
業績も悪くない。人間関係も良好。働きやすい環境も整っている。それにも関わらず、「なぜか採用できない」と悩む企業は少なくありません。
一方で、特別に条件が良いわけでもない企業が、安定して採用できているケースもあります。この違いはどこにあるのか。
結論から言えば、「いい会社」であることと「選ばれる会社」であることは別物です。本記事では、なぜいい会社ほど採用に苦戦するのか、その構造について解説します。
「いい会社=採用できる会社」ではない
多くの企業は、「自社は良い会社だから採用できるはずだ」と考えています。しかし現実には、その前提が成立しないケースが多く見られます
内部評価と外部評価は一致しない
社内での評価と、求職者から見た評価は大きく異なります。
・社員同士の関係が良い
・居心地が良い
・安心して働ける
これらは社内では価値として認識されていますが、外部の人からは見えません。見えない価値は、存在していても評価されないのと同じです。
良さは伝わらなければ意味がない
どれだけ良い環境や文化があっても、それが伝わらなければ選ばれる理由にはなりません。
多くの企業は、「知れば分かる」と考えています。しかし、求職者は知る前に判断します。
つまり、伝わる前提で設計されていない企業は、それだけで不利になります。
いい会社ほど強みが言語化されていない
いい会社ほど、強みの言語化ができていない傾向があります。これは決して能力の問題ではなく、「当たり前」になっていることが原因です。
当たり前が一番伝わらない
長く働いている社員ほど、その会社の良さを当たり前として捉えています。
・面倒を見てくれる文化
・挑戦を応援する風土
・助け合う関係性
こうした要素は内部では自然なものですが、外部から見ると大きな価値です。しかし当たり前になっているため、言語化されず、発信もされません。
社内では価値でも外では見えない
企業の強みは、外から見える形にしなければ意味がありません。
制度や数字は見えやすいですが、文化や価値観は見えにくいものです。そのため、多くの企業は「見える部分」ばかりを発信します。
差別化できない
強みが言語化されていない企業は、発信内容が似てきます。
・働きやすい
・成長できる
・アットホーム
こうした表現は間違いではありませんが、差別化にはなりません。結果として、「どこも同じ」に見えてしまい、選ばれなくなります。
採用で負ける理由は「市場基準」に合わせるから
採用に苦戦する企業ほど、市場を見て発信をつくる傾向があります。しかしこの考え方が、さらに差別化を難しくしています。
他社と同じ発信になる
競合を参考にすることで、発信内容が似ていきます。安全な表現を選ぶほど、無難な内容になります。
その結果、企業ごとの違いが消え、比較対象の一つにしかなりません。
コモディティ化する
市場に正解を求めると、どの企業も同じ方向に寄っていきます。これがコモディティ化です。
採用においてコモディティ化すると、価格や条件でしか勝負できなくなります。
大手企業に勝てなくなる
条件での勝負になると、資金力のある大手企業が圧倒的に有利です。中小企業が同じ土俵で戦っても、勝つことは難しくなります。
そのため、本来は「自社の強み」で勝負する必要があります。
求職者は会社ではなく「意味」を選んでいる
現在の採用は、条件だけで決まるものではありません。求職者は、その会社で働く意味を見ています。
条件ではなく価値観で選ぶ時代
給与や休日といった条件は重要ですが、それだけで意思決定する人は減っています。
・どんな考え方の会社か
・自分と合う価値観か
・何を大切にしているのか
こうした要素が、選択の基準になっています。
共鳴が起きると意思決定が変わる
企業の考え方や価値観に共鳴すると、求職者の意思決定は大きく変わります。
・条件が多少不利でも選ばれる
・他社を断ってでも入社する
こうした現象は、共鳴によって起きます。
大手を断る現象が起きる理由
知名度や条件で劣る企業でも選ばれるケースがあります。これは合理的な判断ではなく、納得感のある選択です。
・自分に合っている
・ここで働きたい
こうした感覚が生まれたとき、企業の規模や条件は優先順位が下がります。
採用は会社の状態がそのまま出る
採用は独立した活動ではありません。企業の状態が、そのまま結果として表れます。
強みが整理されていない企業は、採用でも伝わりません。価値観が共有されていない企業は、発信もバラバラになります。
逆に、企業の土台が整っていれば、採用は自然と変わります。
いい会社であることは重要です。しかし、それだけでは選ばれません。
「いい会社」を「伝わる会社」に変えること。そこに取り組んだ企業から、採用は変わっていきます。

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。学術論文7編(査読付き)。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)。国立大学法人富山大学とウェルビーイングに関する共同研究「幸福を超える共鳴」。2025年、新理論「共鳴経済」を日本マーケティング学会にて発表。2026年「共鳴経済 社員が”推す”会社が伸びる」(サンクチュアリ出版)を刊行。

