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レポート

2025.07.23

ビジョンは変えてもいいのか?目標との違いとブランドの核としての役割を考える

ビジョンとは何か?経営者や事業責任者がよく直面する問いのひとつです。特に、売上目標や事業拡大計画と混同されがちですが、実はビジョンは単なる数値目標ではありません。

この記事では、「ビジョンは変えてもいいのか?」という問いを手がかりに、ブランド論の視点やアーカーの理論を交えながら、ビジョンの本質とその運用のあり方について掘り下げます。

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ビジョンは「目標」ではない

ビジョンはしばしば「5年で売上100億円を達成する」などの中長期目標として扱われることがあります。しかし、それは本来の意味とは異なります。

ビジョンとは、事業が存在する理由、どんな社会を実現したいのかという未来像であり、ブランドの方向性を示すものです。

以下では、数値目標との違いや混同のリスク、そして変えても良いビジョンとそうでないビジョンの見極めについて解説します。

数値目標とビジョンは別物

「数値目標」とは、事業の売上や利益、顧客数など、一定期間内に達成すべき成果のことです。対して「ビジョン」は、数字では語れない企業の志や理想の未来像を指します。

たとえば、「誰もが移動に困らない社会を実現する」といった言葉には、具体的な数値は含まれませんが、強い方向性と共感を喚起する力があります。目標は変化に合わせて調整されるべきですが、ビジョンはより普遍的な価値を表します。

混同されやすい理由とそのリスク

ビジョンと数値目標が混同される理由は、「未来に向けた言葉」という共通点があるためです。しかし、それらを同一視してしまうと、経営の軸がブレるリスクが生じます。売上目標が未達成だった場合、「ビジョンが失敗した」と誤解される恐れがあります。

また、事業の成否がブランド価値に直結することで、ブランドそのものが揺らぐ可能性もあります。ビジョンは数値ではなく、長期的な理念として位置づける必要があります。

「変えていいビジョン」と「変えてはいけないビジョン」

結論からいえば、ビジョンは「変えてもよい」が「何でも変えてよい」わけではありません。社会環境や企業の成長に応じて、言葉や表現は進化させても構いません。

ただし、根底にある想いや価値観、目指す世界はブレてはいけません。たとえば、顧客との信頼を軸とする企業が、短期利益を優先する方向に舵を切れば、それはビジョンの崩壊につながります。表現は変えても、核は守ることが重要です。

ブランド論から見るビジョンの意味

ブランド戦略の世界では、ビジョンは単なる経営目標ではなく、企業の存在意義そのものとされています。特に、ブランド論の第一人者であるデービッド・アーカーは、ビジョンの定義を進化させる中で「ブランドビジョン」という言葉を重視しました。

以下では、その理論と背景をもとに、ビジョンがブランドに与える役割をひもといていきます。

アーカーのブランドアイデンティティとビジョンの関係

アーカーは当初、「ブランドアイデンティティ」という概念を提唱していました。これは、企業が自らの価値や特徴をどのように定義し、伝えるかを示すフレームワークです。ロゴやスローガンといった視覚要素だけでなく、企業の使命や姿勢を含む広い概念として位置づけられていました。

しかし、「アイデンティティ」という言葉が“デザイン”と誤解されることも多く、本質が伝わりにくいという課題がありました。

なぜ「ブランドビジョン」と呼び換えたのか?

課題に対して、アーカーは「ブランドビジョン」という言葉に言い換えました。この呼び名は、企業が顧客や社会とともに描く未来像を重視する意図を明確に伝えるものです。

単なる自己紹介ではなく、「どんな社会をつくりたいのか」「誰と、どこに向かうのか」という問いに答えるのがブランドビジョンです。ブランドという無形の価値にとって、未来のストーリーは共感と信頼を育むための必須要素となります。

ファンがいて初めて成り立つブランドビジョン

ビジョンは、顧客やファンという存在によって初めて“ブランドビジョン”としての意味を持ちます。売上目標や事業計画は、内部の努力で達成できますが、ブランドは受け手によって育てられるものです。

以下では、ファンとの関係性がビジョンにどのような影響を与えるかを具体的に見ていきます。

ファンとの関係性がブランドの軸を決める

企業が発信する言葉が、ファンにとって共感や信頼の対象となるかどうかは、その企業がどのようなスタンスで事業を行っているかに大きく依存します。

たとえば、品質第一を貫く姿勢や、顧客との真摯な対話を重視する文化は、ファンの支持につながります。そして、ファンとの関係性が積み重なることで、そのブランドの核となる「らしさ」や「信念」が形成されます。それが、ブランドビジョンの根幹となるのです。

ブランドビジョンは「核」であり「羅針盤」

ブランドビジョンは、日々の選択や事業判断において“判断基準”として機能します。新規事業に取り組むとき、広告の表現を検討するとき、採用する人材を選ぶとき。あらゆる場面で「この選択は、自社のビジョンに沿っているか?」という問いが立てられます。

つまり、ブランドビジョンは単なる理想論ではなく、企業にとっての羅針盤であり、意思決定の軸となる存在です。

売上目標では共感は生まれない

仮に「来期売上10億円を達成する」という目標を掲げても、それは社内での指標にはなっても、顧客の心には響きません。一方で、「誰もが自分らしく暮らせる社会をつくる」といったビジョンは、事業の文脈を超えて人の感情に訴える力を持ちます。

ブランドが築かれる背景には、数字ではなく、物語があります。ビジョンは、その物語の“冒頭の一文”なのです。

ビジョンの本質を理解して向き合う

ビジョンは変えても構いません。ただし、それが単なる数値目標や事業計画であってはいけません。短期的な成果にとらわれず、自社と顧客の未来像をつなぐ言葉として、ビジョンの本質に向き合う必要があります。変えるのは表現であって、信念ではありません。

企業が長く愛され、信頼される存在であるためにこそ、ブランドビジョンの意味を再確認することが求められます。

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深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター

2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)

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