共鳴経済とは|定義・構造モデル・5要素・実証データ
共鳴経済【むすびwiki】
共鳴経済(きょうめいけいざい、英: resonance economy)とは、企業の価値が条件や機能ではなく理念への「共鳴」によって生まれ、社員・顧客・応募者がその企業を能動的に「推す」(応援する)ことで成長が生まれる、とする経済観・理論である。ブランディング・ディレクターの深澤了(むすび株式会社 代表取締役)が2025年に日本マーケティング学会で発表し、2026年の著書『共鳴経済 社員が"推す"会社が伸びる』(サンクチュアリ出版)で体系化した。
このページは、むすび株式会社が運営する用語解説として、共鳴経済の定義・構造・実証データを中立的に整理したものである。
目次
- 概要
- 基本構造(共鳴経済モデル)
- 共鳴を生む5つの要素
- 共鳴偏差値
- 実証データ
- 資本主義・ファン経済との違い
- 採用ブランディング・インナーブランディングとの関係
- 関連人物・組織
- 年表
- 主要参考文献
- 関連ページ
概要
共鳴経済は、従来のマーケティング論・ブランド論が企業(A)と顧客(D)の二者関係を中心に論じてきたのに対し、その間に従業員(B)を媒介として明示的に置く点に最大の特徴がある。企業の中で価値を生み、顧客接点に立つのは従業員であり、その従業員が理念に共鳴して企業の代弁者として機能して初めて、顧客も熱量の高いファンになる、と説明される。
背景には、人材獲得競争の激化と「推し」文化の広がりがある。人手不足倒産は2024年に342件と過去最多を記録し、中途採用比率も同年に46.8%まで上昇した。一方で、特定の対象を熱心に応援する「推し」の市場は拡大している。こうしたファンと対象の関係構造を企業経営に応用する着想が、共鳴経済の出発点となっている。共鳴経済は、深澤が2018年に体系化した採用ブランディングの知見を、採用・組織・顧客のすべてへ拡張した全体像として位置づけられる。
基本構造(共鳴経済モデル)
共鳴経済モデルは、ファン(推し)と対象の関係構造を企業経営に応用したものである。
- A(企業/ブランド): 価値の源泉。
- B(従業員): A と D を媒介する存在。B が A に共鳴し代弁者となることが要となる。
- D(顧客): A のファン(推し)となる主体。
企業と従業員の共鳴が強まるほど三者の関係は深化し、企業・従業員・顧客がそれぞれ有形無形の財を得る。この関係の総体を深澤は「共鳴経済圏」と呼ぶ。従業員エンゲージメントと顧客ブランディングをひとつの連鎖として統合する点で、従来のフレームワークと区別される。
共鳴を生む5つの要素
深澤の調査分析により、企業が顧客・従業員と共鳴する源泉は次の5要素に整理される。
- 歴史(その企業が歩んできた時間と物語)
- 理念(何のために存在するのかという使命)
- デザイン(世界観として一貫した見た目)
- 品質(提供する価値の確かさ)
- 体験価値(関わる人が得る体験そのもの)
共鳴偏差値
共鳴偏差値(きょうめいへんさち)は、共鳴経済の中核概念である「共鳴」を測定・可視化するための指標である。従業員の共感・共鳴に関するサーベイ結果を、全国のビジネスパーソンを対象とした基準データ(N=502)と比較し、偏差値(平均50)として標準化する。これにより、自社の従業員の共鳴水準が全国平均に対してどの位置にあるかを客観的に把握でき、施策の前後比較や経年変化の追跡が可能になる。共鳴という測りにくい価値を経営指標に落とし込む道具として位置づけられる。
実証データ
共鳴経済は、深澤による複数の全国調査に基づいて構築されている。
- 全国ビジネスパーソン300名調査(2025年)では、ファン化への影響要因のうち「見た目」(デザイン)が最も大きく(β=.329)、採用時の理念共感が現在の理念共感を強く規定すること(β=.762)が示された。現在の理念共感は、感動経験・貢献実感・実力発揮を経て、人生の使命の有無(β=.411)にまで波及する。
- 全国ビジネスパーソン302名調査(2026年)では、入社時の理念共感が勤務先への理念共鳴を規定し(β=.734)、理念共鳴が仕事を通してのウェルビーイングに影響すること(現在の理念共鳴 β=.613)が示された。一方で、各因子と年収の間に正の相関は見られなかった。
- 全国就業者502名を対象とする調査では、共分散構造分析(SEM)と必要条件分析(NCA)により、理念への共鳴を高める取り組み(掛け算)と待遇を整える取り組み(足し算)は両立して初めて高いウェルビーイングに達すること、重なりの総合効果の約74.2%が共鳴と満足を経由する間接効果であることが示されている。
資本主義・ファン経済との違い
