なぜあなたの会社は「推されない」のか?
採用難を突破し、組織づくり、
顧客との関係性を強化する
「共鳴経済」という新発想。
「また、内定辞退の連絡が来た…」
みなさんもそんなため息をついたことがあるのではないでしょうか。
従業員300人未満の企業では、新卒採用の倍率が9倍。 応募が来ない、来ても辞退される、入社しても定着しない。 中小企業の人事担当者にとって、これはもはや日常です。
一方で、街を見れば「推し活」に夢中な人たちであふれています。
好きなアイドル、好きなブランド、好きなカフェ。
人は心から「好き」になったものには、時間もお金も惜しみません。
では、なぜ企業は「推されない」のか?
その答えが、いま注目されている「共鳴経済」という考え方にあります。
今回は、経営の中でも「共鳴経済×採用分野」に絞ってサマリーを書いていきます。
「共感」ではもう人は動かない。必要なのは「共鳴」
「共鳴経済」とは、2025年のマーケティング学会で私が発表した新しい経営理論。
一言でいえば、「企業の理念と、個人の使命が響き合う関係性」を軸にした経営モデルです。
ここで重要なのは、「共感」と「共鳴」は違うということ。
- 共感(sympathy) = “そうだね”と頷くこと
- 共鳴(resonance) = 心が震え、行動したくなること
たとえば、理念に「共感」した人は「いい会社ですね」と言います。
でも、理念に「共鳴」した人は「ここで働きたい」と応募してきます。
この”行動を伴う心の反応”こそが、採用において決定的な違いを生むのです。
共鳴を生む「5つの設計要素」
では、どうすれば求職者の心に共鳴を起こせるのか?
研究では、次の5つの要素が鍵だと明らかになっています。
1. 理念・考え方
→ 何のために会社が存在しているのかを、明確に語る
2. 歴史・由来
→ なぜ今ここにいるのかを、物語として伝える
3. 品質
→ 期待を超える体験を、実際に提供する
4. 体験価値
→ 説明会や選考を「共につくる場」にする
5. デザイン(見た目)
→ 視覚的・感性的な一貫性で、印象を整える
特に注目したいのが「体験価値」です。多くの企業が、会社説明会を情報提供の場だと考えています。
でも、共鳴経済の視点では、説明会は「共に何かを体験する場」。
たとえば、
- 現場の社員と一緒にプロジェクトを疑似体験するワークショップ
- 社長と少人数で語り合う座談会
- 入社前から関われるコミュニティへの招待
こうした「一緒につくる体験」が、心の距離を一気に縮めます。採用は、選ぶ場ではなく、響き合う場なのです。
採用時の「共鳴」が、すべての出発点
調査結果で特に興味深いのは、次の因果関係です。採用時に理念へ共鳴した人ほど、入社後も理念への共感が続き、仕事への貢献実感・感動体験、さらには「人生の使命の発見」にまでつながる。
つまり、採用は単なる入口ではなく、共鳴経済のスタート地点。ここで共鳴が起きるかどうかが、その後の定着率・エンゲージメント・顧客満足のすべてに影響するのです。
だからこそ、採用活動は「数を集める活動」ではなく、
「共鳴する人と出会う活動」へと再定義する必要があります。
「差別化」ではなく「共鳴化」を目指す
ここで、多くの人事担当者が陥りがちな罠があります。それは、「若者にウケる施策は何か?」と、市場の流行を追いかけてしまうこと。
でも、共鳴経済のアプローチは真逆です。
流行を追うのではなく、自社の理念・歴史・体験を丁寧に伝え、共鳴を積み重ねる。
その結果として、「他のどこにもない会社」として認識される――これが共鳴経済の発想です。
「差別化しよう」ではなく、「共鳴を育てよう」。
その先に、自然とブランドが形成されていくのです。
共鳴が広がると、社員が会社を推すようになる
共鳴経済が目指すゴールは、単なる採用成功ではありません。共鳴が広がった先には、こんな光景が待っています。
- 社員が自ら「うちの会社、いいよ」と周囲に語り出す
- 顧客が「この会社から買いたい」と指名してくれる
- 求職者が「ここで働けたら幸せだ」と応募してくる
やがて企業ごとに「共鳴経済圏」が形成され、それぞれの会社が、自分らしい幸せの形を実現していく。
競争ではなく、共生。奪い合いではなく、響き合い。
それが、共鳴経済の描く新しい経営の姿です。
まとめ「理念を掲げる」から「理念を響かせる」へ
採用難の時代。求人広告の予算を増やしても、SNSを頑張っても、人は簡単には動きません。
人が本当に動くのは、心が「共鳴した瞬間」です。だからこそ、人事が本当に取り組むべきは
「理念を掲げること」ではなく、「理念を響かせること」。
共鳴経済という考え方は、その実践への羅針盤となるはずです。
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興味のある方は論文を下記よりDLしてください。
深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)


