
現代の日本社会では、「推し活」と呼ばれる現象が大きな広がりを見せています。好きなアイドルやキャラクター、アーティストにお金や時間を惜しまず費やし、ファン同士が交流し合い、推しに関する活動自体を心から楽しむ。そこには「応援したい」「関わりたい」「自分も役に立ちたい」という強い能動性と幸福感があります。
一方、企業の現場では「人が集まらない」「定着しない」という声が絶えません。しかし、推し活に夢中になる人々がいる一方で、なぜ会社は“推される”存在になれないのでしょうか。
この記事では、推し活の本質をヒントに「推される会社」=ファンが集まる組織をつくるための視点と実践策を考えていきます。
推し活から学ぶ組織づくりのヒント
推し活の現場では、推し(応援する対象)が唯一無二の存在として認識され、ファン自らがSNSで発信したりイベントに足を運んだりする光景が当たり前になっています。
この「自分から関わりたい」というエネルギーこそ、会社がこれから目指すべき姿です。
従業員も求職者も「この会社と関わることで自分の人生が豊かになる」と思えれば、その行動は自発的になり、組織全体にポジティブな循環が生まれます。
推される会社づくりは「自発性」の設計
従来の組織運営では、マニュアルやルールで社員の行動を統制する場面が多く見られます。しかし、推し活のようにファンや従業員が自分の意志で動くとき、そこには強い情熱や創意工夫、チームワークが生まれます。
社内で「やらされ感」が蔓延していないか、自社のコミュニケーションが一方通行になっていないか、一度見直してみましょう。
推される会社は「関係性」に価値を置く
ファン同士が推しをきっかけに仲間になり、応援の輪が広がるように、会社でも「理念や価値観を共有できる関係性」を重視することが大切です。
社内イベントや、日々の業務の中で「ありがとう」や「すごいね」といった称賛や感謝の声を積極的に交わすことで、組織の温度が上がります。
共感から共鳴へ、さらに「自分がこの会社の良さを他者に語りたい」と思える環境を整えることが、長期的な人材定着と組織成長につながります。
“推し”を生み出すため行動
「推される会社」をつくるには、偶然や表面的なキャンペーンだけではなく、日常のあらゆる接点で「この会社が好き」「ここで働きたい」と心から思ってもらえる仕組みを組み込むことが大切です。ただ一度のイベントや広告では“推し”は生まれません。
理念や歴史、働く環境、コミュニケーションの質、さらにはちょっとした体験や日々の気配りまで、会社の価値や世界観が丁寧に伝わる場や仕掛けを積み重ねることが肝心です。
推し活においても、最初から熱心なファンになる人は稀であり、何度も触れることで心が動き、やがて自発的に応援したくなるものです。企業も同じように、社員や求職者・顧客との日常的な対話と体験の中で、“推し”が自然と育つ環境づくりを意識することが求められます。
理念・ビジョンを明文化し、日常に溶け込ませる
推し活においては、「この人(この作品)が大切にしている価値観が好き」と思える要素が、推しの原動力です。会社でも、経営理念やビジョン、働く意味を明確にし、それを単なるポスターやパンフレットにするのではなく、日々の会話やミーティング、1on1面談で繰り返し共有することが肝心です。
体験価値を重視した職場づくり
推し活がファンの人生を豊かにするように、従業員が「この会社で働いて良かった」と実感できる体験を意識的に設計しましょう。
たとえば、社内イベントや学びの機会、社員が自分の想いを語れる場、成功体験の共有などがその一歩です。
人材難時代に選ばれる会社の条件
人材難が続く今、会社は単に条件を良くするだけでなく、「この会社で働く理由」を自社らしく言語化し、共感から共鳴へとつなげていく力が求められています。推し活が人々の消費行動やライフスタイルを変えたように、「推される会社」もまた、社員・求職者・顧客の関わり方そのものを変える可能性を秘めています。
推し活が会社の未来を変える
推し活が広がる現代社会は、会社経営にも多くのヒントを与えています。推し活のメカニズムを組織づくりや採用に応用し、従業員や求職者が「推したい」と思える会社を目指すことで、人材難の時代を乗り越え、より強く愛されるブランドへと成長できるでしょう。
【弊社のインナーブランディング事例はこちらをご確認ください。】

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)

