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レポート

2026.02.27

インナーブランディングの“ここ”が抜けると失敗する

インナーブランディングに取り組む企業は増えていますが、成果につながっているケースは多くありません。その背景には、ブランディングを「整えること」で止めてしまい、「浸透させること」まで設計できていないという共通した課題があります。

本記事では、インナーブランディングで見落とされがちなステップと、本来考えるべき構造について整理します。

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インナーブランディングで見落とされがちなポイント

インナーブランディングというと、ロゴや名刺、ホームページ、理念の言葉を新しくすることを思い浮かべる企業が多く見られます。確かに見た目を整えることは一つの要素ですが、それだけでは組織は変わりません。

実際には、役員や経営層と、現場の社員が考えていることの間にズレが生じているケースが少なくありません。そのズレについて「感じてはいるが、何をしているかと聞かれると何もしていない」という状態が多く見受けられます。

見た目を変えただけで終わってしまう構造

理念を言語化し、ロゴや名刺を刷新する。そこまでは実行できていても、「どうやって社内に広めるのか」「誰がどう理解し、行動を変えるのか」という部分が設計されていないことがほとんどです。

経営者が「今後は社長が全社員と話をする」と言う場面もありますが、社員数が数百人規模になると現実的ではありません。一部のランチミーティングなどは有効な場合もありますが、それだけで全社に浸透することは難しいのが実情です。

なぜ理念が浸透しないのか

理念が浸透しない最大の理由は、「実際の浸透の動き」が存在しないことです。言葉を作る、デザインを変える、という工程はあっても、その後に何をするのかが抜け落ちています。

組織内をどう変えていくかという視点の欠如

インナーや企業ブランディングに取り組む際、「組織内をどう変えていくか」という視点が最初から欠けているケースが多くあります。本来のブランド論では、社内に向けたブランディングは不可欠な要素です。

外に向けた発信だけでなく、社員一人ひとりがブランドを理解し、行動できる状態をつくることが前提になります。

社員はブランドを演じる存在である

ブランド論では、社員は「ブランドを演じる存在」であるとされています。演じるとは、単に知っているという意味ではありません。理解し、覚え、日々の行動で実行できている状態を指します。

しかし多くの企業では、社員が理念を語れるようになるための施策が行われていません。結果として、理念は存在していても、行動には反映されないままになります。

インナーブランディングに必要な構造

インナーブランディングは、制作物を作ることがゴールではありません。重要なのは、入口から出口までを一つの流れとして設計することです。

社員を巻き込む入口と、浸透させる出口

ブランディングにおいて重要なのは、次の二点です。

一つ目は、社員を巻き込んでプロジェクトとして始める入口。二つ目は、理解・浸透・実行まで到達させる出口。制作はこの中間に位置します。

制作物だけを切り出しても、入口と出口がなければ機能しません。

分業構造が生みやすいズレ

理念策定と、理念浸透を別の会社に分けるケースもあります。

例えば、広告代理店で理念やコピーを作り、浸透は別の研修会社に任せるといった形です。しかし、この構造ではうまくいかないことが多くあります。広告代理店は研修やトレーニングを前提としていませんし、研修会社が企業の思想を深く理解したコピーを作るのも難しいからです。

結果として、理念と言葉、実行がバラバラになります。

なぜ浸透の意識が抜け落ちるのか

そもそも多くの企業で、「ブランディング=見た目」という認識が根強くあります。経営者側も、ブランディングを浸透の仕組みとして捉えきれていないケースが少なくありません。

また、制作物を作ること自体がビジネスになっているため、浸透や実行の部分が後回しにされやすい構造も存在します。

本来のインナーブランディングがもたらすもの

本来のブランディングは、見た目を整えるだけの取り組みではありません。社員の理解が深まり、行動が変わり、組織としての一体感が生まれる。その結果、採用、定着、業績といった複数の成果につながります。

インナーブランディングは、一石一鳥の施策ではありません。正しく設計すれば、一石何鳥にもなる経営施策です。そのためには、入口で社員を巻き込み、制作を思想と一体で行い、出口で理解・浸透・実行まで責任を持つ。この構造を欠かさないことが、インナーブランディングの前提になります。

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深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター

早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。学術論文7編(査読付き)。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)。国立大学法人富山大学とウェルビーイングに関する共同研究「幸福を超える共鳴」。2025年、新理論「共鳴経済」を日本マーケティング学会にて発表。

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