REPORTS

レポート

2025.06.09

なぜ採用のミスマッチが増加しているのか?

いま、日本の採用市場では、誰もが知る有名企業に応募が集中し、内定も大量に出る。中小企業や成長企業にとってはますます人材獲得が難しくなる構造ができあがっています。

一見、学生や求職者からすれば「選択肢が広がった」ように見えます。しかし実態は、本人にとっても企業にとっても大規模なミスマッチ構造が進行している状況です。

今回は、この採用構造の背景と問題点、そして本来の採用のあり方について整理していきます。

採用ブランディングについて相談したい方はこちらから

大手企業が採用人数を大幅に増やしている現実

まず現在の採用市場では、大手企業の採用枠が大幅に拡大しています。

  • 新卒採用でも採用計画数が年々増加
  • 通年採用・秋採用・インターン採用など入り口が拡大
  • 中途採用でも「即戦力確保」として大量採用を実施

かつてなら内定を得られなかった層までが大手から内定を得るようになっています。

さらに、中途では年収条件を上げれば以前なら応募しなかった層まで流れてくる。つまり、応募者の間口が一気に広がり、大手は人材をかき集められる立場になっているのです。

本質的な「企業との相性」ではなく「知名度」で流れていく

こうした状況になると、多くの求職者が「自分に合う会社」を探す視点よりも、以下のような基準で動くようになります。

  • 知っている企業だから安心そう
  • 周囲が受けているから自分も受けてみよう
  • 何社か受ければどこか受かるだろう
  • 大手なら年収も高いし、ブランドもある

たとえば就活サイトでも、Indeed・マイナビ・リクナビといったプラットフォームに掲載される求人は大手が圧倒的多数。結局、学生もその中から「有名企業を中心に2〜3社受ける」という動き方が一般的になりつつあります。

「自分はどんな価値観で働きたいのか?」という自己分析よりも、「どこに入れそうか?」という内定獲得競争が優先されやすいのです。

大手も候補者も「受かれば入る」で起こるミスマッチ

大手企業も候補者も「受かれば良い」という心理が働くことで、内定を取ること自体が目的化していきます。

その結果として起きるのが、以下のような典型的ミスマッチです。

  • 入社後に会社文化が合わず違和感を感じる
  • 仕事内容が想像と違い戸惑う
  • 昇進やキャリアイメージが想定とズレていく
  • 早期離職や短期転職を繰り返す

本人にとっては履歴書に離職歴が残るリスクとなり、企業側にとっても教育コスト・採用コストが無駄になります。

これが、現在多くの大手で静かに進行している「大量ミスマッチの量産構造」です。

数年前なら入れなかった大手に今は入れてしまう現象

この採用構造の一番の変化は「数年前なら入れなかった層まで大手に入れるようになっている」点です。要因は複数あります。

  • 採用枠拡大によるボーダーラインの緩和
  • 入社後に育成すればいいという考え方の広がり
  • 大手側も人手不足に対応せざるを得なくなっている

その結果、「本当は自分に合っていない企業に、たまたま入れてしまう」という現象が起きています。

そして入社後に本人も会社も「あれ?思ってたのと違う」となる。これが大量の短期離職を生む構造です。

「見つける場所」が限られていることが根本課題

現在の採用市場の背景には、そもそも就活プラットフォームが偏っている現実があります。

  • 掲載費用の高額化による大手中心の掲載
  • 知名度ランキングが応募先選定を決めてしまう
  • 中小企業や成長企業は学生の検索から外れがち

つまり学生や求職者にとっても「どこで情報を探せばいいのかわからない」状態になっており、結局有名企業しか目に入らない。

本来であれば、自分と価値観が合う会社はもっと別に存在しているかもしれないのに、見つける前に選択肢から消えているのです。

大手採用は「楽をして採る仕組み」になりつつある

企業側もこの状況に慣れてしまい、「楽をして採る」発想に陥りがちです。

  • 有名媒体に出していれば勝手に応募がくる
  • 学歴・資格・年齢で一律にふるいにかける
  • 配属後の適性ミスマッチは後から考える

こうして「母集団さえ集めればよい」という幻想が生まれます。

結果的に、採用活動はますます機械的・表面的なものとなり、人と組織の本質的なマッチングが置き去りになっていきます。

本来の採用は「相性確認」であり「内定競争」ではない

採用とは本来、企業と個人の価値観や仕事観の擦り合わせです。

  • 自社の価値観に合う人を採り
  • 仕事の厳しさや文化も事前に伝え
  • 入社後の活躍イメージが描ける状態で入社する

これが健全な採用の姿です。

しかし現在の大手偏重型採用では、「何社受ければ内定が取れるか?」というゲームになりがちです。本人も企業も、内定を出すこと自体が目的になってしまうのです。

もはや採用は中身が失われつつある

むすびが危惧するのは、この状況がさらに進行すると「採用が完全に中身のないものになってしまう」ことです。

  • 大手は大量採用・大量離職を前提に回していく
  • 学生も離職を前提に入社する
  • 転職市場での流動性がさらに加速する
  • 企業文化は定着しづらくなる

この構造が進行すれば、もはや「文化形成」や「定着」というインナーブランディングの本質が機能しなくなる危険すらあります。

本質的な採用に戻るには何が必要か?

では、こうした大手偏重の採用市場の中で、企業も求職者もどう動くべきなのか。

企業側は改めて「文化採用」の視点に立ち戻る必要があります。

  • 自社がどんな価値観で人を採りたいのか明文化する
  • 合わない人を採らない勇気を持つ
  • 入社後に何を学び、どう育つのか具体的に示す
  • 表面的な「母集団最大化」から脱却する

そして、採用ブランディングもこの価値観整理から始まるべきなのです。

採用のあるべき姿

むすびでは、採用はあくまでインナーブランディングの延長線と位置づけています。

経営理念や価値観が社内に根づき、それを言語化し、社外にもそのまま出していく。それに共感した人だけが応募し、入社後も高い定着率を生み出す。

これが採用成功の本質であり、目先の内定数ではなく、長期的な文化づくりこそが採用活動の成果なのです。

弊社のインナーブランディング事例はこちらをご確認ください。】

sai2

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター

2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)

  • PAGE-TOP