年商10億でも採れなかった会社が変わった理由|外食企業の採用ブランディング事例
年商10億円の外食企業が、採用に年間3000万円を投じても人が採れない状態に陥っていました。原因は予算でも知名度でもありません。3000万円の大半が「とにかく多くの応募を集める」ことに消え、自社が何者で誰と働きたいのかを語れていなかった。ここを採用ブランディングで立て直したことが転換点でした。この記事では、何が失敗の構造だったのか、どこを変えて採用力を取り戻したのかを解説します。
自社の採用が「お金をかけているのに採れない」状態にある方は、こちらからお問い合わせください。
この記事の目次
- 何が起きていたか|年商10億、採用費3000万でも人が採れない
- 失敗の正体|母集団至上主義という構造
- 転換点|「条件」で口説くのをやめた
- 何を変えたのか|ビクトリーゾーンの再定義
- 全社一丸で口説く|採用を人事部の仕事にしない
- なぜ採用費を増やさずに採れるようになったのか
- この事例から中小企業が学べること
- よくある質問(FAQ)
- まとめ|お金ではなく物語で採る
何が起きていたか|年商10億、採用費3000万でも人が採れない
最初に、この会社が置かれていた状況を整理します。数字だけ見れば、採用に投資できない会社ではありませんでした。
相談に来られたのは、複数の飲食店舗を運営する年商10億円規模の外食企業です。事業は伸びていて、出店のために人手はいくらでも必要でした。だから採用にはお金をかけていた。求人媒体への出稿、人材紹介会社への依頼、説明会の開催を合わせて、年間でおよそ3000万円。中小企業としては相当な金額です。
それでも、人が採れない。正確に言えば、応募は来るのに、来てほしい人が来ない。採っても定着しない。現場は常に人手不足で、店長が疲弊し、既存社員が辞めていく。採用費だけが膨らみ、組織は擦り減っていく。経営者の方は「これ以上どこにお金をかければいいのか」と話されていました。問題は、お金の量ではありませんでした。
失敗の正体|母集団至上主義という構造
なぜお金をかけても採れなかったのか。原因は、採用の前提そのものにありました。
3000万円の使い道を分解すると、その大半が「母集団形成」に向かっていました。とにかく多くの応募を集め、その中から選ぶ。たくさんの母集団さえあれば、いい人に当たるはずだ。この考え方を私は母集団至上主義と呼んでいます。多くの会社が当たり前のように採っている前提ですが、ここに採用が崩れる構造があります。
母集団を広げる採用は、給与・休日・立地といった「スペック」で人を集める採用です。スペックで集めた人は、スペックで動きます。つまり、より良い条件を出す店が現れた瞬間に去っていく。外食業は競合も多く、条件の上限も見えやすい。だからこの会社は、応募を集めるたびに条件勝負に引きずり込まれ、採っては抜けるを繰り返していました。お金をかけるほど消耗が深くなる。これは、母集団至上主義という構造の必然でした。
「応募は来るのに採れない」「採っても辞める」と感じている方は、一度ご相談ください。
転換点|「条件」で口説くのをやめた
立て直しの出発点は、施策を足すことではありませんでした。むしろ、やってきたことをやめることから始めました。
私が最初にお願いしたのは、母集団を広げる発想を一度手放すことです。応募数を追うのをやめる。条件で勝負するのをやめる。代わりに、この会社が何者で、どんな未来を目指し、誰と一緒にそこへ行きたいのかを言葉にする。給与や休日というスペックを超えて人の心を動かすのは、会社の歴史や創業の想い、未来のビジョンという物語だからです。物語こそが、最高の口説き文句になります。
外食という仕事は、本来とても物語の豊かな仕事です。なぜこの店を始めたのか。どんな食卓を、どんな時間を客に届けたいのか。経営者の中には、はっきりとした想いがありました。ただ、それが採用の現場では一切語られず、求人票には時給と勤務地しか書かれていなかった。本質を、飾る必要はありません。中身で勝負する。眠っていた物語を掘り起こすことが、最初の仕事でした。
何を変えたのか|ビクトリーゾーンの再定義
物語を語るといっても、誰にでも同じことを言うわけではありません。次に取りかかったのは、戦う場所の定義です。
私たちは、自社の強みと、求める同志のインサイトが交差する独自の領域をビクトリーゾーンと呼んでいます。大手チェーンと同じ土俵で、同じ条件、同じ母集団の取り合いをしても勝ち目はありません。この会社が勝てるのは、この会社らしさに深く共鳴する人に、深く届けたときだけです。
経営者と現場社員へのヒアリングを重ねて、この会社が本当に大事にしている価値観と、それに響くのはどんな人かを言語化していきました。条件で選ぶ人ではなく、この店が届けようとしている体験に共感し、自分もその担い手になりたいと思える人。求める人物像を、スペックではなく価値観で定義し直した。ターゲットが定まれば、メッセージも媒体も絞れます。母集団を広げるのではなく、最初から自社に共鳴する人だけを惹きつける設計に変わりました。
全社一丸で口説く|採用を人事部の仕事にしない
設計を変えても、それを伝える人が変わらなければ現場は動きません。ここが、外食業のような現場主導の組織で特に効いた部分です。
採用は、人事部だけのタスクではありません。同じ未来を目指す同志を、組織全体で迎え入れる活動です。私たちは、店長やベテラン社員が自社の価値を自分の言葉で語れる状態を作ることに時間をかけました。言語化したのは経営者の物語ですが、それを現場の一人ひとりが自分の体験と結びつけて語れるようにする。面接の場が、選別ではなく、理念を伝え合う対話の場に変わっていきました。
