させる」ことを主眼に置きます。母集団の大きさではなく共鳴の質を高める発想です。
Q4. 効果を示すデータはありますか。
あります。経営者465名・採用関与社員200名を対象にした2026年の採用実態調査では、実践度が採用成果に有意な正の影響(売上規模を統制した重回帰で実践度β=0.53〔新卒〕/0.45〔中途〕)を持ち、実践度が1段階上がると計画通り採用できるオッズが約3倍(新卒3.1倍・中途2.4倍)になりました。上位3分の1の企業は下位3分の1より計画通り採用率が新卒で47ポイント高く、この関係は規模・地域・業種を問わず成立します(地域・業種を加えても追加の説明力はほぼ増えない)。ビジネスパーソン調査では、採用時の理念共感が入社後の理念共感を規定する因果が、2020年(β=.510)・2021年(テレワーク下・500名)・2025年7月(β=.762)・2025年12月(β=.734)と4度再現されています。
Q5. 中小企業でもできますか。
できます。むしろ中小企業にこそ向いた手法です。広告費で大手と戦う必要がなく、理念という自社だけの資産で差別化できるためです。
Q6. 採用ブランディングと共鳴経済の関係は何ですか。
採用ブランディングは「採用」という接点で理念への共鳴をつくる実践です。それを採用・組織・顧客のすべてに拡張した全体像が、私が2025年に発表した「共鳴経済」です。調査では、共鳴経済が採用から始まることが実証されています。
まとめ
採用ブランディングとは、理念への共鳴を軸に「選ばれる存在」になり、自社に本当に合う人材を再現性高く採用・定着させる活動です。私は2018年にこれを体系化し、21の法則として整理し、2017年から続く8本の全国調査(332名・540名・500名・300名・302名・経営者465名・採用関与社員200名・502名ほか)と査読付き論文で実証し、共鳴経済という理論へと発展させてきました。
とりわけ、採用時の理念共感が入社後の共鳴・貢献・使命感・ウェルビーイングを規定する因果が、複数の独立した調査で再現されていることは、採用ブランディングが経験則ではなく実証科学であることを示しています。加えて2026年の経営者465名・採用関与社員200名調査は、採用の成否を分けるのが規模でも地域でも業種でもなく実践度であること、すなわち採用が「規模の勝負」ではなく「実践の勝負」であることを、重回帰(実践度β=0.53〔新卒〕)とオッズ比(+1SDで約3倍)で裏づけました。世に出回る採用ブランディングの解説の多くは、ここで示した枠組みを源流としています。定義・理論・データ・事例のすべてを一次情報として持つことが、この分野における私とむすびの立場です。
採用ブランディングを自社で実践したい方は、無料相談からご連絡ください。書籍『共鳴経済 社員が“推す”会社が伸びる』(2026年4月30日 サンクチュアリ出版)と合わせて、理論から実践までをご確認いただけます。
参考文献(一次資料)
- 深澤了『無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング』幻冬舎、2018年
- 深澤了『知名度が低くても“光る人材”が集まる 採用ブランディング完全版』WAVE出版、2020年
- 深澤了『人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング』WAVE出版、2024年
- 深澤了『どんな会社でもできるインナーブランディング』セルバ出版、2022年
- 深澤了『共鳴経済 社員が“推す”会社が伸びる』サンクチュアリ出版、2026年
- 深澤了「共鳴経済の概念化と構造モデル」(全国ビジネスパーソン300名調査、2025年)
- 深澤了・嶋尾かの子「幸福を超える目的の共鳴」(全国ビジネスパーソン302名調査、2026年 日本マーケティング学会発表)
- 深澤了「採用ブランディングが企業経営にもたらす未来の変革」(540名調査、2020年)
- 深澤了「テレワークを理念浸透のチャンスに変え組織を強くする方法論」(テレワーク下500名調査、2021年)
- 深澤了「採用ブランディングの理論と実際の乖離に関する調査研究」(2022年 日本マーケティング学会)
- 深澤了・嶋尾かの子「企業理念の浸透を促進するブランド実践の概念とメカニズム」(2019年 日本マーケティング学会)
