
社内文化や価値観の浸透に力を入れている企業ほど、「インナーブランディングがしっかりできていれば、きっといい採用につながるはず」と考えがちです。しかし、いくら魅力的な文化があっても、それが求職者に伝わらなければ意味がありません。
「自社の良さが見つけてもらえない」そんな課題に直面したとき、必要になるのが採用広報です。ただし、やみくもにSNSを始めたり、採用動画をつくったりする前に、見極めるべき基準があります。
それが「採用したい人数」です。本記事では、採用人数ごとに変わる広報戦略の考え方と、発信の優先順位について解説します。
採用広報は「人数」から逆算するのが正解
企業が採用広報をどこまで行うべきかを決める際、最も現実的かつ合理的な指標となるのが「年間の採用人数」です。
採用広報に正解はありません。しかし、求める人数によって優先すべき施策や投資の仕方は明確に変わります。ここでは、採用人数別に最適な広報設計をひもときます。
採用人数が「5人以内」の場合:まずは接点と体験設計
採用人数が年間5人以下の企業では、大掛かりな発信や媒体出稿は必須ではありません。むしろ、「少人数だからこそできる丁寧な接点作り」が成果につながります。
体験と信頼が、応募のきっかけになる
この規模の採用においては、媒体広告やパンフレットよりも、「一人ひとりとの関係性構築」のほうがはるかに重要です。たとえば体験授業、座談会、見学会など、求職者がリアルに企業と関われる場を設計することが鍵です。
採用人数が「5〜10人」の場合:受け皿となるコンテンツ設計が必要
採用人数が年に5人を超えてくると、「来てくれた人を逃さない」仕組みづくりが必要になります。
この規模から「見られる設計」が求められる
興味を持ってくれた人に対して、きちんと受け皿を整えておかないと、機会損失につながります。採用ページ、パンフレット、社員紹介記事、理念の紹介など、基本的な情報コンテンツは不可欠です。
なぜ媒体を使っても効果が出ないのか?
このフェーズで「求人媒体に出せば採れる」と考えるのは危険です。実際は、多くの求職者が求人情報を見たあとに「企業名」で検索します。そのとき、会社の理念や働く人の姿が見えなければ、信頼を得るのは難しくなります。
SEOや広告では「接点」はつくれても、「共感」はつくれません。だからこそ、採用広報はまず「社内で何をどう伝えるか」の準備から始めるべきです。
採用人数が「10人以上」の場合:設計された発信が不可欠
ここまで来ると、偶然の出会いや小手先の施策では足りません。必要なのは「戦略的な設計」です。
明確なターゲティングとコンテンツ設計が必要
年間10人以上を採用したい場合、以下のような要素が求められます。
- 採用コンセプトの明確化
- ターゲット像の定義
- 採用パンフレット・採用動画の整備
- オウンドメディア運用
- SNSやYouTubeでの定期発信
- 採用説明会や合同イベントの開催
- エントリーフローの最適化
これらをバラバラにやるのではなく、「何のために誰に向けて何を伝えるか」を一本筋の通った戦略で進める必要があります。
インナーブランディングが土台になる
この段階では、「自社の軸を言語化」し、「全社でその言葉を共有」していなければ、いくら情報を発信しても薄くなってしまいます。中途半端な発信は、かえってブランド毀損につながるリスクすらあります。だからこそ、インナーブランディングの役割がますます重要になるのです。
発信するかどうかより「順番」と「優先度」が大切

「インナーブランディングができているから、あとは媒体を出すだけ」と考える企業もあります。しかし、これは半分正解で、半分間違いです。
発信する前に、「なぜ今、どの媒体で、誰に、何を伝えるのか」を整理しなければ、費用だけが先行し、成果につながりません。採用広報は「誰もがやるべきもの」ではなく、「やるべき人が、やるべきタイミングでやる」から効果を発揮するのです。
インナーから広報へ、「採用人数」で設計する
採用広報は、「インナーブランディングができているから、当然やるべき」ではありません。大切なのは、自社がどれだけの人を採用したいのか、そのためにどれだけの接点が必要なのかを見極め、戦略的に判断することです。
- 5名以下なら、「接点の深さ」で勝負
- 5〜10名なら、「見られる準備」が必要
- 10名以上なら、「戦略的発信」が不可欠
そして、どのフェーズでも共通するのは、「自社らしさを言語化しておくこと」。インナーブランディングで確立した自社の価値観を、発信によって外部に届ける。そのとき初めて、ブランドとしての採用力が発揮されます。
採用は“誰を採るか”ではなく、“誰に見つけてもらうか”の時代。だからこそ、あなたの会社が「誰に、何を、どう伝えるか」を今、見直す価値があるのです。
【弊社のインナーブランディング事例はこちらをご確認ください。】

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)