
採用ブランディングに取り組む企業が増える中、依頼先の選定に悩む企業も多く見受けられます。SNS活用や動画施策など、一見すると「うまくいっていそう」な事例も溢れていますが、それが自社にも当てはまるとは限りません。
本記事では、採用ブランディングの依頼先を見極める際に本当に見るべきポイントとして「効果の質」と「再現性」を中心に解説し、形式だけのプロモーション施策に潜むリスクや、中小企業に求められる独自性戦略についても掘り下げます。
表面的な「成功事例」に惑わされない選定基準を持つ
採用ブランディングの実績をアピールする支援会社の中には、「TikTokで数十万再生を記録」「バズから何人応募が来て何人採用できた」といった話を前面に出しているところもあります。しかし、こうした“数字”の成功事例が果たして自社に再現可能かどうかは、慎重に見極める必要があります。
効果の「一時性」ではなく「再現性」に注目する
たまたま運良くうまくいった事例ではなく、他の業種や規模の会社でも同様の効果が得られるのか、つまり再現性があるかが極めて重要です。
- その成功は特定のタイミングや文脈に依存していないか?
- 同じ施策を他社が行っても同じような成果を出せているか?
- 表層的な流行(例:SNSバズ)に依存していないか?
効果の「偶発性」に惑わされず、「再現できる構造と理論」があるかを見極めましょう。
SNS施策=採用ブランディングではない
SNSや動画を活用したプロモーション的な打ち出しは、たしかに注目を集めやすい施策です。しかし、それをもって「採用ブランディングができています」と断言するのは本質から逸れています。
SNS活用は“要素のひとつ”にすぎない
InstagramやX(旧Twitter)、TikTokなどのSNSは、採用ブランディングの“入り口”として活用することはできます。しかし、それはあくまで理念や価値観を伝えるチャネルのひとつであり、それ自体がブランディングではありません。
SNS発信だけに頼った施策=採用ブランディングであると誤解したまま取り組むと、構造的な改善がされないまま、表面的な“集客競争”に巻き込まれてしまいます。
見るべきは「理論」と「構造」への理解
信頼できる支援先は、表層的な数字やツールの使い方ではなく、採用ブランディングの“構造”や“メカニズム”について、明確な言語で語れるかどうかがひとつの判断基準になります。
採用の構造に向き合えているか?
採用がうまくいかない企業の多くは、「母集団形成=採用力」という誤解を抱いたまま、露出施策にばかり走りがちです。しかし、本質的な採用力とは、
- 自社の強み・独自性を言語化できているか
- 応募者に共鳴されるメッセージ設計がなされているか
- 一貫した接点体験が設計されているか
といったブランドとしての内的基盤づくりに支えられているものです。これを丁寧に理解し、支援できるパートナーでなければ、本質的な成果にはつながりません。
見落とされがちな「成果の定義」
TikTokで50万回再生されたとしても、それが“本当に採用につながったのか?”という視点を見失ってはいけません。
数値の裏にある意味を問い直す
例えば、以下のような問いを設定して支援先に確認することが大切です。
- 応募数は増えたが、ターゲット層と合致していたか?
- 実際に採用された人材は、理念とマッチしているか?
- 入社後の定着や活躍にまでつながっているか?
母集団形成が目的化してしまうと、質の高い採用にはつながらず、ミスマッチを招くリスクも高まります。
中小企業こそ「資源の独自性」で勝負するべき
大企業は、知名度と資本を活かして「数」を取りにいく戦い方が可能です。トレンドを追い、競合と同じ土俵でもある程度の成果を出すことができます。
一方で中小企業は、
- 採用人数が限定的(5〜10名程度)
- 一人ひとりの採用の質が事業に直結
- 知名度ではなく“共鳴”が勝負
という前提条件があります。つまり、大企業と同じやり方では「予算を使って埋もれる」という事態になりかねません。
表層施策ではなく「構造」を支援できるパートナーを選ぶ
採用ブランディングの成功は、派手なSNS施策や単発の成功事例に頼るのではなく、企業の「独自性をどう伝えるか」「構造的にどう勝てるか」という視点に立った戦略設計にかかっています。
数十万回再生されたTikTok動画よりも、自社らしさを理解し、共鳴を生む仕組みを構築してくれる支援先こそが、真のブランディングパートナーと呼べる存在です。
母集団形成や目先の数字に惑わされず、自社の採用課題と正面から向き合ってくれる相手を選ぶことが、採用活動全体の成功を左右します。
【弊社のインナーブランディング事例はこちらをご確認ください。】

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)