
採用広報における動画活用は、もはや一部の大企業に限られた施策ではなく、広く中小企業でも導入が進んでいます。しかし「動画をつくるべきかどうか」以前に、多くの企業が悩むのは「どんな映像を入れるべきか」という点です。よく見られる採用動画の定型パターンをなぞるだけでは、企業の本質的な魅力や文化が伝わらないことも少なくありません。
本記事では、弊社、むすび株式会社の知見をもとに、「理念」と「文脈」に基づいた動画設計の考え方を紹介します。
なぜ、いま採用動画をつくるのか
動画を制作する前提として、「他の情報発信ツールが揃っているかどうか」は重要です。たとえば、すでにコーポレートサイトや採用パンフレット、SNS運用などが一定レベルで整っている企業が、次なる手段として動画に取り組むケースが増えています。
動画は「その企業らしさ」の濃縮表現である
採用動画は、他の手段では伝えきれない企業の“空気感”や“価値観”を視覚的・感情的に届けられるという強みがあります。一方で、既存のテキスト・写真ベースの情報と重複する内容で構成してしまえば、わざわざ動画である意味が薄れてしまいます。
「どこで使う動画なのか?」という目的設定とともに、「なぜ動画で伝えるのか?」という媒体選択の意義を明確にすることが、動画設計の第一歩になります。
よくある採用動画の構成とその限界
採用動画と聞いて、多くの企業が想起するのは以下のような“オーソドックスな型”です。
- 企業紹介(沿革・事業内容)
- 経営者メッセージ
- 若手社員のインタビュー
- オフィス風景や現場映像
- 求職者へのメッセージ
もちろん、この構成自体が悪いわけではありません。しかし問題は「他社と同じような動画になってしまうこと」です。特にWebサイトやパンフレットですでに伝えている内容と重複している場合、動画で表現する必然性が乏しくなります。
差別化の鍵は「理念」と「文脈」にある
汎用的な構成にとらわれず、企業固有の魅力や挑戦を表現するには、理念と出来事を結びつけた構成設計が有効です。
事例:株式会社ギフト
MUSUBIが採用ブランディングを支援した株式会社ギフトでは、採用動画としてアメリカ・ニューヨークへの進出を切り取りました。これは、単なる出店告知ではなく、企業の理念である「シアワセを、自分から。」にどのように結びつく挑戦であるかを、経営陣や現地社員の言葉で語っていく構成です。
社長は「なぜアメリカに出るのか?」を理念との接続で語り、副社長はその戦略や苦労を語ります。現地のスタッフは日本との違いやリアルな現場の葛藤を共有し、最後は外国人顧客の反応や、実際の食事風景を通じて「家系ラーメンが海外に届く意味」を描いています。
このように「会社としての出来事 × 理念との接続」という構成は、視聴者の心に残る動画となり、採用広報だけでなく社内向けにも活用できる内容となっています。
>ギフト コーポレートサイト+ブランドサイト+採用パンフレット(2018)
長く使える動画とは何か
動画を制作する際、トレンド性や話題性を重視する企業も少なくありません。もちろんTikTokやリールのような「流れて消費される動画」の設計も重要ですが、一方で「時間が経っても使える不変性」を持った動画の価値も大きくなっています。
不変の軸=理念に立ち返る
理念に根差した構成であれば、たとえ3年後に視聴しても意味のある内容になります。「この理念があるから、こういうことに挑戦している」という構造で語られている動画は、時代や職種が変わっても根底のメッセージが変わらないため、長期的に活用できます。
一方で、単なる現場紹介や雰囲気映像は、数年後には陳腐化するリスクがあり、採用環境の変化に伴い使えなくなることもあります。
中小企業でも実践可能な動画設計の考え方
「海外進出のような大きな出来事がなければ動画は作れない」と感じる必要はありません。むしろ日常の中にあるチャレンジや判断こそ、理念とつながるエピソードになり得ます。
たとえば、次のような視点で考えられます。
- なぜこの新商品を開発したのか?
- なぜこの制度をつくったのか?
- 地域イベントに参加した理由と背景
- 採用の選考基準をあえて変えた理由
- 小さな失敗から学んだことを共有する姿勢
こうしたトピックを中心に、理念に立ち返って語ることで、外部にも内部にも訴求力のある動画が生まれます。
理念はスタート地点に置くべきもの
動画のテーマや語る順番は様々ですが、どのような構成であれ「理念」を起点とすることは非常に重要です。
理念は単なるお題目ではなく、企業のあらゆる判断の根拠であり、共鳴してほしい価値観そのものです。動画という“共感のメディア”において、理念は最初に置かれるべき「語る理由」であり、視聴者との接点を生み出す起点でもあります。
「ずっと使える採用動画」とは理念に根ざしたものである
採用動画は、単に雰囲気を伝えるものではなく、企業の“思想”を可視化するメディアです。だからこそ、「どんな映像を入れるか」に唯一の正解は存在しません。重要なのは、企業の理念と文脈に基づいた構成を設計すること。そしてその動画が、外部の求職者だけでなく、内部の社員にとっても“誇れるもの”であることです。
【弊社のインナーブランディング事例はこちらをご確認ください。】

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)