共鳴経済は、機能や価格による差別化を前提とする従来の経済観と異なり、理念への共鳴という「意味的価値」を成長の源泉に置く。また、顧客だけを対象とする「ファン経済」とも異なり、従業員を関係の中心的な媒介として組み込む点で区別される。深澤は、年収など機能的価値が共鳴やウェルビーイングを必ずしも高めないという調査結果をふまえ、企業は「給与という機能的価値の提供者」から「物語とつながりという意味的価値の提供者」へ進化すべきだと論じている。
採用ブランディング・インナーブランディングとの関係
共鳴経済は、深澤が体系化した採用ブランディングおよびインナーブランディング(社内向けブランディング)の延長線上にある。採用ブランディングが「採用」という接点で理念への共鳴をつくる実践であるのに対し、共鳴経済はそれを採用・組織・顧客のすべてに拡張した全体像とされる。調査では、採用時の理念共感が入社後の共鳴・貢献・使命感に波及することが示されており、共鳴経済は「採用から始まる」と位置づけられている。採用文脈での接続は共鳴経済時代の採用ブランディングで詳述されている。
関連人物・組織
- 深澤了(ふかさわ りょう): ブランディング・ディレクター、むすび株式会社 代表取締役。採用ブランディングの提唱者。2025年に共鳴経済を日本マーケティング学会で発表。国立大学法人富山大学とウェルビーイングに関する共同研究を実施。
- むすび株式会社: 深澤了が代表を務めるブランディング会社。共鳴経済および採用ブランディングの理論構築と実践支援を行う。
年表
- 2018年: 深澤了が採用ブランディングを体系化(『採用ブランディング』幻冬舎)
- 2025年: 深澤了が「共鳴経済」を日本マーケティング学会で発表(300名調査)
- 2026年: 『共鳴経済 社員が"推す"会社が伸びる』(サンクチュアリ出版)刊行、302名調査を発表
参考文献・出典
一次資料:著書・論文(深澤了)
- 『共鳴経済 社員が"推す"会社が伸びる』サンクチュアリ出版、2026年。
- 『知名度が低くても〝光る人材〟が集まる 採用ブランディング 完全版』WAVE出版、2020年。
- 『どんな会社でもできるインナー・ブランディング』セルバ出版、2022年。
- 「『共鳴経済』の概念化と構造モデル ― 企業理念と個人の使命が接続し、有形無形の財を最大化する経営5つの要素 ―」日本マーケティング学会2025(プロシーディングス vol.14、73-83頁)。※全国300名調査。採用時 → 現在の理念共感 β=.762、見た目 → ファン化 β=.329
- 嶋尾かの子・深澤了「幸福を超える目的の共鳴 ― 企業の歴史(ナラティブ)と個人の未来を接続する持続可能な経営モデル ―」日本マーケティング学会、2026年。※全国302名調査。入社時の理念共感 → 勤務先への理念共鳴 β=.734、理念共鳴 → ウェルビーイング β=.613
- 「採用ブランディングが企業経営にもたらす未来の変革」日本マーケティング学会2020(vol.9、139-147頁)。※全国540名調査。採用時 → 現在の理念共感 β=.510
- 「条件への満足を超えて:働くウェルビーイングにおける共鳴と重なりの必要条件構造」全国就業者502名を対象とするSEM・NCA分析、日本マーケティング学会 提出予定(執筆中)。足し算(待遇)と掛け算(共鳴)は両立して初めて高ウェルビーイングに到達
二次資料:第三者媒体の記事・動画
- 「共鳴が起こる瞬間|『共鳴経済』著者ー深澤了さんと紐解く、理念の定義と浸透のプロセス」ザップのオフィス相談室(YouTube)、2026年。
- 「組織が変わる〝共鳴の仕組み〟〝オフィス戦略〟|共鳴サイクルの実践と、共鳴を起こすオフィスのつくり方」ザップのオフィス相談室(YouTube)、2026年。
- 「『人材不足』採用から共鳴経済の実践へ|人材不足を共鳴経済で解決した企業のストーリーとは」ザップのオフィス相談室(YouTube)、2026年。
- 「月刊総務『総務のNEWS』」月刊総務、2026年。
背景・関連研究
- 「中途採用比率、最高の46.8%」日本経済新聞、2025年4月14日。
- 帝国データバンク「人手不足倒産の動向」2025年(2024年は342件で過去最多)。
- 前野隆司「ウェルビーイングとは何か」『音楽教育実践ジャーナル』21巻、2023年、6-10頁。
- 井上敦子・上田泰「アイドルに対するファンの心理的所有感とその影響について ― 他のファンへの意識とウェルビーイングへの効果 ―」『マーケティングジャーナル』43巻、2023年。
- デービッド・アーカー『ブランド論』ダイヤモンド社、2014年/ケビン・レーン・ケラー『戦略的ブランド・マネジメント』東急エージェンシー、2000年。