
優秀な人材に出会えた。面接も順調だった。しかし、いざ内定を出しても承諾されない。
これは多くの企業が抱える採用の壁です。条件や待遇だけで人が動く時代は終わり、今は「納得感」や「共感」がなければ内定承諾にはつながりません。
そのような中、私たち「むすび」がサポートしてきた企業の成功事例を分析する中で、ある共通点が見えてきました。それが、内定承諾に至るまでの「6段階の法則」です。
本記事では、この6段階と、それを裏付ける経営理論であるSECIモデルとの関係性を解説しながら、企業が独自の採用ブランディングを構築するための視座を提供していきます。
内定承諾には6段階のステップがある
私たちむすびが企業の採用ブランディングをサポートする中で、6段階のステップが見えてきました。
以下では、6段階それぞれの内容について解説していきます。
ステップ1:ヒアリング
最初の段階は、学生の価値観や志向性をしっかりヒアリングすることです。ここでの目的は、企業が一方的に話すのではなく、「相手の関心や期待」に耳を傾けること。
どのようなことに魅力を感じるのか、どんな職場を理想としているのか。この情報が次のステップの「伝える」内容に直結します。
ステップ2:伝える
ヒアリング内容を踏まえ、自社の強みや魅力を応募者に「伝える」フェーズです。このとき重要なのは、会社の伝えたいことだけではなく、「相手が聞きたいこと」を軸に構成すること。
たとえば「若手でも挑戦できる」「地域に根ざしている」といったポイントが学生の関心に合っていれば、それを優先的に伝えます。
ステップ3:社員との接点
人事だけでは伝えきれない“リアルな会社”を見せる段階です。現場社員や若手社員との座談会、社内イベントへの参加などを通じて、応募者に「この人たちと働きたい」と思ってもらえる接点を用意します。言語化できない“空気感”を伝える、いわば「共感」をつくる場面です。
ステップ4:本人と向き合う
ここでは、応募者一人ひとりと本気で向き合います。「なぜこの会社を選ぼうとしているのか」「将来的に何を実現したいのか」。
その志向と向き合い、期待と不安を言語化し、キャリアビジョンを一緒に描いていくフェーズです。これにより、応募者自身が「自分のための選択」であると感じられるようになります。
ステップ5:具体的接点
言葉だけでは伝えきれない部分を、体験に落とし込む段階です。職場体験、工場見学、実務型インターンなど、会社と自分の関係を実感できるリアルな体験を設計します。
ここで生まれる「実感」は、最終的な意思決定に大きく影響します。
ステップ6:意思決定
最後は応募者にとっての「納得した決断」を後押しするフェーズです。ここまでの5ステップで得た情報や体験がすべて「この会社で働く理由」として積み重なり、最終的に内定承諾につながるのです。
なぜこの6ステップが有効なのか?SECIモデルとの関係性
この6段階は、ただの経験則ではありません。実は、経営知識創造理論である「SECIモデル」に深く関連しています。
SECIモデルとは?
SECIモデルは、野中郁次郎氏らが提唱した知識創造の理論です。
- S:Socialization(共同化) … 言語化されていない知識や感覚を共有する
- E:Externalization(表出化) … 感覚や経験を言葉にする
- C:Combination(連結化) … 言語化された知識を構造としてまとめる
- I:Internalization(内面化) … 体系化された知識を個人の行動や判断に取り込む
このサイクルを回すことで、企業内の知識が形式知として蓄積・共有され、組織力が高まっていくという理論です。
SECIモデルについては、以下の記事も参考にしてください。
採用ブランディングとSECIモデル
6段階の法則は、まさにこのSECIモデルの知識変換プロセスと一致します。
- ヒアリング・社員接点 → Socialization(共同化)
応募者と社員、企業の“空気感”を共有し、言葉にはならない価値観を感じ合う。 - 伝える・向き合う → Externalization(表出化)
経営者の想いや社風、社員の価値観を「伝える」ことは、暗黙知を言語化する行為。 - 具体的接点 → Combination(連結化)
言葉と実体験を接続し、応募者の理解を深める。 - 意思決定 → Internalization(内面化)
応募者が体験や言葉を自分の価値観として取り入れ、「この会社で働く」と納得して決断する。
このように、採用ブランディングにおける6段階は、SECIモデルのサイクルに沿った「知の移転・内面化」のプロセスそのものなのです。
「再現性ある採用活動」をつくるために

この6ステップは、一社の成功事例をモデル化したものでありながら、多くの企業に応用できる汎用性を持っています。重要なのは、各ステップで「自社なら何をするか?」を設計することです。
たとえば、
- ヒアリング:どんな質問で価値観を引き出すのか?
- 伝える:どんな強みを、どんな順序で伝えるのか?
- 社員との接点:誰と、どのように会ってもらうか?
このように、ステップごとに自社独自の「型」をつくることで、それが「再現性ある採用活動」の基盤になります。
採用ブランディングの本質は「内面化」
採用は、ただ人を集める活動ではありません。「この会社で働く意味」を相手の中に育てるプロセスです。だからこそ、SECIモデルにおける「内面化」の段階。つまり、相手が理念や文化を自分の行動基準として取り込む段階まで設計することが重要です。
採用ブランディングとは、その企業にしかない価値観・文化・働き方を体系的に伝え、応募者に「自分ごと化」してもらう取り組みです。そしてその成果が、内定承諾率や定着率といった形で現れてきます。
6段階の法則で採用に確かな手応えを
「ヒアリング」から始まり「意思決定」へと至る6段階の法則は、採用ブランディングの実践における“再現性ある型”です。そしてその根幹には、経営理論であるSECIモデルが流れています。
このステップを自社に合った形で設計し、体得し、共有し、伝えていく。これこそが、「納得感のある採用」を実現する道筋です。
むすびでは、この6段階の法則を体系的にした採用ブランディングのサポートも提供しています。詳しくは、お問合せください。

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)