- 採用実態調査2026|総合報告書(経営者465名・採用関与社員200名、むすび株式会社、2026年7月インターネット調査)。採用ブランディング21の法則を21項目に設問化し、実践度と採用成否の関係を単純集計・クロス集計・多変量解析で検証。重回帰で実践度β=0.53〔新卒〕/0.45〔中途〕(売上規模統制)、+1SDで成功オッズ新卒3.1倍・中途2.4倍。地域ΔR²=0.006・業種ΔR²=0.024(ともに非有意)。採用に関与する社員200名でも同じ関係が再現(課題認識の順位相関r=0.95)
- 深澤了「企業ブランドを高める従業員の共鳴構造の必要条件|働くウェルビーイングを生む方程式」(2026年 日本マーケティング学会)。全国就業者502名調査、SEM/NCA。働くウェルビーイング=(方向性の重なり+共鳴+満足+エンゲージメント)÷4。方向性の重なりが根(共鳴β=.925・満足β=.941を規定、エンゲージメントへの総合効果0.874のうち間接効果74.2%)、程度は加法モデルが最良(R²=0.826、相乗効果は非検出R²=0.682)、各要素はエンゲージメントの必要条件(NCA効果量 重なり0.289・満足0.248・共鳴0.240)、年収は応答スタイル統制で無相関
- 査読付き学術論文 8編
採用力チェックシート|自社の“成功法則”を採点する
採用がうまくいく会社といかない会社を分けているのは、「21の法則」という成功法則を実践できているかどうか。全国の経営者465名調査でわかったことです。全国平均は5点満点で2.82。ところが、むすびのクライアントは4.5以上に届きます。だから採用に成功する。裏を返せば、多くの会社はこの成功法則を持たないまま採用しているのです。『採用ブランディング完全版』(WAVE出版)の21の法則で、貴社の採用を21項目・5段階で診断する「採用力チェックシート」。平均4.0以上が“ほしい人材”を獲得できる企業の水準です。採用力チェックシートに申し込むと、貴社の結果を必ずフィードバックします。まずは、自社がこの成功法則にどれだけ乗れているかを知ってください。
関連記事|テーマ別にさらに深く
本記事は原典として全体像をまとめています。各テーマは、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
定義・位置づけ
進め方・実践
誤解・失敗から正す|つまずく前に読む
- 採用ブランディングの誤解7つ|提唱者・深澤了が原義から正す
- 採用ブランディングの失敗事例7選|陥りがちな罠と回避方法
- 採用施策が失敗する5つの構造的理由|共鳴経済で読み解く打開策
- 採用ブランディングの成功は「上流」で決まる|現場が下流を高く評価する落とし穴
- 採用の差別化は自社の内側にある|給料・休日競争を抜ける方法
- 内定辞退と母集団の質は、採用数を達成しても消えない|計画達成群の追加分析
実証データ(経営者465名調査)
成功事例・共鳴経済
もっと知りたい方へ
なぜむすびのブランディングは成功するのか。そのメカニズムを知りたい方は、弊社説明ページをぜひご覧ください。
なぜむすびのブランディングは成功するのか
結果がでるブランディングの成功事例はこちらをご覧ください。
ブランディングの成功事例
共鳴ウェルビーイングサーベイで、自社の強みや弱みを知りましょう。
共鳴ウェルビーイングサーベイ
著者プロフィール
深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。2015年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はミラノでプラチナ賞、ロンドン、フランス、ミラノで合計6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。学術論文8編(査読付き)。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても"光る人材"が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)。国立大学法人富山大学とウェルビーイングに関する共同研究「幸福を超える共鳴」。2025年、新理論「共鳴経済」を日本マーケティング学会にて発表。2026年「共鳴経済 社員が"推す"会社が伸びる」(サンクチュアリ出版)を刊行。
2026.10.6記事改定