
採用がうまくいっても、思ったように活躍してくれない。そんな悩みを抱える企業は少なくありません。多くの場合、その背景には「採用・配置・育成・評価」がバラバラに行われているという問題があります。
本来これらはすべてつながったプロセスであり、一貫した軸のもとで運用されてこそ効果を発揮します。この記事では、採用から人材活用全体をどう捉え直すかを解説しながら、インナーブランディングによって社内の価値観を整えることの重要性についてお伝えしていきます。
採用だけ最適化しても、人材戦略はうまくいきません
採用のプロセスだけに注力しても、その後の配置や育成、評価と連動していなければ、本来の目的である「戦力化」は実現しません。
バラバラな人材戦略は、企業の成長を妨げる原因となります。
以下では、それぞれのフェーズが切り離されていることで生じる典型的な問題を整理します。
採用時の情報が次の配置や育成に活かされていない
せっかく面接で候補者の志向性や強みを把握しても、それが入社後の配置や育成にまったく活かされないことがあります。情報共有の仕組みがない、そもそも引き継がれていない、といった理由で、採用段階の評価が“使い捨て”になっている状態です。
結果的に、ミスマッチな部署に配属されたり、本人のキャリア志向と育成方針が噛み合わないといった問題が起きます。
評価基準が曖昧だと、育成や配置の方針がぶれる
「何をもって成果とするか」が曖昧なままでは、どのスキルを伸ばすべきか、どのような環境に配置すべきかの判断も曖昧になります。さらに、評価に納得感がなければ、社員のエンゲージメントも下がってしまいます。
人材戦略における“ゴールの不明確さ”が、すべてのプロセスに悪影響を及ぼすのです。
採用担当と現場の“人材観”がずれているとミスマッチが起きやすい
人事はカルチャーフィットを重視していても、現場はスキル即戦力ばかりを求めている。そんなすれ違いがあると、面接から配属までの判断にズレが生まれます。
どんな人を「良い人材」とするかの価値観が社内で統一されていなければ、採用でどれだけ工夫しても、現場とのミスマッチは避けられません。
採用から評価までをつなぐには、“軸”の共有が必要

人材戦略を機能させるには、採用から評価まで一貫した“判断の軸”が必要です。採用基準・配属判断・育成計画・評価制度のいずれもが、この軸を中心に設計されていなければ、個人にも組織にも納得感のある運用はできません。
ここでは、なぜこの“軸”が重要なのかを具体的に解説します。
「どんな人を採るか」と「どう育てるか」が連動していない企業は多い
多くの企業では、採用と育成が別部門で運用されており、目指す人物像や価値観が食い違っているケースがあります。
たとえば、自律型の人材を採用したのに、育成は上意下達型の管理が中心では、本人も組織も不満を抱えてしまいます。採用から育成までを一つのストーリーとして捉える視点が欠かせません。
評価基準が社内で共有されていないと、人材の活用が属人的になる
「評価基準はある」と言っても、それが現場・管理職・人事で共通理解されていなければ意味がありません。属人的な評価は、不公平感やキャリアの方向性の不明瞭さにつながり、せっかく採用した人材の定着率にも悪影響を与えます。組織全体で納得できる評価軸を持つことが重要です。
“企業らしさ”が判断の拠り所になる
人材に関するあらゆる判断には、「うちの会社はこういう人を大事にする」という“企業らしさ”がベースになるべきです。この価値観が明確であれば、採用も育成も評価も、迷わず一貫性のある運用が可能になります。人材観の共有は、企業文化の強さそのものといえるでしょう。
人材活用の軸は、インナーブランディングから
「判断軸が必要」と分かっていても、それが自然と社内に浸透することはありません。そこで重要になるのが、インナーブランディングの視点です。
企業が大切にする価値観を社員に伝え、行動に落とし込むことで、採用・配置・育成・評価すべての判断に一貫性をもたせることができます。
採用・配置・育成・評価に一貫性が生まれる
インナーブランディングによって、「私たちが大切にする人物像」や「どんな成長を支援したいか」が社内に共有されれば、人材に関するすべての判断が自然と揃います。
バラバラだったプロセスが、一つの方針のもとに連携し、採用活動そのものの質が高まります。
全社員が“どういう人と働きたいか”を語れるようになる
ブレない採用を実現するためには、面接官や育成担当だけでなく、現場の社員一人ひとりが「うちの会社に合う人ってこういう人」と語れる状態が理想です。
それを可能にするのが、インナーブランディングです。全社的に価値観を共有することで、社員が採用に自然と関与できるようになります。
「企業としての育て方・評価のしかた」が文化になる
インナーブランディングが浸透すれば、個人任せではなく、組織として「どう育て、どう評価するか」が文化として根づきます。これは、マネジメントや評価制度の属人化を防ぎ、組織の成長力を高める重要な基盤となります。
採用成功のカギは、入社後のストーリーを描けるかどうか
採用はあくまでスタートラインです。企業にとって本当に重要なのは、その後に続く「配置・育成・評価」という一連のストーリーがしっかり描けているかどうかです。その物語が一貫していなければ、候補者は入社後に違和感を覚え、企業も期待した成果を得られないまま終わってしまいます。
インナーブランディングは、この一連の流れに“軸”を与える手段です。採用の前段階で価値観を明確にし、社内で共有することにより、採用から定着・活躍までのプロセスがつながり、組織としての人材活用が機能し始めます。入社後の未来を描ける企業こそ、真に“選ばれる企業”になれるのです。
【弊社のインナーブランディング事例はこちらをご確認ください。】

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)