いい会社ほど採用で苦戦する理由 共鳴経済で読み解く打開策
まじめで、商品も良く、顧客にも誠実。それなのに採用で苦戦する会社があります。理由は能力ではなく構造です。いい会社ほど指摘された課題に丁寧に向き合い、施策を足し算で増やし続け、「自分たちは何者か」を定義しないまま条件競争に入ってしまう。打開策は、共鳴経済の発想で会社の物語と候補者の物語を重ねることです。本記事では、苦戦の構造と抜け出す道筋を実例とデータで整理します。
この記事の目次
- いい会社ほど採用で苦戦するのはなぜか
- 「やった感」という麻酔が判断を鈍らせる
- 苦戦する会社に共通する3つの構造
- 打開のカギは「自分たちは何者か」の再定義
- 共鳴経済が示す、いい会社が抜け出す道筋
- いい会社が最初に踏む3手
- よくある質問(FAQ)
- まとめ|変えるべきは施策ではなく前提
いい会社ほど採用で苦戦するのはなぜか
いい会社が採用で苦戦するのは、努力が足りないからではありません。むしろ努力の方向が、構造ではなく施策に向いているからです。
人手が足りない。広告を出しても応募が来ない。やっと採用しても半年で辞めていく。まじめな経営者ほど、この課題に正面から向き合い、制度を整え、評価を見直し、給与も上げます。それでも噛み合わない。気づけば未来の話ではなく「今日を回す」話ばかりになっている。問題を「人」のせいにしたくなりますが、私が1000社以上を見てきて気づいたのは、発展する会社と停滞する会社の違いは、会社と従業員との「関係の質」にあるということです。いい会社の苦戦は、商品やサービスの質ではなく、その関係の質を設計してこなかったことに起因します。
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「やった感」という麻酔が判断を鈍らせる
いい会社が陥りやすいのが、「やった感」という麻酔です。
課題が出され、施策が追加される。一時的に改善するが、良い状態は定着しない。すると再び課題と施策が打ち出される。この繰り返しが続くと、取り組みそのものへの信頼が下がっていきます。問題なのは、施策を打ったこと自体が経営陣を安心させ、本質的な問いを後回しにしてしまうことです。報告書がいくら残っても、現場が変わらなければ意味がありません。
まじめな会社ほど施策が増えます。だからこそ、足し算を一度止めて、「そもそも自分たちは何者で、誰に来てほしいのか」という根っこの問いに戻る必要があります。本質的な変化は、「すぐできること」の延長線上にはありません。
苦戦する会社に共通する3つの構造
苦戦が長引く会社には、共通する3つの構造があります。
構造1|キーパーソンへの依存。 プロジェクトが「社長が言っているからやるもの」になっていると、社長の関心が薄れた瞬間に勢いが落ちます。特定の担当者が支えている場合も、その人が退職すれば成果は消えます。トップ交代でプロジェクトごと中止になることもあります。
構造2|言葉が組織で生きていない。 スローガンや理念ができあがっていることと、それが組織の中で生きていることは、まったく別の話です。壁に貼られただけの言葉は、採用の場で候補者に何も伝えません。
構造3|事業と採用の方向がずれている。 事業は全国・世界を向いているのに、採用は地元に残りたい層を狙っている。経営戦略と採用戦略が真逆を向いていると、どれだけ広告費をかけても噛み合いません。
3つに共通するのは、施策ではなく前提に問題があるという点です。
打開のカギは「自分たちは何者か」の再定義
打開の起点は、新しい施策ではありません。「自分たちは何者か」を定義し直すことです。
ベッセルホテル開発は、内定を10名以上出しても入社4名ほどという状態が続いていました。私たちは「どう人を集めるか」をやめ、自己定義からやり直しました。たどり着いた言葉が「福山は、世界だ」。地方に拠点を置きながら世界へ挑戦する企業だという宣言です。採用ターゲットは「地元に残りたい層」から「世界を見据えつつルーツを活かしたい優秀層」へ変わり、全国転勤は機会に転じました。採用は安定し、やがてグループの主力事業へ成長します。
王慈福祉会は、合同説明会で着席5名、新卒ゼロの年もありました。理事長と職員で約1年かけて理念を再定義し、「福祉という言葉をなくす。」という採用スローガンにたどり着きます。ブースの着席は約100名に増え、採用ゼロから新卒8名が入社しました。両社とも、条件をいじったのではなく、自分たちが何者かを言語化したことが突破口でした。
