「ブランディング会社」という言葉が隠している、7つの部族

「ブランディング会社」という言葉が隠している、7つの部族

「ブランディング会社 おすすめ」って検索してみてほしい。

出てくるのは、ロゴをつくる会社、パーパスを語る会社、広告を売る会社、組織開発をする会社、ECの売上を伸ばす会社——全部「ブランディング」を名乗ってる。やってること、全然違うのに。

要するに「ブランディング」って言葉が便利すぎるんだと思う。なんでもこの旗の下に入れちゃう。結果、買い手は比較できないし、売り手は差別化できない。市場全体がぼやけてる。

今回、40社超の公開情報を調べて、この業界の「地図」を描いてみた。個社名は伏せてカテゴリーで書く。読み終わったとき、自分がこの地図のどこに立ってるか、なんとなく見えるはずです。


同じ看板の裏にある、7つの部族

出自と業態で分けると、7つの「部族」が見える。同じ言語を話してるように見えて、実は文化圏が違う。ただ先に言っておくと、この境界は溶け始めてる。出自が違っても同じ領域に参入するケースが増えてるので、あくまで「どこから来たか」の地図だと思ってほしい。

第一の部族:広告代理店の血筋。 大手代理店がブランドコンサルの子会社を作り、統合し、また分離する。これを20年以上やってる。あるグループは連結子会社900社超、140か国展開。プロジェクトは数千万から数十億。彼らにとってブランディングは、巨大な広告エコシステムの上流工程。2024年にある代理店系ファームが約80名で機能を「再」統合してるんだけど、「再」ってことは一度バラしたのを戻してるわけで。ブランドコンサルの位置づけが、親会社の中で定まらないんだろうなと思う。

第二の部族:デザインファームの美学。 代表者の名声がそのままブランドになる世界。数百件同時に回す事務所もあれば、何年も営業なしで依頼が途切れない個人事務所もある。UI/UXからブランド体験設計に拡張して、デザイン会社初の上場を果たした企業もいる。彼らにとってブランディングは、目に見えるかたちの力。

第三の部族:戦略コンサルの知性。 この人たちは「ブランディング」ってあんまり言わない。ブランドはマーケティング機能の一部で、独立したテーマとしては扱わない。データドリブンのROI分析が武器。ブランドは経営の従属変数、という発想。

第四の部族:独立系ブティック。 一番多様な部族。1983年設立の外資系がブランド価値の定量評価で世界標準を作った一方、1987年に日本発の専業ファームが生まれてる。D2C支援の代表格が2025年に親会社へ吸収合併される予定だったり、200社超の実績を持つファームがカーボンクレジット事業に転身したり。この跳躍ができるのも、「ブランディング」の守備範囲の広さゆえ。

第五の部族:PR会社の物語。 国内トップ級のPR会社がESG/SDGs起点で企業ブランディングに進出してる。ブランディングは、語られる物語の設計。

第六の部族:事業会社出身者の実戦知。 特定の外資系消費財メーカー出身者の独立がやたら多い。元CMOが独自フレームワークを開発したり、元大手メーカー出身者が「共創型戦略デザインファーム」を名乗ったり。売ってるのはフレームワークじゃなくて、事業会社での実戦経験そのもの。

第七の部族:特化型の専門家集団。 CI/VI特化で3,000社超の老舗。インナーブランディング特化で年間200件回す企業。採用ブランディングで社員3名の会社に7,000件の応募を獲得させた事例。ニッチを深く掘る人たち。

で、僕自身はどこにも属さないです。商社出身で、組織の中にある感情とか衝動——「組織的インサイト」って呼んでるんですけど——を原点にブランドを考えてます。7つのどこにもいない雑種。それが強みなのか弱みなのかは、正直まだよくわからないです。


同じ症状に、別の処方箋

業態だけじゃない。同じ「ブランドが弱い」って症状に対して、処方箋がまるで違う。

戦略か、クリエイティブか。 ISO認定のブランド評価を武器にする会社と、クリエイティブディレクターの審美眼で勝負する会社が、同じ市場にいる。片方は「あなたのブランド価値は何億円です」と数字で語り、もう片方は「この造形があなたの本質です」と形で語る。どっちも「ブランディング」。

