
紹介会社に年間数百万円使っても採れなかった組織が、ハローワークで「常時予約あり」になるまで
「うちは地方だから、人が来ない」
「紹介会社を使わないと、もう採用できない」
そう諦めていた医療・福祉グループが、わずか半年で15名超の採用に成功しました。
しかも、紹介会社の利用はほぼゼロ。
主戦場は、ハローワークとリファラル採用です。
この事例から見えてきたのは、「地方だから採れない」のではなく、
「やり方を変えれば、地方でも採用の再現性はつくれる」という事実でした。
今回は、この医療・福祉グループA(仮称)の1年半にわたる取り組みを、
現場の実践知として、できるだけ具体的にお伝えします。
プロジェクトの出発点:30代半ばの新理事長と、構造的な採用難
グループAは、医療法人と社会福祉法人からなる地方の中規模法人。
30超の事業所を抱え、慢性的な人手不足に悩んでいました。
新理事長が就任し、最初に取り組んだのが「採用ブランディング」。
その後、企業ブランディング、ビジョン・ミッション・バリュー(VMV)策定、
理念浸透へと展開していきました。
プロジェクトの最終ゴールは、”採用の再現性”。
単発の成功ではなく、現場に仕組みを残すことが最優先でした。
最初の壁:巻き込むメンバーが、間違っていた
プロジェクトが始まって最初に直面したのが、メンバー選定の問題でした。
初回ワークに集まったのは、40〜50代のベテラン中心。
若手や次世代の中核候補が、ほとんどいなかったのです。
ベテランの知見は貴重です。
でも、採用ブランディングは「未来の組織にふさわしい人材像」を描く営み。
ディレクターは理事長と調整し、メンバー選定を”未来基準”で再編成。
中堅・新任の2〜3名を加えました。
結果、この新メンバーが後にリーダー格へと台頭し、
採用・総務・会議運営を横断して中核化していきました。
なぜこれが効いたのか?
採用ブランディングは、未来に主体的に関与する当事者を初期から巻き込むことで、
設計と実装の距離が縮まります。
“伝統×未来”の編成が、現場の運用力を上げる鍵でした。
二つ目の壁:ワークへの苦手意識と、発言の停滞
地方拠点でのリアル開催。
デジタルや発表が苦手な参加者が多く、「何を話せばいいか分からない」という空気が漂っていました。
ディレクターが取った戦略は、シンプルでした。
- 専門用語を封印
- 「何も準備せず、リラックスして来てください」と事前に伝える
- 小さな成功体験を分解して、「できた」を積み重ねる
この”心理的安全性”の醸成により、徐々に発言量が増え、
「考え→発言→行動」の循環が回り始めました。
なぜこれが効いたのか?
初期段階での学習不安(できない・分からない)は、参加動機を毀損します。
言語負荷を落とし、小さな成功を可視化することで、
後の「小さな成功の横展開」を機能させる組織学習の土台ができました。
転換点:「うまくいっている拠点が1つでもある」を、強みに変える
30超の事業所のうち、採用でうまくいっている拠点は少数。
多くのメンバーは「他がダメだから」と悲観していました。
でも、ディレクターの視点は違いました。
「良い例が1つでもあることは、強みです。
その拠点のやり方を、他に広げればいい」
見学会で成果が出ていた拠点を動画で撮影し、標準化。
他の拠点が真似できる状態をつくりました。
なぜこれが効いたのか?
“うまくいっている現場のやり方”は、その組織に最適化された”生きたナレッジ”。
他社の借り物ではないから、再現性が高い。
動画化により暗黙知を形式知に変換し、
「人事がやれ」という他人事感を、「現場が語る・現場が回す」に置換できました。
ハローワーク戦略:予約ゼロでも、毎月出席する
コロナ期以降、ほぼ活用していなかったハローワーク。
プロジェクトでは、ここに再び軸足を置きました。
戦略はシンプルです。
「毎月、必ず出席する。予約ゼロでも」
最初の数か月は、参加者がゼロの日もありました。
でも、毎月欠かさず出ることで、ハローワークの職員と関係性を積み重ねました。
やがて、職員の間で「この法人は丁寧で信頼できる」という評判が広がり、
説明会の着席・参加が安定。
経験者・有資格者の来訪も増えていきました。
さらに、短時間勤務の求人枠を新設。
育児中や介護中の潜在層を掬い上げる入口をつくりました。
なぜこれが効いたのか?
