クレドとは?意味と作り方、形骸化させないコツまでやさしく解説
クレドとは、社員一人ひとりが日々の判断や行動のよりどころにする「信条」を短くまとめたものです。ラテン語のcredo(私は信じる・信条)が語源です。
この記事では、クレドの意味と経営理念との違いに加えて、「そもそも自社にクレドが要るのか」「なぜ多くのクレドが形骸化するのか」まで踏み込んで書きます。作るかどうか迷っている経営者・人事担当者の方が、判断できる状態になることがゴールです。
クレドとは何か。ひとことで言うと
クレドとは、社員が日々の仕事で「どう判断し、どう行動するか」を決めるときのよりどころになる信条を、短い言葉にまとめたものです。
語源はラテン語のcredo(クレド)。「私は信じる」「信条」を意味する言葉です。
要点は3つです。
- 主語は現場の社員。経営者の想いの表明ではなく、社員が使う道具です
- 判断に使う。飾る言葉ではなく、迷ったときに立ち返る基準です
- 短くて具体的。朝礼で読み上げるためではなく、今日の仕事に当てはめられる粒度で書かれます
代表例は、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の「我が信条(Our Credo)」と、ザ・リッツ・カールトンのクレドです。どちらも後ほど、「クレドが実際に機能した瞬間」で詳しく紹介します。
経営理念・ミッション・ビジョン・バリュー・パーパスとの違い
言葉の定義を並べて覚えるより、「誰が・いつ使うものか」で整理したほうが実務では役に立ちます。
| 言葉 | 答える問い | 誰が・いつ使うか |
|---|---|---|
| 経営理念 | 何のために存在するか | 経営者が、会社の土台として掲げる |
| ミッション | 社会で何を成し遂げるか | 経営陣が、事業の方向を決めるときに |
| ビジョン | 将来どうなりたいか | 経営陣・社員が、中長期の目標として |
| バリュー | 何を大事にするか | 社員が、行動の指針として |
| パーパス | 社会における存在意義 | 経営陣が、事業や採用の軸として |
| クレド | 今日どう判断するか | 現場の社員が、毎日の判断に |
ざっくり言うと、経営理念やミッションは「会社の向かう先」を示す言葉で、使う場面は多くの場合、年に数回の大きな意思決定です。クレドは「現場が今日の判断に使う道具」で、使う場面は毎日です。
だからクレドは、抽象的な美しい言葉よりも、「お客様と会社の利益がぶつかったらどちらを取るか」に答えられる具体性が求められます。バリューとクレドはかなり近い概念で、実際、両者をほぼ同じ意味で使っている会社もあります。呼び方の違いにこだわる必要はありません。
クレドが要る会社、要らない会社
ここがこの記事でいちばん伝えたいところです。結論から言うと、クレドはすべての会社に必要なものではありません。
要らない可能性が高い会社
- 社員数が少なく、経営者の判断がすぐ届く会社。社長に聞けば5分で答えが返ってくる規模なら、判断基準を紙にする必要は薄いです。経営理念だけで足ります
- すでに経営理念が現場の言葉で書かれていて、実際に使われている会社。理念が機能しているなら、似たものを増やすと逆に混乱します
- 「他社が作っているから」が主な動機の会社。目的がないまま作ったクレドは、ほぼ確実に形骸化します
要る可能性が高い会社
- 現場の判断が経営者の目の届かないところで日々発生する会社。店舗、支社、顧客先常駐など、拠点が分かれている場合です
- 採用や成長で人が急に増え、「うちのやり方」が口頭で伝わらなくなった会社
- 経営理念が抽象的すぎて、現場の判断に降ろせていない会社。「社会に貢献する」だけでは、値引きの相談に答えられません
判断の軸をひとつにまとめるなら、こうです。「現場が判断に迷う場面が実際にあり、そのたびに上に聞かないと動けない状態か」。イエスならクレドは役に立ちます。ノーなら、いまは要りません。