パーパスからか、売上からか。 パーパス一筋10年のファームと、「Branding For Growth」で売上直結を約束するファーム。ただこの二項対立、崩れつつある。パーパスの人がROIを語り始め、売上の人がパーパスを語り始めてる。融合なのか、ポジショントークの拡張なのか。たぶん両方。

答えを渡すか、一緒に考えるか。 CDが経営者と直接対話して完成形を出すトップダウン型と、「問いのデザイン」で共創するファシリテーション型。共創型は最近すごく増えてる。かつてトップダウンだった会社がメニューに「ワークショップ」を足す動きも目立つ。ただ、共創の質は本当にピンキリ。


「本質」と「伴走」が意味を失った日

21社のサイトと代表者発信を分析してみた。自己定義は6パターンに分かれた。「戦略・資産」派、「志・パーパス」派、「デザイン・造形」派、「人・組織」派、「イノベーション」派、「伴走・実践」派。

で、ここからが面白いというか、皮肉。

「本質」って言葉、ほぼ全社使ってる。

戦略派は「本質的価値を定量化」、デザイン派は「本質をカタチに」、パーパス派は「本質的な存在意義を問う」。全員が「本質」を語って、全員の「本質」が違う。

いや、本質ってなんだよ。

ブランディングやってる人、みんな言うんですよね。「御社の本質は」「ブランドの本質を」って。でも聞きたい。誰目線の本質なの? 経営者が思う本質と、現場が感じてる本質と、顧客が求めてる本質、だいたい違うんですよ。なのに「本質」って言った瞬間に、あたかも一つの正解があるみたいに聞こえちゃう。

ぶっちゃけ、ただ言いたいだけなんだと思って見てました。差別化ワードとしては、もう死んでると思います。

「伴走」も同じ。 2020年代に急増して、いまや全社が使ってる。「自走支援」って言いながら長期リテイナー契約を狙ってるケースも見える。「伴走」が差別化だった時代は終わったと思います。

面白いのはここからで、独自性が高い会社ほど「ブランディング」って言葉自体を使わない。「進化思考」「創造性の賦活」「デザインイノベーション」——自分で語彙を作ってる会社は、「ブランディング会社」というカテゴリーから自分を引き剥がしてる。

業界の共通語をそのまま使う会社ほど埋没して、独自語を持つ会社ほど際立つ。ブランディング会社の看板が、ブランディング会社自身のブランドを壊してる。なかなか皮肉な話です。


見積もり10倍格差の正体

同じ「ブランディングお願いしたい」に対して、見積もり10倍差がつく。ぼったくりじゃない。構造的な理由がある。

売ってるものが違う。 ロゴのデータを納品する会社と、経営会議に3年入る会社は、商品が違う。同じ「ブランディング」って呼ばれてるだけ。

動く人が違う。 ジュニアデザイナーが手を動かすのか、シニアパートナーが社長と対話するのか。外資系ファーム上位職の年収は数千万。当然フィーに乗る。

収益モデルも違う。 プロジェクト型が主流だけど、リテイナーで150社以上抱えてるファームもある。成果報酬はほぼない。ブランドの効果を短期で測るのが本質的に無理だから。測れないものを測れると言うほうが不誠実だと思う。

施策 価格帯
ロゴデザイン単体 数万〜50万円
ブランド戦略策定 50万〜600万円
CI/VI開発(中小企業) 200万〜500万円
CI/VI再構築(大企業) 1,000万〜3,000万円以上
コンサルティング月額 10万〜30万円(総額60万〜200万円)

いま地面の下で起きていること

地表は穏やかに見えるけど、地殻変動が同時多発で進んでる。

パーパスブームが幻滅期に入ってます。 東証プライムの236社がパーパス策定済み(2024年、SMO調査)。2年で2.5倍。でも「パーパスウォッシュ」——掲げるだけで実行しない——って批判が出てきてる。パーパスを商品にしてた会社は、これから「策定後」の価値をどう見せるかが問われる。

デザインの民主化で制作市場が空洞化してる。 ノーコードツールの普及で「ロゴだけ」の会社は厳しい。価値は上流(戦略・コンセプト)と下流(組織への浸透)に移ってる。

そしてAIが、全部を加速させてる。

ここは僕がずっと考えてることなんだけど、AIで外向けの発信——コンテンツ、広告、SNS——がめちゃくちゃ簡単になった。誰でもそこそこのものが作れる。いいことだと思う。でもそれって、外向け発信のコモディティ化が進むってことでもある。