候補者にとって、面接で出会う社員が生き生きと自社を語る姿は、どんな求人広告よりも雄弁です。採用プロセスそのものが、この会社らしさを体現するブランド体験になる。全社一丸で迎え入れる本気度は、条件では伝わらない熱量として候補者に届きます。これは、お金で買える要素ではありません。
なぜ採用費を増やさずに採れるようになったのか
ここまで読んで、結局それで採用費はどうなったのか、と思われるはずです。結論から言えば、費用を増やさずに採用の質が上がりました。理由は構造にあります。
母集団至上主義をやめると、まず無駄な広告費が減ります。万人に向けた出稿をやめ、共鳴する人に深く届ける設計に変えるからです。応募の総数は減るかもしれませんが、その一件あたりの質が上がる。価値観で惹きつけた人は、入社後の定着率が高い。採って辞めての繰り返しが止まれば、採り直しのコストも消えます。物語で集めた関係は、条件では崩れないからです。
3000万円という金額そのものが問題だったのではありません。そのお金が、母集団という底の抜けたバケツに注がれていたことが問題でした。同じ予算でも、ビクトリーゾーンに共鳴する同志を迎えるために使えば、投資対効果はまるで変わります。採用は、経営の最も効率的な入口です。この会社にとって、採用の立て直しは、組織そのものを立て直す出発点になりました。
この事例から中小企業が学べること
最後に、この外食企業の話を、自社に引き寄せて考えるための論点を3つに絞ります。
第1に、採れない原因をお金の量に求めない。3000万円を投じても採れなかったという事実は、追加投資が解ではないことを示しています。問うべきは、そのお金が母集団形成に消えていないか、です。第2に、スペックではなく物語で口説く。給与や休日で集めた人はスペックで去ります。自社の歴史と想いという物語こそが、長く働く同志を呼びます。第3に、採用を全社の活動にする。現場社員が自分の言葉で会社を語れることが、最大の採用力になります。
これらは外食業に限りません。業種を超えて働く共通の構造です。自社の採用がうまくいっていないと感じるなら、施策を足す前に、母集団至上主義という前提を疑うことから始めてください。
自社のビクトリーゾーンを一緒に見つけたい方は、お問い合わせください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 年商10億円規模でないと採用ブランディングは効果がありませんか。
いいえ。むしろ規模が小さいほど、経営者の関与と全社一貫性を担保しやすく、採用ブランディングは効きやすくなります。この事例で効いたのは予算の大きさではなく、母集団至上主義をやめて物語で口説く設計に変えたことです。同じ転換は、より小さな会社でも実行できます。
Q2. 採用費を3000万円もかけられない会社はどうすればいいですか。
採用費の大小は本質ではありません。重要なのは、限られた予算を母集団形成ではなく、共鳴する人へ深く届けることに使うことです。目的を絞れば、強み抽出と採用コンセプト設計から小さく着手できます。費用の考え方は採用ブランディングの費用相場を参照してください。
Q3. 応募数が減るのが怖いのですが、母集団を広げなくて大丈夫ですか。
応募の総数は減ることがあります。しかし採用のゴールは応募数ではなく、定着し活躍する同志を迎えることです。価値観で惹きつけた人は定着率が高く、採り直しのコストが消えます。総数ではなく一件あたりの質を見てください。
Q4. 外食業は離職率が高い業種ですが、それでも定着しますか。
業種の平均離職率は前提であって運命ではありません。スペックで集めれば業種平均に引きずられますが、自社の物語に共鳴して入った人は、その物語が続く限り辞めにくい。定着は採用の入口で決まります。
Q5. 効果が出るまでにどれくらいかかりますか。
強みの言語化とビクトリーゾーンの定義に着手してから、採用の現場が変わり始めるまでにおおむね半年が目安です。ただし最も大きな効果は、現場社員が自社を語れるようになる組織の変化として、その後も長く続いていきます。
まとめ|お金ではなく物語で採る
年商10億円、採用費3000万円でも人が採れなかったこの外食企業の話が示すのは、採用の問題はお金の量では解けないという事実です。3000万円が母集団という底の抜けたバケツに注がれている限り、いくら足しても漏れていきます。
転換は、応募を集めるのをやめ、自社の物語を語り、ビクトリーゾーンに共鳴する同志を全社で迎え入れる設計に変えたことから始まりました。スペックではなく物語で口説く。これは、すべての業種と規模に通じる採用の原則です。自社の内側には、採用の転換点になる物語がすでに眠っています。まずはそれを掘り起こすことから始めてください。
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著者プロフィール
深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。学術論文7編(査読付き)。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても"光る人材"が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)。国立大学法人富山大学とウェルビーイングに関する共同研究「幸福を超える共鳴」。2025年、新理論「共鳴経済」を日本マーケティング学会にて発表。2026年「共鳴経済 社員が"推す"会社が伸びる」(サンクチュアリ出版)を刊行。