
採用市場は年々競争が激しくなっています。求職者に選ばれるためには、単に求人を出すだけでは不十分です。自社と同じ人材を狙う競合他社がどのような戦略を取っているのかを理解し、自社ならではの魅力を磨く必要があります。
そこで重要になるのが「採用競合分析」です。本記事では、採用における競合分析の基本から、実際に押さえるべきポイント、そして表面的な差別化に頼らず本質的な採用力を高めるための視点について解説していきます。
採用における競合分析とは何か
採用活動で成果を上げるためには、自社の取り組みだけでなく、競合企業の動きを正しく把握することが不可欠です。競合分析というと価格競争や市場シェアを意識したビジネス分析をイメージしがちですが、採用における競合分析はまた違った側面を持っています。
ここでは、採用における「競合」の定義や、分析の目的、そしてそれがもたらすメリットについて整理していきます。
採用における「競合」とはどの企業を指すか
採用競合とは、単に同じ業界の企業だけを指すわけではありません。同じ職種・スキルを持った人材をターゲットにしている企業すべてが競合対象となります。
たとえばITエンジニアを募集する企業であれば、IT企業だけでなく、製造業や小売業でもデジタル人材を求める企業が競合となることもあります。つまり、職種・スキル・勤務地・待遇水準など、さまざまな要素から「自社が本当に競争している相手」を見極める視点が必要です。
競合分析の目的は「勝つこと」ではない
採用競合分析の目的は、単に競合に打ち勝つことではありません。自社の採用戦略を客観的に見直し、改善すべき点を把握することが主な目的です。
他社の取り組みを参考にしながら、自社の強みを再確認し、磨きをかけることが重要です。競合他社の求人内容や選考フローを知ることで、求職者目線で自社の立ち位置を正しく把握することができるようになります。
競合分析が採用活動にもたらすメリット
競合分析を取り入れることで、採用活動の精度が大きく向上します。
たとえば、求人票の表現を改善したり、選考スピードを見直したりするきっかけになります。また、自社の強み・弱みを客観的に把握できるため、戦略的な母集団形成や内定辞退防止施策の設計にも役立ちます。
最終的には、競合と比較されたときに「この会社が良い」と思ってもらえる確率を高めることができるのです。
競合分析で押さえるべき主なポイント

競合分析を効果的に行うためには、単に企業名や知名度を見るだけでは不十分です。求職者が企業を比較検討する際に注目するポイントを正しく押さえ、それらを軸に分析を行う必要があります。
ここでは、競合調査で特に注目すべき三つの観点について解説します。
給与・待遇・福利厚生の比較
まず押さえるべきは、給与や待遇、福利厚生の水準です。求職者にとって生活や将来設計に直結する要素であり、企業選びの重要な判断基準となります。
基本給だけでなく、賞与やインセンティブ、昇給制度、リモートワーク可否、各種手当など幅広い視点で比較しましょう。ただし単なる金額勝負に陥らず、待遇全体のバランスで自社の魅力を捉えることが大切です。
求人票・採用サイト・広報メッセージの比較
次に重要なのが、求人票や採用サイト、採用広報の内容です。これらは求職者にとって企業の「第一印象」となる部分であり、伝え方一つで応募意欲に大きな差が出ます。競合
企業の求人票やサイトをチェックし、求める人物像の明確さ、企業文化の伝え方、選考プロセスのわかりやすさなどを比較分析しましょう。自社の発信に一貫性があるかも併せて見直すべきポイントです。
選考プロセスや内定後フォローの比較
選考フローや内定後のフォロー体制も、競合比較の重要ポイントです。選考スピード、面接官の質、フィードバックの丁寧さ、内定後のフォローアップ施策などは、求職者の満足度に直結します。
特に内定辞退率を下げるためには、内定後のコミュニケーション施策が有効です。他社がどのような工夫をしているかを把握し、自社の選考体験を磨き上げていくことが求められます。
競合に勝つために必要なのは「表面的な差別化」だけではない
競合分析を行うと、給与や待遇など表面的な条件の違いに目が向きがちです。しかし、採用競争で本当に差をつけるためには、単なる条件勝負にとどまらない深い戦略が必要です。
以下では、表面的な差別化に頼らない採用力強化の考え方について解説します。
条件比較だけでは長期的な優位性は築けない
給与や福利厚生を競合より少し良くするだけでは、長期的な優位性は築けません。市場環境や景気に応じて、条件は常に変動するからです。仮に待遇面で一時的に優位に立ったとしても、他社が追随すればすぐに差は縮まります。
だからこそ、条件以外の部分、たとえば企業文化やキャリア成長支援、働きがいといった「本質的な魅力」を磨くことが重要です。
企業文化や価値観への共感がカギとなる
求職者が最終的に企業を選ぶ際には、給与などの条件以上に、企業のビジョンや文化、価値観への共感が大きな決め手となるケースが増えています。
自社がどのような理念を持ち、どんな働き方を推進しているのかを明確に伝えることが、競合との差別化につながります。共感を得られるメッセージ発信は、優秀な人材を惹きつけるうえで欠かせない要素です。
自社ならではの魅力を言語化し発信する重要性
競合と比較される中で選ばれるためには、自社独自の魅力をしっかりと言語化し、それを積極的に発信していく必要があります。「何を大切にしている会社か」「どんな働き方ができるのか」「どんな成長機会があるのか」など、自社らしさを具体的な言葉にして伝えることが大切です。
採用広報においても、型通りの説明ではなく、自社の個性を打ち出す工夫が求められます。
採用競合との差別化にはインナーブランディングが不可欠
採用競合との差別化を図るうえで、最後に重要になるのがインナーブランディングの視点です。インナーブランディングとは、企業の理念や価値観を社員全員が共有し、日々の行動に反映させる取り組みを指します。この取り組みを通じて、企業の「らしさ」が社内に根付き、外部に対しても自然と魅力として伝わるようになります。
待遇や条件だけでは伝えきれない自社の本質的な魅力を強く発信できる組織は、競合他社と比較されたときにも確かな存在感を放つことができます。採用競合分析で得た情報を活かしながら、自社らしさを磨き上げるインナーブランディングに取り組むことが、これからの採用戦略には欠かせない視点といえるでしょう。
【弊社のインナーブランディング事例はこちらをご確認ください。】

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)