みんなが同じようなものを出せるようになったとき、何が差になるか。

結局、自社の原点に立ち返るしかないんだと思う。その原点こそが差別化になるし、面白いコンテンツの源泉になる。だから内省的な観点——自分たちは何者で、何を大切にしてて、なぜこの仕事をしてるのか——が今まで以上に大事になる。

インナーブランディングが静かに主役になりつつある。 ブランディング予算のインナーとアウターを7対3にしてる企業もある。一社の事例だから一般化はできないけど、方向性としては象徴的。「ロゴ作って広告打つ」から「社員がブランドを体現する」へ。顧客窓口がマーケ部から人事・経営企画に変わるってことです。

この流れは昔から予想してました。やっぱりそうかって感じです。まだどうなるかはわからないけど。

あと、地味だけど重要な話。ブランディング市場の統計が、日本には存在しない。 コンサル市場全体は2兆円超(2024年度推計)。でも「ブランディング」がいくらなのかは誰も知らない。市場の定義すらできてない。「ブランディングとは何か」が未解決だから、当然そうなる。


自社をプロットする3つの軸

調査から、業界を整理する軸が3つ浮かびました。

横軸:合理・定量 ↔ 感性・精神性

左端にISO認定の評価メソドロジー。右端に「志」「生き様」「空」の概念。どっちが正しいって話じゃない。ただ自分がどちら側か自覚してないと、合理を期待するクライアントに精神性を売ったり、その逆をやったりする。

縦軸:アウトプット起点 ↔ 組織・人起点

上端にCI/VI開発の老舗。下端にインナーブランディング特化の企業。デザインの民主化とAIで、上は縮小、下は拡大してる。

補助軸:既存の業界語 ↔ 独自の言語体系

「ブランド戦略」「ポジショニング」でわかりやすく語るか、「進化思考」「創造性の賦活」で独自の世界を作るか。後者は理解されるまで時間がかかるけど、一度浸透したら強い。

3つの軸で自社をプロットすると何が見えるか。

一番印象的だったのは、混雑地帯と空白地帯の偏り。合理と感性の中間、アウトプットと組織の中間——要は「全部やります」ゾーンに大量の会社がいる。差別化のつもりで全方位にしたら、全員同じ場所に集まっちゃった。

空白地帯は明確にあります。音響ブランディングは日本でほぼ未開拓。AI×ブランドは始まったばかり。そして組織の感情や衝動を出発点にしたブランディングも——これは僕がやろうとしてることなんですけど——まだほとんど誰もやってないです。


この地図を、どう使うか

ブランディング会社を探してる方に、一つだけ伝えたいことがある。

「ブランディングお願いしたい」で見積もり取ると、10倍の価格差が返ってくる。相手がぼったくりなんじゃなくて、「ブランディング」って言葉で全然違うものを同時に比較しちゃってるんだと思う。

まず自分に聞いてみてほしい。うちが今ほしいのは何なのか。ロゴなのか、戦略なのか、組織の空気を変えることなのか。それによって相談すべき部族が変わる。戦略コンサルにロゴ頼んでも噛み合わないし、デザインファームに組織変革を期待しても難しい。

もう一つ。「本質を見極めます」「伴走します」としか言わない会社は、正直ちょっと疑ってかかっていいんじゃないかと思う。その言葉、業界の全員が使ってるので。独自の語彙を持ってる会社、自分たちのアプローチを具体的に説明できる会社のほうが、少なくとも何を買うのかは見えやすい。

そしてこれからの時代、AIで外向けの発信はどんどん簡単になっていく。デザインもコピーもそこそこのものは誰でも作れるようになった。じゃあ何が差になるかっていうと、外側を飾ることじゃなくて、自社の内側を掘ることなんだと思う。自分たちは何者で、なぜこの事業をやってて、社員は何を感じてるのか。その内省なしに作られたブランドは、どんなにきれいでも長くは持たないんじゃないかなと。

ブランディング会社を選ぶって、結局その内省を誰と一緒にやるかを選ぶってことなんだと思う。地図を見て、自分に合う部族を探してみてほしい。


本記事は2026年4月1日時点の公開情報に基づいています。個社名を伏せてカテゴリーとして記述しており、特定企業の評価・推奨を意図するものではありません。