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2025.04.28

採用活動における既往歴の取り扱い|公平な選考と組織づくりの視点から考える

採用活動において「既往歴」という言葉が話題になる場面が増えています。求職者の過去の病歴や治療歴に関する情報を、どのように扱うべきか悩んでいる採用担当者も多いのではないでしょうか。

しかし、既往歴の取り扱いは慎重さが求められる分野であり、法令順守はもちろん、倫理的な観点からも配慮が欠かせません。本記事では、採用活動における既往歴の基本知識と注意点を整理し、公平な選考を行うために必要な考え方について解説していきます。

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採用における「既往歴」とは何か

採用活動で話題になる「既往歴」について、まず基本的な定義と位置づけを整理しておきましょう。

採用活動では応募者のスキルや経験だけでなく、健康状態に関する情報も話題に上ることがあります。その中で、過去にかかった病気やケガ、治療歴を指す「既往歴」の扱いは非常にデリケートな問題です。

プライバシー保護の重要性が高まる中、既往歴をどこまで確認すべきか、どのように取り扱うべきか、企業側にも慎重な判断が求められます。以下では、まず「既往歴とは何か」を正確に整理し、その採用活動における位置づけを確認していきます。

既往歴とは?病歴や治療歴を指す言葉

既往歴とは、過去に経験した病気やけが、またそれに伴う治療歴などを指します。

たとえば、入院を伴う大きな手術歴や、慢性的な疾患の有無なども既往歴に含まれます。

採用の現場では、応募書類や面接、あるいは健康診断の場面でこの既往歴に関する情報に触れる機会が生まれることがあります。しかし、これは非常にプライバシー性が高い情報であり、慎重な取り扱いが求められます。

なぜ採用活動において既往歴が話題になるのか

既往歴が話題になる背景には、企業が採用後の業務遂行能力や健康面でのリスク管理を考慮する必要があることが挙げられます。

特に、身体的な負荷の高い業務や、特別な配慮が必要となるポジションでは、事前に健康状態を把握しておきたいと考える企業も少なくありません。

ただし、これを理由に過剰な情報収集を行ったり、不当な差別的取り扱いをすることは厳に慎むべきです。

企業が既往歴を扱う際の基本的なスタンス

基本的には、既往歴の有無だけをもって採用可否を判断することは認められていません。企業は候補者本人の同意を得たうえで、業務遂行上必要な範囲内でのみ健康状態に関する情報を確認するべきです。

加えて、知り得た情報を第三者に漏らさないこと、本人の不利益につながる使い方をしないことが重要です。採用活動では「公平な選考」と「プライバシー尊重」を両立させる意識を持つ必要があります。

既往歴を理由に採用可否を判断してはいけない理由

採用活動において、応募者の既往歴をどのように取り扱うかは、特に慎重な配慮が求められる領域です。過去の病歴や治療歴といった情報は非常にセンシティブであり、採否の判断材料として用いることには重大なリスクが伴います。

日本では、労働施策総合推進法などにより、健康状態を理由に不当な差別的取り扱いをすることが禁止されています。既往歴を理由に採用を見送ることは、法令違反となる可能性があるだけでなく、企業としての倫理観を問われる事態にもつながりかねません。

さらに、こうした対応が表面化すれば、企業ブランドの失墜や、将来的な人材獲得力の低下にも直結します。以下では、既往歴に関する法的な規制や、企業が採用時に注意すべき倫理的な観点について、具体的に解説していきます。

差別禁止の原則と法令遵守(労働施策総合推進法など)

日本では、労働施策総合推進法などにより、採用活動における不当な差別的取り扱いが禁止されています。病気や障害に関する既往歴のみを理由に採否を決めることは、この差別禁止原則に反する行為と見なされます。

企業には、応募者の人格や能力を正当に評価し、業務遂行に支障があるかどうかのみを基準に判断する義務があります。仮に必要な配慮があれば、その具体的な支援策を検討する姿勢が求められます。

既往歴を理由に不採用とするリスクと問題点

既往歴を理由に不採用とした場合、候補者から差別行為として訴えられるリスクが生じます。万が一トラブルに発展すれば、企業の社会的信用が失墜するだけでなく、法的責任を問われる可能性もあります。

さらに、企業ブランドの毀損にもつながり、長期的に人材獲得力の低下を招く恐れがあります。リスクを回避するためにも、採用基準はあくまで合理的な職務適性に基づくべきです。

健康情報の取り扱いには慎重な配慮が求められる

健康情報は個人情報保護法上も「要配慮個人情報」と位置づけられ、特に慎重な取り扱いが求められます。収集する際には明確な目的を説明し、本人の同意を得ることが前提です。

また、知り得た情報は厳格に管理し、選考に必要のない第三者に開示してはなりません。プライバシー尊重と情報管理の徹底が、企業への信頼感にも直結します。

採用における健康確認はどう行うべきか

用における健康確認はどう行うべきか

採用活動において応募者の健康状態を確認することは、業務に支障がないかを判断するうえで一定の必要性があります。しかし、その確認方法には慎重さが求められます。

過度な情報収集はプライバシー侵害につながる恐れがあり、また適切な手続きや配慮を欠けば、差別的な取り扱いと見なされるリスクもあります。

企業としては、健康情報を取り扱う際には明確な目的を持ち、業務遂行に直接関わる範囲に限定して確認を行う必要があります。以下では、採用段階での健康確認をどのように適切に進めるべきか、その基本的な考え方と実務上の注意点について解説していきます。

業務に支障があるかの「合理的範囲」で確認する

採用段階で健康に関する情報を確認する場合は、「業務に支障があるか」を合理的な範囲で判断するにとどめるべきです。つまり、すべての応募者に画一的な基準で問うのではなく、具体的な職務内容に照らし合わせ、業務遂行に問題がないかを確認するスタンスが重要です。

これにより、プライバシー侵害のリスクも最小限に抑えられます。

採用前の健康診断と既往歴の聞き方に注意

採用前に健康診断を実施する場合でも、あくまで労働安全衛生法などに基づく範囲内で行うことが前提です。既往歴を尋ねる場合も、業務上必要な事項に限定し、本人に十分な説明を行ったうえで自主的に回答してもらう形式を取るべきです。

過度な詮索や強制的な開示要求は避けなければなりません。

配慮が必要な場合の対応方法と社内体制整備

もし候補者に特別な配慮が必要な事情がある場合は、その内容を本人と十分に話し合い、対応可能な範囲で職場環境を整えることが求められます。

そのためにも、人事部門と現場マネージャーとの連携体制を整えておくことが大切です。誰にとっても働きやすい環境づくりは、結果的に企業の組織力向上にもつながります。

本質的な採用力は「価値観の共有」から生まれる

採用においては、既往歴の有無ではなく、候補者の意欲や能力、そして企業文化とのフィット感を重視するべきです。本質的な採用力とは、表面的な条件だけでなく、価値観やビジョンに共感できる人材を見極め、迎え入れる力です。

そのためには、企業内部で価値観や理念をしっかり共有し、全社員が同じ方向を向いて採用活動に臨める体制が重要です。インナーブランディングを通じて組織の軸を明確にし、候補者との間に信頼と共感を育てることが、これからの採用活動には欠かせない視点となるでしょう。

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深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター

2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)

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