
「もっと応募数を増やしたい」
「合う人に来てほしい」
採用における量と質のジレンマは、いまやすべての企業の悩みになっています。とくに中小・成長企業では、限られたリソースのなかで「何に予算をかけ、どこに打ち出せばいいのか」が判断しづらいものです。
そんな中でよく議論になるのが、「採用媒体は使うべきか?」という問い。しかし、この問いは、単なる広告出稿の話ではありません。その裏には「採用ブランディングができているかどうか」「採用人数がどれくらいか」といった前提条件が存在します。本記事では、採用媒体の活用をどう判断すべきか、そして媒体活用以前に整えるべき“採用の土台”について解説します。
媒体活用の判断基準は「年間採用人数」
媒体を活用するか否かを考えるうえで、最もシンプルで効果的な基準が「採用予定人数」です。どんなに素晴らしい文化や制度があっても、年に数人しか採用しない企業にとって、過剰な媒体戦略は費用対効果が見合わない可能性があります。
年間10名以上が“分岐点”になる
もし、あなたの会社の年間採用人数が5名未満であれば、媒体を使わなくても成果を出せる可能性があります。例えば学校連携、知人の紹介、イベントやSNSなど、接点を丁寧に作っていくことで十分な母集団形成が可能です。
しかし、10名を超えてくると話は別です。対面でのアプローチだけでは母数が圧倒的に足りません。つまり、「母集団形成のための仕掛け」が必要になるのです。この段階ではじめて、媒体の活用が“次元の違う接点づくり”として機能し始めます。
年間20名を超えると「打ち出し方」が問われる
年間で20名を超える採用計画がある場合は、媒体活用は必須になります。ただし、重要なのは「出すか出さないか」ではなく「どう出すか」です。
求人広告を出せば応募が集まる時代は終わりました。誰に何を伝えるのか、どのような言葉を使うのか、採用ページやパンフレットの構成はどうか。採用の“設計力”が結果を大きく左右します。
採用ブランディングが整えば、「同じ活動でも結果が変わる」
媒体を活用するにせよしないにせよ、「そもそも何を伝えるか」が決まっていなければ成果にはつながりません。
同じ説明会でも、話し方が変わる。資料も変わる。
採用ブランディングとは、単に「言葉を整える」作業ではありません。企業が“誰に届けるか”を自覚することで、自然と話し方が変わり、資料も変わり、接点づくりの姿勢が変わるのです。
結果、説明会の内容が刺さるようになり、「まさに自分に向けた言葉だった」と感じてもらえる。これは、母数を増やす以上に大切な、“質の高いマッチング”を生む設計です。
媒体は万能ではない。“採用の土台”が整っていることが前提

多くの企業が、求人広告を出せばなんとかなると思って媒体に依存してしまいます。しかし実際には、媒体は伝えるための器」でしかありません。中に入れる“伝えるべき中身”が整っていなければ、応募が来てもミスマッチが増えるだけです。
媒体の効果は「伝えるべきことがある企業」にしか発揮されない
求人広告、indeed、Instagram、採用パンフレット……これらはすべて「中身が整っていてこそ活きる」ツールです。採用人数が10名を超える場合は、媒体活用を検討すべきですが、それと同時に、採用ブランディングの設計が整っていることが絶対条件です。
採用広報に「投資すべき企業」と「そうでない企業」
採用広報や媒体活用は、すべての企業に必要なわけではありません。重要なのは、「自社が本当に広く発信する必要があるのか?」を冷静に判断することです。
採用人数や組織のフェーズ、伝えたい内容の有無によって、投資の有効性は大きく変わります。以下では、採用広報に本格的に取り組むべき企業と、そうでない企業の違いを明確にし、それぞれが注力すべき領域を解説します。
採用人数が5人未満の企業は、媒体よりも接点の質を磨く
たとえば、年に2〜3人を採用できれば十分という企業の場合、媒体に多額の費用を投じるよりも、「誰と会うか」「どんな対話をするか」に注力すべきです。
- SNSでの発信
- 店舗や学校でのリアルな接点
- 少人数制の体験型イベント
これらを通じて、「一人の応募者にどれだけの熱を持って接するか」が成果を左右します。
10名以上の採用が必要な企業は、設計と媒体の両輪を
10名以上の採用が求められる企業は、接点の質に加えて量の拡張も必須です。つまり、設計と媒体を両輪で回す必要があるのです。
- 採用ページや動画、パンフレットを整備
- ペルソナに沿った言葉の開発
- 求人広告やイベント告知の出し方の最適化
「どう見せるか」ではなく、「何を伝えるか」を先に決めたうえで、それをどう出すかを考える。ここが設計の順序です。
採用媒体の前に“届ける言葉”を持っているか?
採用広報や求人媒体は、単なる発信手段にすぎません。本当に問うべきは、「自社は、誰に、どんな想いを伝えたいのか」ということです。
年間の採用人数が10名を超える企業にとっては、媒体活用は必須になります。しかしその前に、採用ブランディングの設計がなされていなければ、成果にはつながりません。
伝える内容が決まれば、話し方が変わる。資料が変わる。説明会が変わる。 そして、出会う人の質も変わります。
母数を増やす前に、まず「伝えるべきこと」があるか? そこを整えることが、採用成果を確実に引き寄せる第一歩となります。
【弊社のインナーブランディング事例はこちらをご確認ください。】

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)