
採用市場において「買い手市場」と呼ばれる状況は、企業にとって一見追い風のように思えるかもしれません。求職者が多く、選考の選択肢が広がることで、採用活動が有利に進められると考えられがちです。
しかし、実際にはこの環境に油断すると、ミスマッチや早期離職といった落とし穴に陥るリスクも高まります。
数に頼った採用ではなく、企業自身の採用力を高めることが求められる時代。特に、内側から価値観を整える「インナーブランディング」が、買い手市場でも本当に選ばれる企業になるための鍵となります。本記事では、買い手市場の本質を整理し、今こそ強化すべき採用戦略について解説していきます。
買い手市場とは何か?採用活動に与える影響
買い手市場とは、求人に対して求職者の数が多く、企業にとって選択肢が広がる市場環境を指します。
一見、採用しやすい状況に見えますが、実は応募数の増加がそのまま質の向上につながるわけではありません。むしろ、適切な見極めを怠るとミスマッチや早期離職を招くリスクも高まります。ここでは、買い手市場の基本と、採用活動に与える影響について整理します。
買い手市場とは?供給過多で企業が有利な状況
買い手市場とは、求職者の供給が求人ニーズを上回る状況を指します。企業は多くの応募者の中から選考できるため、一見有利に見えます。
しかし、数が多いからといって理想的な人材が必ず含まれているわけではなく、選考の目を養う必要があります。数だけで判断せず、求める人物像に合致するかを慎重に見極める姿勢が求められます。
応募者が増えても、質が上がるわけではない
応募数が増えても、その中に自社にフィットする人材が増えるとは限りません。条件に合わない応募が増えれば選考負担も増し、見極めの難易度も上がります。
採用活動の質を保つためには、応募者一人ひとりを丁寧に評価し、単なる母集団形成に安心しないことが重要です。
油断すると、ミスマッチや離職リスクが高まる
買い手市場に安心して採用基準を緩めると、ミスマッチが増え、入社後の早期離職リスクも高まります。
採用段階でしっかり適性を見極め、自社の文化や業務にフィットするかを確認することが、結果として組織全体の安定につながります。
買い手市場=楽できるという誤解が生む落とし穴

買い手市場では、企業側に有利な印象から「楽に採用できる」と考えがちですが、これは大きな誤解です。油断すれば、組織に悪影響を及ぼすミスマッチ採用が増え、現場に負担がかかるリスクも生じます。
ここでは、買い手市場に潜む誤解とその弊害について解説します。
「数が集まるから、選び放題」という幻想
応募者が多くても、理想の人材を自由に選べるわけではありません。応募者の中から本当に自社に合った人材を見抜く力がなければ、数だけ増えても採用の質は上がりません。選択肢
が広がる分、見極め力がより問われるのが現実です。
惰性で採用すると、現場にしわ寄せがくる
選考基準を緩めたり、数合わせで採用を進めると、現場での教育負担や業務負荷が増加します。
惰性の採用は短期的な充足感をもたらしますが、中長期的には生産性の低下や既存社員の離職を引き起こしかねません。
短期的な成功体験が、長期的な人材難を招く
買い手市場での採用成功に安心し、採用力の向上を怠ると、景気回復時に人材確保が難しくなるリスクがあります。今のうちに基盤を整えておかないと、将来、競争力を失う可能性もあるのです。
買い手市場でも採用力が問われる理由
市場環境が企業に有利であっても、求める人材を確実に採用し、定着させるには企業の採用力が試されます。特に、優秀な人材ほど企業を見る目が厳しくなっており、採用活動の質が一層重要視されています。ここでは、その理由について詳しく解説します。
「来た人を採る」だけでは、組織の未来は作れない
偶然集まった応募者を受動的に採用しているだけでは、組織の未来像を実現できません。企業が目指すビジョンに沿った人材を主体的に見極め、採用する戦略的視点が欠かせません。
優秀な人材ほど企業を見る目がシビアになっている
優秀な求職者は、市場環境に関わらず企業文化や働き方、将来性を厳しく見極めています。単なる条件提示だけでは選ばれないため、企業としての本質的な魅力を磨き、誠実に伝える努力が必要です。
「採った後」が重要視される時代に入っている
採用活動は内定出しで終わりではありません。入社後の活躍と定着こそが、採用成功の真の評価基準となっています。オンボーディング施策や育成環境の整備も含めて、採用活動を設計する必要があります。
採用力を高めるには、インナーブランディングが欠かせない
買い手市場であっても、採用力を本質的に高めるためには、組織の内側から価値観を共有する取り組み、すなわちインナーブランディングが不可欠です。ここでは、インナーブランディングによって得られる効果と、その具体的な実践方法を解説します。
採用の軸を社内で明確に共有する
理想の人材像や評価基準を社内で統一しておくことで、採用プロセスに一貫性が生まれます。これにより、ミスマッチのリスクを減らし、選考の質を高めることができます。
応募前から「らしさ」が伝わる組織文化をつくる
インナーブランディングによって、社員自身が企業文化を体現し発信できるようになります。結果として、企業の「らしさ」が外部にも伝わり、共感する人材を惹きつける力が強まります。
入社後のギャップを減らし、定着率を高める
入社前後のギャップを最小限に抑えることで、早期離職を防ぎ、社員の定着率を高めることができます。価値観を共有した採用活動と、入社後のフォロー体制が両輪となって機能します。
買い手市場を“本当の採用力強化”のチャンスに
買い手市場は、単に採用がしやすいだけの時期ではありません。本質的な採用力を磨き、未来に備える絶好のチャンスです。
今だからこそ、インナーブランディングを通じて採用基盤を強化し、どんな市場環境でも選ばれる企業づくりを目指しましょう。
【弊社のインナーブランディング事例はこちらをご確認ください。】

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)