
インナーブランディングの取り組みが形だけで終わらないためには、どこまで現場に理念や価値観が浸透し、実際の行動に表れているかを定期的に可視化することが欠かせません。そのために不可欠なのが、設問の質と現場視点を重視したアンケート設計です。
よくある「自己評価」や「知っているかどうか」だけの表面的な設問では、実際の浸透や効果の深度は測れません。本記事では、具体的なアンケート設計と運用のコツを解説します。
効果測定では「理解」と「実践」の差に注目する
ブランド理念やビジョンが、単にスローガンとして掲げられているだけでは意味がありません。「覚えている」や「知っている」と答える社員が多くても、日々の行動や判断の中で実際に使われているかは別問題です。
そのため、「自分の言葉で説明できるか?」「現場で会話に上がるか?」などの設問で、理解と実践の両面を測ることが重要です。実際に調査を重ねると、「知っているつもりだったが、自分の言葉で話すのは難しかった」「会議で理念を話題にしたことがない」といった声が出てきます。
この差を見える化することで、どこから手を付けるべきかの優先順位や、具体的な改善策が見えやすくなります。
具体的な設問例
効果測定アンケートをより有効にするには、定量(選択式)と定性(自由記載)のバランスも大切です。
たとえば「あなたの部署でVMV(ビジョン・ミッション・バリュー)は話題に上りますか?」や、「理念に沿った行動が見られる場面はどのくらいありますか?」という選択肢と、「理念を使った成功体験や失敗事例を書いてください」といった自由記載を組み合わせることで、定量的な全社傾向と、具体的な行動や現場のリアルを同時に把握できます。
アンケート内容は以下のような切り口で構成すると良いでしょう。
- 理念(VMV)を自分の言葉で説明できるか
- 部署・チームでVMVについて話す機会があるか
- 理念を意識して判断・行動した体験はあるか
- 理念に沿った行動の成功事例・難しかった場面(自由記載)
- 信頼・尊敬・共感を感じた具体的なエピソード(自由記載)
アンケート結果の活かし方
アンケート結果は、単に社長や経営層が把握して終わりでは意味がありません。
集まったデータは、「浸透していると思っていたが、実は部署間でギャップが大きかった」「現場からは理念の具体的な使い方が分からないという声が多い」といった課題を明確にし、今後のインナーブランディング戦略や社内施策に反映させることが重要です。
たとえば、浸透と実践の差が大きかった部署には、理念を使ったミニワークショップや対話の場を設ける、共感や信頼に関する自由記載のエピソードを社内報や朝礼でシェアする、といった小さな仕掛けも有効です。
よくある失敗と注意点
アンケート設計や運用でよくある失敗の一つは、「設問が抽象的すぎて回答しづらい」「そもそもアンケート自体が形骸化している」というものです。
現場の社員にとって「自分ごと」として答えやすい、現実に即した言葉・具体的な選択肢・自由記載欄を設けることが、定着と運用のコツになります。
また、アンケート結果を一部だけで抱え込まず、できる限り現場の声を社内全体にフィードバックし、次回以降の取り組みに活かす姿勢も大切です。
アンケートの設計と運用がインナーブランディングの質を決める
インナーブランディングの効果測定は、「知っている」「分かっている」で終わらせず、「自分の言葉で語れるか」「実際に行動に表れているか」「現場に信頼や共感の空気があるか」まで踏み込んで聞くことが成功のカギです。
アンケート結果を施策に生かし続けることで、理念の浸透と行動のギャップを着実に埋めていくことができます。
【弊社のインナーブランディング事例はこちらをご確認ください。】

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)

