
かつて、商品やサービスの価格や品質だけで企業が選ばれていました。しかし、今は顧客や従業員など「企業を応援する人たち」が企業の成長や安定に直結しています。
人口減少や人材の流動化など、外部環境の変化により、リピーターや応援者の確保が経営にとって重要なテーマとなっています。企業のファンとは何か、その意味や役割を整理します。
企業のファンの定義
企業のファンは、商品やサービスのリピーターに限らず、従業員や求職者など幅広い立場の人が含まれます。
以下では、顧客、従業員・元従業員、求職者・潜在的応援者という三つの側面から、企業のファンが持つ特徴や役割を具体的に整理します。
顧客としてのファン
継続的に商品やサービスを選ぶ顧客は、企業の事業に大きな安定をもたらします。新商品発売時に購入したり、SNSで評価を発信したりする人が増えれば、知名度や売上にも良い影響が出ます。
実際に飲食店やメーカーでは、常連客による口コミで新規顧客が増えるケースが多く見られます。企業にとって、リピートや紹介につながる顧客の存在は成長戦略の一部として重視されていえるでしょう。
従業員・元従業員としてのファン
自社を肯定的に語れる従業員や元従業員は、企業の信頼を高める要因となります。たとえば、退職後も友人に会社を紹介したり、SNSで在籍中の経験を発信する例もあります。
従業員のエンゲージメントが高まることで職場環境も良くなり、外部へのポジティブな評価につながります。現場で働く人の満足度は、採用力やブランド力にも波及します。
求職者や潜在的な応援者としてのファン
企業理念や雰囲気に共感した求職者は、入社前から企業の活動を応援しています。説明会やインターンの経験をきっかけにSNSで発信する人も増加傾向にあります。
まだ関わったことがなくても企業を好意的に見ている人が多いほど、採用や事業展開が円滑に進みます。こうした潜在的ファンの存在は、企業活動の幅を広げる強みとなります。
企業のファンがもたらすメリット
ファンを持つことで得られる具体的な成果は多岐にわたります。ここではブランド力や売上、採用力、社会的信用など、企業のファンが実際にどのようなメリットを生み出すのかを明確にします。
ブランド力や売上への貢献
ファンが増えると商品の販売数やサービス利用頻度が高まります。リピーターによる安定的な売上や、新商品の早期拡散が実現しやすくなります。
たとえば、ファンの多い飲料メーカーでは新商品の発売ごとにSNSで大きな話題となり、売上が予測しやすくなっています。ブランド力が向上すれば価格競争にも巻き込まれにくいです。
採用・定着への波及効果
ファンがいる企業は求人応募が増え、定着率も上がりやすいです。現場の従業員が会社の魅力を伝えられることで、求職者が入社後のイメージを持ちやすくなります。
実際に、社員紹介による採用が多い企業では早期離職が少ない傾向があります。ファンの存在は人材確保の安定にも寄与するのです。
社会的信用やコミュニティ形成
企業の活動に参加するファンが増えれば、地域や社会での評価も高まります。たとえば、地元イベントやボランティア活動にファンが自主的に関わることで、企業の社会的信用が向上します。
ファン同士のコミュニティが形成されれば、情報発信や協力体制も強化され、企業の存在感が広がります。
ファンを生み出す企業の共通点
ファンを増やしている企業にはいくつかの共通した特徴があります。理念や価値観の発信、現場での体験づくり、従業員の自発的な発信などが主なポイントです。
理念や価値観の共有
企業の理念や価値観が明確であり、社内外に一貫して伝えられている企業はファンを生みやすい傾向にあります。
たとえば、日々の業務で理念に基づいた判断がされていたり、説明会やWebサイトで経営方針が具体的に紹介されているケースです。理念の共有が浸透すれば、社内外の共感や信頼を得やすくなります。
体験価値・従業員発信の重要性
顧客や求職者が企業と直接関わる体験が充実している企業では、ファン化が進みやすいです。実際の事例として、工場見学や現場体験を通じて企業理解が深まるイベントを開催する会社も増えています。
さらに、現場の従業員が自身の体験をSNSやブログで発信することで、企業のリアルな姿が外部に伝わりやすくなります。
これからの企業に求められる「ファンづくり」の視点
本記事で解説したように、企業のファンは顧客や従業員だけでなく、求職者や地域社会まで幅広く存在します。理念の共有や体験価値の提供、現場発信の取り組みがファンづくりには不可欠です。
今後は単なる売上や採用だけでなく、企業活動全体の応援者を増やす視点が求められます。ファンを意識した経営が企業の持続的成長に直結します。
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深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)