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レポート

2025.06.17

インナーブランディングとアウターブランディングは分けるべきか?

ブランディングという言葉を使うと、一般的には「外向き」のイメージを持たれることが多いかもしれません。たとえば、ロゴデザイン、広告、プロモーション、SNS発信。これらはすべて外部に向けた「アウターブランディング」です。

一方で、ここ数年「インナーブランディング(インターナルブランディング)」という概念が注目されるようになっています。採用活動や社内の理念浸透施策の文脈で語られることも増えました。

では、なぜこれらを分ける必要があるのでしょうか。むすびでは明確にこう考えています。分けざるを得ない。

本記事では、その理由と本来のインナーブランディングの本質を整理します。

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一般的なブランディングは「外にどう伝えるか」が中心

ブランディングという言葉は、元々マーケティングの世界で外部発信文脈で使われてきました。

  • ロゴやスローガンの統一
  • 広告キャンペーン
  • コーポレートサイトでのメッセージ統一
  • ブランドイメージの管理

これらはすべて、社外の顧客・取引先・社会に向けて「どう見せるか」を整える取り組みです。多くの経営者やマーケティング担当がイメージする「ブランディング」とは、このアウターブランディングを指します。

そのため、ブランディングという言葉を聞いた瞬間に「外向きの統一施策」と捉えてしまうのはある意味自然です。

インナーブランディングは「社内の組織作り」に踏み込む領域

一方で、インナーブランディングは性質がまったく異なります。むすびでは以下のように定義しています。

  • 経営理念や価値観を社内で言語化・整理する
  • 社員一人ひとりが共通言語で理解し、実践する
  • 行動指針や評価制度、採用方針にまで紐付けていく
  • 結果として「当たり前の文化」として組織に定着する

つまり、インナーブランディングは組織づくりそのものであり、単なる社内向け広報活動ではありません。

ポスターを貼ったり、スローガンを配ったりするのは「入口の一部」に過ぎず、それで完了した気になってしまうと本質を見誤ります。

分けざるを得ない理由は「実務領域が違う」から

インナーとアウターを分けざるを得ない最大の理由は、扱っている実務領域がそもそも違うからです。

  • アウターブランディング
    → 顧客認知/マーケティング戦略/広告投資/SNS運用
  • インナーブランディング
    → 経営理念策定/採用基準設計/評価制度/育成計画/マネジメント面談設計

つまり「見せ方」と「作り方」両方が必要ですが、プロセスも専門性も全く異なるのです。

大手企業で起きがちな「表面だけのインナーブランディング」

大手企業では、社内のあちこちにスローガンや理念ポスターが掲げられています。社内啓蒙キャンペーンとして展開されているケースも多いでしょう。

もちろんこうした啓蒙自体は悪いことではありませんが、そこに本質的な組織作りが伴わなければ、単なる貼り紙文化に終わります。

  • 毎朝唱和をするが意味が形骸化している
  • 理念の解釈が現場ごとにズレている
  • 評価制度は理念と紐付いていない

こうした状態では「インナーブランディングをやっている」と言いながら、実際は社内文化には浸透していないのが実態です。

インナーブランディングは「意図的に実践→定着→文化化」するプロセス

インナーブランディングは「意図的に実践→定着→文化化」するプロセス

むすびが考える本来のインナーブランディングは以下の3段階です。

  1. 意図的に実践する段階
    経営者が理念を明文化し、行動指針・評価制度・育成基準まで整理する
  2. 日常の中で定着させる段階
    朝礼・面談・フィードバック・表彰制度を通じて繰り返し浸透させる
  3. 文化として当たり前になる段階
    社員が自分の言葉で語り、迷わず判断できる状態になる

この流れを通じて初めてインナーブランディングは完成に向かいます。「文化」とはつまり、意識せずとも共通の価値観が組織全体で自然に共有される状態なのです。

組織論と融合させて考えるべき「実践型ブランディング」

むすびではインナーブランディングを、単なる「社内広報」ではなく「組織論と融合させるべき経営施策」と位置づけています。

  • 採用方針に反映する
  • 育成方針に反映する
  • 評価基準に反映する
  • 表彰制度に反映する
  • マネジメントの対話内容に反映する

つまり、経営の幹に直結する考え方です。ここが整っていれば、自然と採用ブランディングやカルチャービデオにも一貫性が生まれていきます。

アドラー心理学の「共同体感覚」が文化形成を加速させる

文化づくりの土台には心理学的な視点も重要です。むすびでは特にアドラー心理学の「共同体感覚」を重視しています。

  • お互いに信頼する
  • お互いに貢献し合う
  • 仲間意識を持つ
  • 承認欲求ではなく貢献欲求にフォーカスする

この感覚が社内に育っていくと、理念浸透は「押し付けるもの」ではなく「自然に共感して使われるもの」へと変わっていきます。社員同士が理念を媒介に「どう判断するのが貢献的か?」を日々語り合う組織は、極めて高い文化適応力を持つようになります。

インナーブランディングが整えばアウターも強くなる

最終的には、インナーが整えばアウターも一貫性を持ち始めるという好循環が生まれます。

  • 社員が語る言葉が採用サイトのコンテンツになる
  • 経営理念がSNS発信の核になる
  • 社内行動がそのまま外部信頼に直結する

これが「ブランドは文化の結果物である」と言われる理由です。

表面だけを飾ったアウターではなく、インナーで育まれた本物の文化を土台にしたアウターこそが、長期的なブランド力になります。

インナーブランディングは「地味で当たり前なこと」を整え続けること

結局のところ、インナーブランディングの本質は地道な積み重ねです。

  • 毎週10分の1on1
  • 日々の判断に理念を照らす
  • フィードバックで行動を修正する
  • 良い行動をタイムリーに承認する

これらの当たり前が、文化となり、ブランドの本質を育てていきます。その先に初めて、社内も社外も一貫性を持った「ブランディング」が成立するのです。

弊社のインナーブランディング事例はこちらをご確認ください。】

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深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター

2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)

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