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レポート

2025.06.11

カルチャービデオは必要か?採用・インナーブランディング現場での本質的な考え方

採用活動や社内の理念浸透の一環として、会社の雰囲気や価値観を映像で表現するカルチャービデオ。SNSや採用サイト、会社説明会などでもよく見かけるようになりました。

たしかに、カルチャービデオはあれば盛り上がります。しかし、むすびが現場で繰り返しお伝えしているのは「カルチャービデオは“手段”であり“目的”ではない」ということです。

今回は、カルチャービデオの是非をインナーブランディングや採用戦略の文脈で整理していきます。

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カルチャービデオは「あればプラス、なくても成立する」

結論から言えば、カルチャービデオは「絶対必要」というものではありません。あればもちろん効果的に使えますし、ないからといって採用活動や理念浸透が成立しないわけでもありません。

むすびの現場感覚では、カルチャービデオの立ち位置は煽りVTRと同じです。

  • 入社説明会や会社紹介で雰囲気を一気に伝えられる
  • SNSなどで社外向けにわかりやすくアピールできる
  • 社員のモチベーションや誇りにつながる場面もある

つまり、盛り上がりに「乗せる」ためのツールではありますが、それ単体で組織の文化や価値観が育つわけではありません。

重要なのは「カルチャービデオ以前に何をやっているか」

むすびがカルチャービデオ制作の相談を受けた際に、必ず確認するのが以下の点です。

  • 社内の理念浸透活動は日常的に回っているか?
  • 部下との対話は定期的にできているか?
  • 1on1や定例面談の仕組みは動いているか?
  • 行動指針に沿ったフィードバック文化が根付いているか?

これらができていないのに、いきなり何十万、何百万をかけて動画制作に進むことは本質から外れてしまいます。地味だけれど当たり前の「対話」「制度運用」「現場の実践」が整って初めて、カルチャービデオの効果も最大化されるのです。

映像だけ作っても理念浸透は生まれない

カルチャービデオを作る理由のひとつに「理念を映像で伝えたい」という動機があります。もちろん、理念やビジョンを動画で可視化すること自体は悪いことではありません。

しかし注意すべきは、映像だけ作っても社員の価値観や行動が変わるわけではないという事実です。

  • 理念は日々の対話や意思決定の中で身につく
  • ビデオはあくまで「きっかけ」でしかない
  • 理念の実践には地道な運用が不可欠

むすびでも「カルチャービデオが理念浸透の中心になることはない」とお伝えしています。理念実践の中心は常に「日常」であり、朝礼、面談、チームミーティング、フィードバックの積み重ねこそが文化を作っていきます。

カルチャービデオにコストをかけすぎるリスク

オにコストをかけすぎるリスク

近年は、制作会社によってはカルチャービデオに数百万円単位の予算を提案されるケースもあります。実際、ある企業では500万円かけてカルチャービデオを制作していた事例もありました。

もちろん、それだけの投資が成果につながる場合もあります。ただし冷静に考えるべきは、それだけの予算を先に投じるべき優先順位なのか?という視点です。

  • まだ理念が整理されていない
  • 行動指針も明文化されていない
  • 評価制度も理念に紐づいていない
  • 1on1面談も十分にできていない

このような状態で映像にお金をかけても、表層だけ整えた“見せ方採用”に流れてしまうリスクが高まります。採用活動においては特に「表面だけ良さそうに見せる」のは最大のミスマッチ要因になり得るのです。

地道な「対話」の積み重ねがカルチャーを育てる

カルチャービデオ以前に、まず着手すべきことは地味で当たり前の施策です。

  • 部下と10分でも対話できているか
  • 毎週のミーティングで理念が話題に出ているか
  • 行動指針に紐づいた表彰ができているか
  • 昇格・評価で文化が反映されているか

これらが積み重なることで、社員の口から自然に理念や文化が語られるようになります。文化とは「社長が語るもの」ではなく「社員が日常で使う言葉」になったときにようやく根付くのです。

「文化の実態」が整った企業にとっては有効ツールになる

一方で、社内の文化醸成がある程度進んでいる企業にとっては、カルチャービデオは良い補助ツールになります。

  • 社員の生きた声を映像で伝えられる
  • 職場の雰囲気をリアルに見せられる
  • 入社後のイメージギャップが減る

特に、採用説明会や新卒向けの会社説明で活用すると、応募前段階での理解促進に役立ちます。既に文化がある会社は「見せた通りの会社」で入社後もズレが起きにくいからこそ、動画表現が効果を発揮するのです。

カルチャービデオは「文化の出口」であって「入口」ではない

強調してお伝えしたいのは、カルチャービデオは文化形成の“入口”ではなく“出口”という位置付けです。

  • 文化が育っていないうちに作っても本物にならない
  • 文化が育っていれば、むしろ自然な動画が撮れる

無理に演出を加えたり、言わされている感のあるインタビューを撮っても、本質は伝わりません。社員が普段から語っている言葉がそのまま映像に出せる状態こそが、理想的なカルチャービデオ制作のタイミングです。

カルチャービデオを作るべきタイミングとは?

ここまでを踏まえた上で、カルチャービデオを制作する最適なタイミングは次の通りです。

  • 社内で理念・行動指針が整理されている
  • 社員が日常で文化を語れる状態になっている
  • 採用や外部向けに発信する必要性が高まっている
  • 文化が浸透しているので動画内容も自然に表現できる

この状態で制作すれば、カルチャービデオは非常に強力な発信ツールになります。逆に、文化が整っていないうちに制作してしまうと「理想だけを語ったPV映像」になり、入社後のギャップを助長する危険すらあります。

むすびが考えるカルチャービデオの位置付け

むすびでは、カルチャービデオを「文化発信の最後の仕上げ」と位置付けています。土台が整っていない企業にいきなり動画制作を勧めることはしません。

  • まずは社内の理念整理
  • 行動指針の具体化
  • 評価・表彰制度への反映
  • 日常対話の仕組みづくり

これらが実行されてはじめて、カルチャービデオも「実態を映すもの」になります。

「流行だから、他社がやっているから、採用活動で目立ちたいから」これらの理由でカルチャービデオを作るのではなく、自社の文化形成が整ってきたタイミングで、必要に応じて活用する。これが、むすびが考える「カルチャービデオとの正しい付き合い方」です。

弊社のインナーブランディング事例はこちらをご確認ください。】

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深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター

2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)

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