共鳴経済が示す、いい会社が抜け出す道筋
なぜ自己定義が効くのか。それを説明するのが共鳴経済の枠組みです。
人は、条件ではなく「意味」や「物語」に動かされます。会社の物語と個人の物語が重なったとき、共鳴が起きます。共鳴した人は「やるべきだから」ではなく「やりたいから」動く。私たちの2025年の調査(全国のビジネスパーソン300名対象)では、採用時の理念共感が現在の理念共感を強く規定し(β=.762)、それが感動経験や仕事の貢献実感、人生の使命感にまで影響していました。一方、年収と共鳴度に正の相関はありませんでした。
いい会社は、共鳴を起こす素材をすでに持っています。まじめに積み重ねてきた歴史、現場の誠実な仕事、顧客への姿勢。足りないのは素材ではなく、それを物語として言語化し、採用の接点に一貫して載せることです。共鳴経済は、いい会社が条件競争から物語競争へ抜け出す道筋を示します。
共鳴経済の発想で採用を立て直したい方は、無料相談からご連絡ください。
いい会社が最初に踏む3手
足し算を止めて、いい会社が最初に踏むべき3手を示します。
1手目|施策を一度止め、前提に戻る。 新しい広告や媒体を足す前に、「自分たちは何者で、誰に来てほしいのか」を経営と現場で問い直します。
2手目|歴史と現場の物語を言語化する。 創業の経緯、乗り越えた困難、現場が喜びを感じる瞬間を、抽象語ではなく具体的なエピソードに分解します。これが共鳴の核になります。
3手目|事業の方向と採用ターゲットを揃える。 事業が向かう先と、来てほしい人の像を一致させます。方向が揃って初めて、言葉は候補者に届きます。
この3手は、お金ではなく経営者と現場の時間で進みます。だからこそ、いい会社にこそ実践できます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 商品も評判も良いのに採用できません。何が問題ですか。
商品の質と、会社と人の関係の質は別物です。良さを物語として言語化し、採用接点に一貫して載せられていないことが多くの原因です。
Q2. 給与を上げれば解決しますか。
一時的に応募は増えても、定着にはつながりにくいです。私たちの調査では年収と共鳴度に正の相関はありませんでした。条件は入口にすぎません。
Q3. うちは中小企業です。それでも抜け出せますか。
中小企業のほうが有利です。経営者の物語と現場の声を候補者に直接届けられるため、共鳴を起こしやすい構造にあります。実例のベッセルホテルも王慈福祉会も、地方からの転換でした。
Q4. 施策をやめるのが不安です。
すべてをやめる必要はありません。足し算を一度止めて、前提を問い直す時間を確保するという意味です。前提が揃えば、施策の効果も初めて持続します。
Q5. 効果が出るまでどのくらいかかりますか。
自己定義の言語化に数ヶ月、採用接点への反映を経て、最初の効果は次の採用シーズンが目安です。事例の3社も1年単位で変化しました。
まとめ|変えるべきは施策ではなく前提
いい会社ほど採用で苦戦するのは、まじめさゆえに施策を足し算で増やし、前提を問い直さないからです。キーパーソン依存、生きていない言葉、ずれた方向。苦戦の構造はいずれも前提にあります。
打開の起点は、新しい施策ではなく「自分たちは何者か」の再定義です。いい会社は共鳴を起こす素材をすでに持っています。それを物語として言語化し、採用の接点に一貫して載せたとき、条件競争から抜け出し、同志が集う会社へ変わります。
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著者プロフィール
深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。学術論文7編(査読付き)。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても"光る人材"が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)。国立大学法人富山大学とウェルビーイングに関する共同研究「幸福を超える共鳴」。2025年、新理論「共鳴経済」を日本マーケティング学会にて発表。2026年「共鳴経済 社員が"推す"会社が伸びる」(サンクチュアリ出版)を刊行。