
多くの企業が経営理念を掲げ、ビジョンやミッションを社内外に発信しています。しかし、実際の現場では「形だけ」で終わってしまい、理念が社員一人ひとりの行動や価値観にまで根付かないケースが目立ちます。
人材の定着率やチームワーク、業績の安定など、企業が直面する課題の多くは「組織の内側」から生じています。インナーブランディングは、こうした課題の根本解決につながる経営の本質的アプローチです。
本記事では、実務で失敗しないための準備・進め方・効果測定・KPI・デメリットへの対応まで、実践的なポイントをわかりやすく解説します。
インナーブランディングを始める前に必要な準備
インナーブランディングを効果的に進めるためには、事前の準備と社内体制の整備が欠かせません。プロジェクトチームの立ち上げから、社長のメッセージ発信、幹部・現場メンバーへの協力依頼まで、一つひとつを丁寧に設計することでプロジェクト全体のスピードと質が大きく変わります。
プロジェクトチームの編成と選定
まず最初に、経営者が「なぜこのプロジェクトをやるのか」「どんな目的で進めるのか」を幹部や全社にしっかりと伝えます。そのうえで、現場や複数部署から多様なメンバーを集め、現実に即したチーム編成を行うことが大切です。
メンバー選定を丸投げせず、社長が積極的に関与することで、部署間調整や人選に無駄な時間がかかるのを防げます。
全社的な協力体制を整えるコツ
「このプロジェクトは会社の優先事項だ」という方針を社長自ら明確に打ち出し、各部署に快く送り出す姿勢を求めておくことが重要です。
特に、営業など現場で成果を上げている人を外すことへの抵抗感は根強いですが、経営陣の強い意思表示があれば、調整はスムーズに進みます。
効果測定アンケートの設計
インナーブランディングの効果を測るためには、数値化だけでなく「自分の言葉で理念を話せるか」「現場で実践できているか」まで掘り下げるアンケート設計が不可欠です。
理念浸透度と実践度を測る質問例
理念やVMV(ビジョン・ミッション・バリュー)について「自分の言葉で説明できるか」「同僚も理解しているか」といった点を尋ねる設問が基本です。
実践度は、「実際に現場でその理念に沿った行動をしているか?」という具体的な行動レベルでチェックします。
チームワーク・信頼感も定期的にチェック
アドラー心理学でいう「信頼・尊敬・共感」が組織内でどれだけ感じられるかも重要な観点です。自部署でどういった行動がリスペクトにつながるのかを、自由記載やエピソード収集も交えて把握しましょう。
数値だけでなく、現場の声を組み合わせることで、チーム力や職場風土の変化も実感できます。
>インナーブランディングの効果測定方法。アンケート内容の考え方
インナーブランディングのKPI設計と運用のポイント
プロジェクトの進捗管理や効果検証には、現実的かつ現場に合ったKPI設定が求められます。細かなタスクや数値目標を明確にしつつ、現場の変化や成果も丁寧に拾い上げる仕組みが重要です。
タスク・進捗管理から始める
社内・社外に「いつまでに何をやるか」をタスクレベルで細かく決めておきましょう。各施策の進捗確認や、浸透度調査(例:理念を覚えている人が何%か)を定期的に行い、目標とのギャップを随時修正することが大切です。
KPIと行動・成果の連動
KPIは、単なる数値目標にとどまらず「理念を言える・話せる人の割合」や「理念に即した行動を取っている人の割合」といった現場の変化を追う内容も設定しましょう。行動の質が高まれば、売上や利益にもつながります。「理念に沿った行動」の具体例を共有し、全社で評価する文化づくりも意識します。
インナーブランディングのデメリットと乗り越え方
インナーブランディングには「面倒くさい」「時間がかかる」「ハレーション(摩擦)が起きる」など、現実的なデメリットも存在しますが、それらは工夫次第で乗り越えることが可能です。
抵抗や摩擦はあって当たり前
特にトップダウン色が強い企業や現状維持を望むメンバーが多い職場では、導入初期に反発や離職が起こる場合もあります。
ただし、経営者が事前に「考え方が合わない人は一定数辞めるかもしれない」と伝えておくことで、余計なトラブルを最小限に抑えられます。
短期的な人員減少と長期的な成長
一時的に仕事量が増えたり、現場が混乱したりするリスクもあります。しかし、理念に共感したメンバーで再構成されることで、長期的には組織の結束力と成長性が高まります。
「今やめられると困る」と感じる場合は、施策の段階的導入やリソース見直しを検討しましょう。
インナーブランディングの本質と実践
インナーブランディングは、単なる理念の「お題目化」を防ぎ、社員一人ひとりの言葉や行動にまで落とし込むための経営戦略です。一つずつ丁寧に進めることで、短期的な混乱も乗り越え、組織はより強く生まれ変わります。
【弊社のインナーブランディング事例はこちらをご確認ください。】

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)

