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2025.06.03

インナーブランディングにおける理念の見直しは必要か?

インナーブランディングにおける理念の見直しは必要か?

経営環境の変化が激しさを増す中で、企業理念(VMV=Vision・Mission・Value)は時代に合わせて変えるべきなのか?

インナーブランディングを実践する企業にとって、「理念を変える」「バリューを修正する」という判断は、経営の根幹に関わるテーマです。

今回は、理念の見直しに対する考え方と、環境変化の捉えを整理して解説します。

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理念は環境によって変えるものではない

まず最初に強調したいのは、理念(VMV)は環境に合わせて頻繁に変更するものではないということです。理念とは本来、企業の普遍的な価値観や存在理由を言語化したものです。時代が変わってもなお残る「会社の軸」であり、逆に言えば環境に振り回されないために存在しているとも言えます。

たとえば、京セラフィロソフィーには78項目の価値観が示されていますが、その大半は何十年も基本的に変わっていません。なぜなら、そこに示されているのは時代に左右されない「原理原則」だからです。

むすびでも「理念は環境ではなく、経営者自身が本当に変えたいと思うかどうか」で考えることをお勧めしています。環境の変化は確かに刺激となりますが、だからといって理念自体を大きく書き換える理由には直結しません。

変わるべきは理念ではなく「運用と手段」

では、環境変化が起きた時に企業は何を見直せば良いのでしょうか?結論からいえば、理念の運用方法や表現手段を変えることが適切です。

たとえば、かつては全社員で毎朝の唱和をしていたが、今の組織規模では難しい。そうなれば唱和をやめて昇進試験の一部に盛り込むなど、理念の貫き方を現実的にアレンジするのです。理念そのものは変えず、理念を伝え・浸透させる方法が変わるイメージです。

外部に対しても同様です。かつてはテレビCMで理念を発信していたが、テレビ視聴者層が変わってきた今はYouTubeやSNSを活用する。このように、理念を外部に届ける「ルート」を環境に応じて柔軟に見直していくことは必要です。

「微修正」はあっていいが「全面刷新」は慎重に

もちろん、まったく理念に手を加えないのが正解というわけではありません。実際には、以下のような微修正や解釈の調整が行われるケースはあります。

  • 社員にわかりやすくするために表現を少し変える
  • 実態に合わせて項目を整理し削減・統合する
  • 重要性が増した価値観を新たに追加する
  • 以前の文言のままでは齟齬が生じる部分をアップデートする

こうした微修正はあくまで理念の本質が変わらない範囲で行うべきです。一方で「全面的に刷新する」「ゼロベースで作り直す」というのは、基本的に社長交代などのタイミング以外ではほとんど必要ありません。

理念とはその企業を象徴する「旗」です。同じ経営者が掲げ続けてきた旗を、安易に塗り替えることは、社員の混乱を招くリスクにもつながります。

社長自身が「本当に変えたい」と思ったなら変えていい

理念を変えるかどうかの最終判断基準は「社長自身が心からそう思っているか」という点です。

たとえば、新たな事業展開によって、社長自身の価値観や会社としての役割が大きく変わったと感じる場面が出てくるかもしれません。そうした時に、現場運用の違和感が蓄積し「今の理念では整理がつかなくなった」と感じるなら、慎重に検討すべきです。

ただし、これはあくまで社長が主体的に決断することであり、外部環境に言われたから・流行だから・他社がやっているから、という理由ではありません。理念は経営者自身の言葉であるべきだからです。

事業転換と理念修正の関係性

業転換と理念修正の関係性

事業が大きく転換した場合はどうでしょうか?

この場合は、経営判断次第といえます。ただし、大きく方向性を変えるものではありません。コアがぶれていないなら、理念をそのまま維持しても矛盾しません。むしろ、理念の抽象度が高いほど、新事業にも対応しやすくなるのが本来の姿です。

もし今の表現では社員やお客様に伝わりにくいと感じるなら、その部分を補足・拡張する形で理念表現を見直せば十分です。全面的に塗り替える必要はありません。

環境変化への対応は「理念実行の仕組み」を整えること

結局のところ、環境が変わった時に企業がやるべきことは、理念そのものの見直しではなく、「理念をどう実行するか」の仕組みを柔軟に変えることです。

  • 教育方法を変える(研修・評価制度・フィードバック文化のアップデート)
  • 発信手段を変える(採用サイト・SNS・動画活用)
  • 行動基準を整理する(新しい行動指針の具体化)

理念が正しく機能していれば、事業が変わっても拡張し、適応できるはずです。そして、その「適応」を可能にするのが、インナーブランディングの設計そのものなのです。

むすびの考える「理念は経営そのもの」という立場

むすびでは、インナーブランディングを単なる文化施策とは捉えていません。理念を経営の「幹」として機能させる設計こそが、経営の効率化に直結すると考えています。

環境変化に揺さぶられるたびに新しい施策を乱発していては、現場は疲弊し、むしろ理念が希薄化していきます。だからこそ、「理念は原則的に変えない/運用は柔軟に変える」*というバランスが極めて重要です。

もし「理念はあるけど実際の行動や制度に落ちていない」と感じるなら、それは“やっているつもり”の危険信号かもしれません。

弊社のインナーブランディング事例はこちらをご確認ください。】

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深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター

2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)

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