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レポート

2025.08.14

ディズニーに学ぶ「究極のブランディング」

ディズニーランド

企業のブランド戦略において、なぜディズニーは常に模範とされるのか。本記事では、ディズニーが実現する「世界観の一貫性」から、企業ブランディングの本質と応用のヒントを探ります。

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ディズニーのブランディングが示す「一貫性」の力

ディズニーブランドが圧倒的な信頼を築いている理由のひとつが、「世界観の一貫性」にあります。これは単に商品やサービスにおける統一感を超え、空間・人材・オペレーションにまで徹底して設計されています。

アニメの世界観を現実空間に落とし込む構成力

ディズニーリゾートは、ディズニー映画やアニメに登場する世界をリアルな空間として体験できる場です。その建築・内装・BGM・照明に至るまで、すべてが「物語の延長線上」に設計されています。

かつて、東京ディズニーランドの建設地が「富士山の見える地域(富士のふもと)」と「千葉・浦安」で迷われた際、最終的に浦安が選ばれたのもこのためです。富士山が視界に入ることで世界観が崩れるという判断は、「現実を排除してでも物語を守る」というブランディング思想の象徴的なエピソードです。

キャストという存在がブランドそのもの

ディズニーでは、従業員を「アルバイト」ではなく「キャスト」と呼びます。これは「キャスト=登場人物」として、顧客=ゲストに対して物語の一部を演じる存在であるという定義に基づいています。

接客ひとつとっても、その役割は単なるサービス提供ではなく、ディズニーブランドを体現する「演出者」であることが徹底されています。この思想はマニュアル化を超えて、採用段階から浸透されているのです。

ファンが物語の一部になる仕組み

ディズニーは顧客との関係性において、「消費」ではなく「共鳴」を基軸に置いています。商品やサービスの背後にあるストーリーと価値観に共感することで、顧客が自ら“語りたくなる”状態をつくり出しています。

採用もブランディングの一環である

ディズニーでは、アルバイト採用においても「ブランドに共感しているか」が大きな基準となります。応募者の多くは、そもそもディズニーの世界に強く共鳴しており、「自分もその一部になりたい」と感じて応募してきます。

これは、単なる労働力確保ではなく、ブランド共鳴者による共創プロセスです。このような“共感採用”は、結果的に顧客体験の質を高めるとともに、ブランドの持続性を担保する役割を果たしています。

従業員が媒介する「共鳴の経済圏」

キャストたちは、ディズニーの物語とゲストの架け橋として機能しています。つまり、ブランドと顧客の間には、熱量を持った媒介者が存在しており、その“感情の伝播”こそが共鳴経済の本質です。

この仕組みは、単にマーケティング上の成功例ではなく、組織論としても極めて高度に設計された構造であり、他業種にも応用可能な概念です。

ディズニー×オリエンタルランドが生む「理想の役割分担」

東京ディズニーリゾートの運営主体は、ウォルト・ディズニー社ではなく、日本企業のオリエンタルランドです。この両者の役割分担こそが、ブランドとオペレーションの理想的な関係性を体現しています。

0→1を担うディズニー、1→10を担うオリエンタルランド

ディズニーは「物語を構想する力(0→1)」に長けており、その原作としての世界観を提示します。一方で、オリエンタルランドはそれを「現実に落とし込む力(1→10)」に特化し、寸分の狂いもなく現場に展開しています。

この関係性は、「ブランドの理念」と「オペレーションの徹底」が両立してこそ、初めて成立するという重要な教訓を与えてくれます。

不祥事が起きない理由:構造に内在するガバナンス

ディズニーでは、社員の自律的な行動やブランド順守が自然と成立しています。それは、外発的な統制や監視ではなく、「共感」「参加」「誇り」によって自発的な行動が引き出されているためです。

つまりブランド共鳴が従業員ガバナンスの役割も果たしており、不祥事の起きにくい文化が内在的に設計されているのです。

ブランドを構築する3つの基盤設計

ここまで述べてきた内容は、次の3つの構造設計が前提となっています。

1. 世界観を空間・制度・言葉に落とし込む「構成力」

理念・ストーリーを、建築、衣装、音楽、接客、職位名(キャスト)など、あらゆるレイヤーに落とし込む構成力こそが、ブランドの「空間化」「制度化」を可能にしています。

2. 採用から始まる「共鳴設計」

共感によって採用し、採用によってブランドが強化される。この循環構造がディズニーにはあります。採用は人事戦略ではなく、ブランド戦略の第一歩です。

3. 「理念」と「現場」の乖離を生まないオペレーション力

理念は掲げるだけでは意味を持ちません。それを現場で使える言葉に翻訳し、日常の判断基準として機能させる。これを支えているのがオリエンタルランドの圧倒的な運営設計力です。

ディズニーは「ブランドの究極系」である

ディズニーのブランド戦略は、「徹底した構成力」「共鳴の構造設計」「オペレーションによる理念の体現」によって成り立っています。それは一過性のマーケティング手法ではなく、構造的・文化的に設計された「共鳴経済圏」です。

顧客が物語の一部になる。従業員もその物語を演じる。ブランドが人間の感情を媒介として拡張していく。この循環構造があるからこそ、ディズニーはブランドの究極形として、あらゆる業界から学ばれ続けているのです。

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深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター

2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)

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