公共機関は、「継続的・誠実な出席」を最もよく見ています。
ゼロ予約でも出席するのは、心理的契約の積み重ね。
職員の口伝(内内の推奨)を誘発し、紹介の質と量が変わります。
短時間枠は、潜在層(育児・介護・ダブルワークなど)を掬い、
入口の転換率を押し上げました。
見学会の設計:「語りの力」を標準化する
見学会の質が高い拠点には、共通点がありました。
魅力を言語化して語れる「現場チャンピオン」がいたのです。
見学会の運び方、語り口、体験の順路を動画で標準化し、他拠点へ移植。
人事主導から現場主導へ切り替えることで、
「仕事のリアル×温度の伝播」が実現し、早期離職の抑制にも寄与しました。
なぜこれが効いたのか?
採用の最終判断は、言語化された事実だけでなく語り手の信頼で決まります。
現場チャンピオンの一次情報は、職務価値の解像度を上げ、
ジョブ・リアリスティック・プレビュー(RJP)として機能。
動画化により、属人スキルを組織資産化できました。
成果が出ない「3〜4か月」を、どう耐えたか
施策を始めても、すぐには成果が出ません。
私たちのディレクターは、小さな前進を一つずつ言語化して可視化しました。
「開催できた」
「学生と話せた」
「応募が来た」
こうした小さな成功を称揚し、次の改善点に接続するファシリテーションに徹しました。
これにより、「正しい努力を続けられる空気」を保ちました。
なぜこれが効いたのか?
採用はファネルの遅延が大きい。
短期で”数”が出ない期間に行動の継続が止まると、学習が途切れます。
前進の事実を分解し、称揚し、次の打ち手に接続する。
この習慣化設計こそが、再現性の母体になります。
タイムラインと成果
2024年初頭
採用ブランディングを起点にプロジェクト始動。
のち企業ブランディング/VMV策定/理念浸透へ拡張。
2024年8月
月1〜2時間・リアルの定例伴走スタート(以降、原則毎月)。
秋
離職(早期離職、教育不全、紹介会社依存)を最重要課題に設定。
見学会の試行、ハローワーク活動の再開を決定。
年明け
ハローワーク内での評価が「丁寧・信頼」へ転じ、参加者・着席増。
毎月の仕事説明会が安定運用へ。
春〜初夏
経験者・有資格者の応募が出始め、予約常時化。
紹介会社経由はほぼ停止、リファラル採用も増勢。
夏〜秋
半年で15名超の採用を達成。
高卒採用を再開(1か月ほどで3名/複数校から)。
新規事業所開設に向けた採用へ軸足を移行。
具体的な成果まとめ
採用実績
半年で約15名超(採用ブランディング実行後)
チャネル構成
ハローワーク経由が主流化、紹介会社はほぼ停止、リファラルが併走
高卒採用
約1か月の学校訪問で3名内定(複数校から)
組織学習
新任〜中堅のプロジェクトメンバーがリーダー格へ台頭。
会議・採用・総務領域を横断して中核化。
この事例から学べる、7つの実装ポイント
地方の医療・福祉法人が半年で15名採用できた背景には、
「特別な広告投資」や「劇的な制度変更」はありませんでした。
あったのは、地道な積層と、正しい仕組みづくりです。
以下、そのまま使える実装チェックリストをまとめます。
1. メンバー選定を未来基準で行う
ベテランと次世代の中核候補を混成チームにする。
未来に関与する当事者を初期から巻き込む。
2. 心理的安全性を最優先にする
横文字禁止・準備不要宣言・「できた」の分解で発言量を増やす。
3. 現場チャンピオンを見つけ、動画で標準化する
いかがでしょうか?採用ブランディングの効果として、みなさんの参考になればと思います。

