
採用やブランド発信の現場では「スローガンをどこで出したら効果的ですか?」と聞かれることがよくあります。しかし、この問い自体に、根本的な思い込みが隠れています。
本質は“どこで言うか”ではなく、“すべての接点で言い続ける”ことにあります。
スローガンを“全接点で伝える”ことの実践的な意味
スローガンを全接点で発信し続ける。これは単なる理想論ではありません。実際、多くの企業では「説明会や面接だけでスローガンを使っていたが、内定後のフォローや現場の朝礼、SNSでの発信には全く登場していなかった」といったケースが少なくありません。
その結果、採用活動と現場の間に“ズレ”が生じ、「思っていた会社と違った」「言っていたことと実際の雰囲気が違う」といった入社後のミスマッチにつながるのです。
逆に「説明会・面接・オウンドメディア・SNS・現場のあいさつ・朝礼・評価面談・1on1・お客様との接点」など、あらゆるタイミングで同じスローガンやメッセージを使い続けている企業は、候補者も社員も一貫性を実感しやすくなります。
その一貫性が「ここなら信じて働ける」「理念と現場がつながっている」と感じる土台となり、離職率の低下やエンゲージメントの向上につながっていきます。
現場を巻き込む工夫がカギ
どうすれば“全接点での一貫発信”が実現できるのでしょうか。一番のポイントは、「現場を巻き込むこと」です。経営層や人事担当だけでスローガンを繰り返しても、現場の社員にとっては“自分ごと”にはなりません。
現場で働くスタッフが「このスローガンは自分たちの行動指針だ」と感じられるよう、例えば月次の朝礼でスローガンにまつわる体験談を発表してもらう、掲示物やチャットツールに毎週一言コメントを加える、など現場発信の機会を設けましょう。
また、社員同士がスローガンを意識したコミュニケーションを日常的に取り入れる仕掛けも有効です。例えば1on1やフィードバックの場で、「この行動は私たちのスローガンに合っていると思う」などと意識して言葉にすることで、組織全体にメッセージが根づいていきます。
「言い続ける」ことの心理的効果
人は、同じ言葉を何度も耳にすることで、その内容を自然と受け入れ、行動にも反映しやすくなります。いわゆる「単純接触効果(ザイアンス効果)」です。スローガンも同様で、たった一度説明会や社内掲示で伝えるだけでは浸透しません。
毎日の朝礼で口にする、社員証やメール署名、社内SNSで繰り返し登場させる、など「繰り返し伝える」ことで、やがて社員一人ひとりの“無意識の基準”になっていきます。
採用スローガン浸透におけるよくある課題と乗り越え方
実践を進める中で、多くの会社が直面するのが「言っているのは経営者や人事だけ」「現場がピンときていない」という壁です。この壁を越えるには、まず“現場の声”を積極的に拾い上げ、スローガンの意味を社員自身の言葉で語ってもらう機会をつくることが重要です。
「このスローガンを自分の仕事でどう活かせると思うか」「実際にスローガンを感じた瞬間は?」といった問いかけを通じて、各自の理解や共感の深まりを促しましょう。
また、スローガンが“お題目”にならないよう、日々の行動や意思決定にどう落とし込むかもセットで考える必要があります。たとえば社内で表彰制度を設ける際も、スローガンを体現した行動にスポットを当てる、日常の業務の中で「この対応はスローガンに合っているか」を判断基準にするなど、言葉と行動を結びつける工夫がポイントです。
採用スローガンは“文化を動かす起点”
スローガンの伝達場所や頻度を“効率”だけで考えるのではなく、「すべての接点」「繰り返し」「現場主導」で発信し続けることで、単なるキャッチコピーを超えた“文化”として根づきます。
組織にとっての羅針盤であり、社員にとっての日々の行動指針となる。この状態こそが、スローガンが本来もつ力であり、会社の未来を動かす源泉となるのです。
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深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)

