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レポート

2025.08.20

理念を伝えているのに伝わらない。理念浸透の壁と打開策

多くの企業が、自社の想いや行動指針を明文化し、理念浸透に力を注いでいます。しかし、現場の実感としては「伝えているのに伝わらない」「共感してもらえていない」といった悩みが後を絶ちません。

これは決して発信不足が原因ではなく、「伝え方」「制度との連動性」「受け手の心理設計」といった構造的な課題が背景にあるケースがほとんどです。

本記事では、そうした理念の“伝わらなさ”に直面する企業に向けて、どこに課題があり、どう手を打てばよいのかを紐解いていきます。

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「伝えている」と「伝わっている」はまったく違う

理念が伝わらないと感じたとき、多くの企業が真っ先に思い浮かべるのは「もっと丁寧に説明しよう」「もっと頻度を増やそう」といった情報発信の強化です。しかし、問題は“量”ではなく“構造”にあることが少なくありません。

伝わらない理由は「言い方」より「文脈」にある

理念が伝わらない根本的な理由は、受け手側の「現実の行動」と理念が結びついていないことにあります。言い換えれば「理念が何を意味しているのか」が、社員の仕事の中で具体化されていないのです。

企業側が「伝えた」と感じる場面には、次のような施策が挙げられます。

  • 朝礼や全体会議での共有
  • 社内報やスローガンの掲示
  • 社長やリーダーによる発信
  • 行動指針の冊子化

これらはもちろん重要ですが、「その場限り」で終わっていたり、実務との接点が薄かったりすると、受け手側には理念が「自分事化されないままの言葉」として映ってしまいます。

同じメッセージも「伝え方次第」で届き方が変わる

理念を現場に浸透させるには、単なる一方向の発信ではなく、多様な手段を組み合わせた“共鳴の設計”が不可欠です。

手段を変え、角度を変える

例えば、以下のようにアプローチを変えることで、理念の解像度が高まります。

  • 【日報】社員が理念と結びついた行動を日々記録
  • 【MVP表彰】理念に即した行動を称える場を設ける
  • 【朝礼スピーチ】リーダーや社員が理念に基づいた経験を語る
  • 【社内ポスター・ツール】目に見える形で価値観を定着させる

同じメッセージでも、視覚・聴覚・体験など異なるチャネルで繰り返し届けることで、“わかる”から“感じる”へと変化し、ようやく“動く”へとつながります。

理念に共感しているのに「行動しない」理由とは?

中には「社員は理念の内容は理解しているが、日常の行動に反映されていない」といった課題もあります。これは理念の“運用設計”が追いついていないケースが多いです。

制度設計が行動変容を後押しする

理念の実現を目指すならば、評価・報酬・制度といった“仕組み”の側面でも連動させる必要があります。

たとえば、次のようなケースが典型です。

  • 理念に即した行動をとっても評価に反映されない
  • 数値目標だけが評価基準になっている
  • 給与制度が「理念」と乖離した設計になっている

これでは、いくら理念に共感しても「動く理由」が生まれません。理念を基軸に評価項目を設計し、「どう行動すれば評価されるのか」「どんな行動が価値とされるのか」が可視化されていなければ、組織全体での共通理解が生まれず、行動は定着しません。

「評価したくない」組織のジレンマと自己矛盾

一部の企業や経営者は、「理念の実践を評価の材料にしたくない」「社員には自発的に動いてほしい」と考えることがあります。この考え方自体に善悪はありませんが、実態として評価・給与制度と切り離された理念は、現場では無力化されやすい傾向があります。

「促し」がない組織では、理念は定着しにくい

社員は必ずしも理念に強い関心を持って入社しているとは限りません。理念への共感や実践は、仕事を通じた経験や周囲の言動を通じて育まれるものであり、“自発性”に任せきるには無理があります。

  • 制度として促す(評価制度・報奨制度)
  • 場として促す(朝礼・合宿・振り返りの時間)
  • 人として促す(ロールモデル・フィードバック)

このように、「仕組み」と「場」と「人」という3方向からの促しがなければ、理念は表層的なスローガンに留まりがちです。

給与と理念は不可分の関係にある

企業が「理念で評価はしたくない」と考えていたとしても、実際には給与や昇進という評価制度が必ず存在しています。したがって、「理念とは別で評価している」という状態そのものが矛盾をはらんでいます。

理念を軸とした評価軸をつくるべき理由

例えば、下記のようなことが起きていないでしょうか。

  • 組織全体で推奨している行動と、実際に評価される行動にギャップがある
  • 理念に沿った提案や挑戦をした人が、むしろ割を食っている

こうした状態が続くと、社員の間に「結局、理念は建前だよね」という不信感が広がり、実践行動は止まってしまいます。

給与という現実的な報酬制度がある以上、何を評価して、何を評価しないのかを理念と照らして明示することが、組織の健全性と一貫性に直結します。

浸透には「理念の翻訳」と「仕組みの接続」が不可欠

理念を掲げて終わりではなく、社員一人ひとりが「自分の仕事にどうつながるのか」を理解できる状態が「浸透」です。そのためには、理念の“翻訳”と制度との“接続”が求められます。

  1. 理念を行動レベルにまでかみ砕く
  2. 具体的な実践事例を共有する
  3. それを評価・称賛する場をつくる
  4. 定期的に言語と行動を照らし合わせて見直す

このプロセスを通じて、社員はようやく理念を「実感」として捉えることができるようになります。

伝わらないのではなく、設計されていないだけ

理念が伝わらない、浸透しないという課題の多くは、「やり方が間違っている」か「仕組みが欠けている」だけのことです。理念を“言っただけ”で終わらせず、制度や評価、人事戦略にまで一貫させることで、はじめて組織に根づくものとなります。

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深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター

2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)

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