
多くの企業が「採用できない」という悩みを抱えています。応募が集まらない、良い人に出会えない、内定を出しても辞退される。こうした状況は、個別の施策や媒体選定の問題として語られがちですが、実際にはもっと構造的な問題として起きています。
この記事では、採用がうまくいかない企業に共通する負の連鎖を整理し、その背景にある「採用観」そのものを問い直します。そのうえで、共鳴経済と採用ブランディングの視点から、採用の捉え方をどう変えるべきかを考えます。
採用できない企業に起きている負の連鎖
採用がうまくいかない企業では、ほぼ例外なく同じ流れが起きています。
「人が集まらない、選べない、辞退が多い、入社しない、そして入社してもすぐ辞める」この連鎖は、一度はまると抜け出しにくく、年を追うごとに状況が悪化していきます。
理想の採用フローとの決定的な違い
本来、採用の理想形はシンプルです。
「思うような人に出会い、その人を口説き、納得して入社してもらい、入社後に活躍してもらう」この流れが回れば、採用は安定します。
問題は、多くの企業がこの理想から大きく外れたやり方を続けていることにあります。
なぜ負の連鎖から抜け出せないのか
負の連鎖が起きる最大の原因は、「集める力=採用できる力」という考え方が、いまだに採用の前提になっていることです。
母集団を多く集めれば採用できる、という発想は、求人媒体の世界では合理的かもしれません。しかし、それはあくまで媒体側の論理であり、企業側の採用力そのものを高める考え方ではありません。
採用に必要なのは「口説く力=共鳴の力」
本当に必要なのは、どれだけ人を集めたかではなく、「この会社で働きたい」と思ってもらえるかどうかです。
言い換えると、採用で問われているのは口説く力であり、共鳴を起こす力です。この共鳴の力を定義し、意図的につくろうとした瞬間、採用のやり方は大きく変わります。
数で勝負する採用から、関係性で選ばれる採用へ。この転換ができない限り、負の連鎖は続きます。
採用で大事なのは「強く・好ましく・ユニーク」であること
採用において重要なのは、万人に好かれることではありません。
強く、好ましく、ユニークであること。この3つが揃って初めて、共鳴は生まれます。
炎上型の注目は採用に向かない
近年、SNSで注目を集めるために、過激な表現や炎上を狙う手法が増えています。しかし、これはブランド論にも採用にも適していません。
採用は、その人の人生を左右する選択です。どれだけ話題になっていても、「好ましくない」と感じた時点で選択肢から外れます。注目されることと、選ばれることは別物です。
採用ブランディングは採用の土台

採用ブランディングは、即効性のあるテクニックではありません。採用活動全体を支える土台です。
採用は、広報やプロモーションの領域と、応募者との直接接点の両方で構成されますが、特に重要なのは直接接点です。
一貫性が印象をつくり、共鳴を生む
どんな言葉を使い、どんな態度で接し、何を伝えるのか。これらに一貫性があると、企業の印象は強く残ります。
この一貫性が共鳴を生み出したとき、大手企業や有名企業を断って、無名の企業を選ぶという現象が起きます。これこそが、共鳴経済と採用ブランディングが交わるポイントです。
事例から見る採用ブランディングの効果
過去には、多額の予算をかけた採用施策でも成果が出なかった企業が、採用ブランディングに取り組んだことで状況を大きく変えた例があります。
ある会社では、採用に大きな投資をしても人が取れなかった時期がありました。しかし、採用ブランディングに切り替えたことで、高卒人材を含めて複数名の採用に成功しています。中には、有名企業を断って入社した人もおり、その後、最速で店長や中途採用の責任者に就いたケースもありました。
トンマナが揃うことで信頼が生まれる
この事例で重要なのは、ホームページ、パンフレット、映像などのトンマナが揃っていたことです。制作物の依頼先がバラバラだと、どうしてもメッセージにズレが生じます。
採用ブランディングでは、どの接点でも同じ価値観や空気感が伝わることが、共鳴を生む前提になります。
採用市場の現実と中小企業の立ち位置
現在の採用市場は、1人が複数の内定を持つのが当たり前の時代です。大企業の内定数は増え、その分、中小企業に人材が回りにくくなっています。
この状況で、母集団の数だけを追いかけても、勝ち目はありません。
直接接点こそが中小企業の強みになる
採用広報や広告では、大手企業と比べて予算で勝つことは難しいでしょう。しかし、直接接点であれば話は別です。
面談や面接、社員との対話の中で、企業の考え方や想いを丁寧に伝えることは、共鳴を起こしやすい領域です。中小企業こそ、採用ブランディングによって、この強みを最大限に活かすことができます。
一貫したメッセージで共感・共鳴を生み出す
採用できない負の連鎖は、採用手法の問題ではなく、採用の捉え方から生まれています。集める力ではなく、口説く力、共鳴させる力に軸足を移すことで、採用の景色は大きく変わります。
採用ブランディングは、そのための土台です。強く、好ましく、ユニークであることを恐れず、一貫したメッセージと接点をつくることが、これからの採用には求められています。

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)

