
企業が採用力を高めようとするとき、「自社の文化を発信しよう」と考えるケースが増えてきました。たしかに、企業文化は採用において重要な要素です。しかし、それが言語化されていない状態で発信されても、期待する効果を得られないことが多々あります。
本記事では、「文化の発信=採用成功」とは言えない理由と、そこに必要な前提条件について考えていきます。
なぜ文化発信が採用に有効だと考えられるのか
企業が自社の文化を発信しようとする背景には、「カルチャーマッチ」の重要性が広く認識されてきた流れがあります。実際、どれだけスキルや経験があっても、企業文化に合わなければ早期離職に至ることは珍しくありません。
そのため、事前に文化を伝えることで「共感してくれる人材」が集まりやすくなるという考え方は、一定の合理性があります。特に、すでに理念や文化が強固に言語化され、社内にも深く浸透している企業であれば、表現の工夫次第で良い出会いにつながる可能性は高まります。
たとえば京セラのように、創業時から一貫したフィロソフィを持ち、それが制度・教育・日常の行動にまで反映されているような企業であれば、伝え方さえ間違わなければ「企業文化=採用力」となり得るのです。
文化があるのに“採用力”に結びつかないケース
多くの企業では、文化は「なんとなくある」ものにとどまっており、明確に言語化されていないのが実情です。理念として掲げられていても、それがどのように行動に表れているのか、社員に浸透しているのかが曖昧なままになっているケースも少なくありません。
こうした企業が「自社の文化を発信しよう」とすると、どうしても“なんとなく”の表現になりがちです。
「社員の雰囲気が温かい」
「家族的な社風」
「チームワークを大事にしています」
このような表現は一見ポジティブですが、どの企業にも当てはまってしまうため差別化になりません。実際に応募者から見ても、「共感はできるけど、何が他社と違うのかは分からない」という印象を持たれてしまいます。
“なんとなく”の文化発信が生むミスマッチ
文化を発信したつもりでも、そこに明確な軸がなければ、どの要素が応募者に響いたのかが分からず、再現性のない採用になってしまいます。企業側も「良い人が来たからまた同じように発信すればいい」と思っても、何が良かったのかが曖昧では次につながりません。
また、応募者の側も「なんとなく合いそう」といった曖昧な動機で応募するため、入社後に「思っていたのと違う」と感じてしまうミスマッチが起こりやすくなります。
文化があることは前提として重要ですが、それを言語化し、誰が読んでも共通の理解が得られる形にすることがなければ、採用において本当の意味で機能することはありません。
採用に必要なのは、“文化”の言語化と構造化
採用活動において文化を活かしたいならば、必要なのは「文化の言語化と構造化」です。つまり、自社の価値観や理念を抽象的な表現ではなく、具体的な言葉とエピソードで語れるようにする必要があります。
たとえば、「チームワークを大事にしている」という表現であれば、それが具体的にどんな場面で現れているのか、どういった制度や習慣で支えられているのか、過去にどんな象徴的なエピソードがあったのかなどを整理しておくことで、応募者の理解度と納得度は飛躍的に上がります。
さらに、その価値観を体現している社員のインタビューや日常の言動、評価制度とのつながりなどもセットで伝えられれば、「なんとなくの共感」ではなく「自分もそこで働きたい」という動機を持った人材との出会いが実現できます。
MUSUBIが考える“文化発信”の本質とは
MUSUBIでは、文化を採用に活かす際の大前提として、「そもそも文化とは何か?」を定義し直すことを提案しています。文化とは単なる雰囲気や空気感ではなく、理念・価値観・行動基準・制度設計といった複数の要素が積み重なって“当たり前”になっているものです。
だからこそ、「発信する前に社内に浸透させる」ことが必要であり、そのための言語化・内省・整理があって初めて外に出しても意味のあるコンテンツになると考えています。
MUSUBIが企業と取り組むインナーブランディングでは、この文化の明確化を通じて「社員が語れる文化」「共感される文化」を整備し、それを採用や組織づくりに活かしています。
文化を出す前に、文化を“わかる”形にする
採用において文化を活かすことは重要です。しかし、ただ「文化があります」と発信するだけでは、期待するような人材との出会いにはつながりません。
求められるのは、文化を「誰にでも伝わる形で」「誰が見ても再現性のある形で」言語化し、それを発信できるようにすること。その準備なしに情報発信しても、単なる雰囲気として消費されるだけで終わってしまいます。
文化がある企業ほど、それを言語化する価値があり、それによって初めて採用力の強化が実現できるのです。
【弊社のインナーブランディング事例はこちらをご確認ください。】

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)