私たちが理念づくりを支援する現場でよく見るのは、「理念はあるがクレドがない」ことが問題なのではなく、「理念が現場の言葉になっていない」ことが問題のケースです。この場合、新しくクレドを作るより、理念を現場の言葉に翻訳し直すほうが早くて効くことがあります。作る前に、いまある言葉を疑ってみてください。
なぜ多くのクレドは形骸化するのか
「クレドを名刺サイズのカードにした『クレドカード』を作って配ったが、唱和して終わりになっている」。これはクレド導入でいちばん多い失敗です(カードや冊子そのものの作り方はインナーブランディングのブックレット・手帳の作り方にまとめています)。原因は、だいたい3つに絞られます。
原因1. 完成がゴールになっている
クレドは作った時点では何の効果もありません。判断に使われて初めて意味が出ます。ところが多くのプロジェクトは、カードの納品と配布式で終わります。作る計画はあるのに、使う計画がないのです。
原因2. 唱和が「使うこと」だと思われている
朝礼での読み上げは、言葉を覚えることには役立ちますが、判断に使うこととは別物です。リッツ・カールトンが毎日やっているのは唱和ではなく、サービスバリューズの1項目について15〜20分「議論する」ことです。読むのと、自分の仕事に当てはめて話すのとでは、まったく違います。
原因3. 誰も反対しない言葉で書かれている
これがいちばん根深い原因です。「お客様を大切に」「チームワークを重んじる」。こうした言葉には誰も反対しません。そして、誰も反対しない言葉は、誰の行動も変えません。何かを選ぶことは、何かを捨てることだからです。捨てるものが書かれていない言葉は、判断の場面で役に立ちません。
支援の現場でこうなりがちなのは、作る過程で角を取ってしまうからです。関係者みんなの合意を取ろうとすると、引っかかりのある言葉から順に削られて、最後には当たり障りのない標語だけが残ります。丸い言葉は、合意は取りやすいのですが、行動は変えないのです。
有名企業の事例2つ。「クレドが機能した瞬間」で見る
クレドの事例は本文の引用で語られがちですが、大事なのは文面より「実際に判断を変えたかどうか」です。その視点で2社を見ます。
ジョンソン・エンド・ジョンソン。3,100万本の回収を決めさせたクレド
J&Jの「我が信条(Our Credo)」は、1943年に三代目社長のロバート・ウッド・ジョンソンJr.が起草しました。特徴は、会社が責任を負う相手に優先順位をつけて明記していることです。第一が顧客、第二が社員、第三が地域社会、そして第四、つまり最後が株主です。
このクレドが機能した瞬間として知られるのが、1982年のタイレノール事件です。同社の鎮痛薬に何者かが青酸カリを混入し、7人が亡くなりました。このときJ&Jは、第一の責任は顧客にあるというクレドに基づき、約1週間で全米に流通するカプセル製品およそ3,100万本の回収を決断します。
注目したいのは、株主を最後に置くという「痛みを伴う優先順位」があらかじめ書かれていたことです。「顧客も株主も大切に」と書いてあったら、巨額の損失を覚悟した回収に踏み切れたかどうか。順位をつけていたからこそ、判断がぶれなかったわけです。
ザ・リッツ・カールトン。毎日15〜20分、クレドを「議論する」
リッツ・カールトンのクレドは、1983年の会社設立にあわせて、初代社長ホルスト・シュルツェら創業メンバーがまとめました。クレド、モットー(We are Ladies and Gentlemen serving Ladies and Gentlemen)、サービスの3ステップ、12項目のサービスバリューズ、第6のダイヤモンド、従業員への約束からなる「ゴールドスタンダード」の中心にあります。
クレドカードは制服の一部として全従業員が携帯します。ただ、リッツのすごさは携帯させることではありません。米国の品質賞を運営するNISTの公式ブログによると、同社では毎日15〜20分の「デイリーラインナップ」で、世界中の従業員がサービスバリューズの1つを取り上げて議論します。カードは配って終わりではなく、毎日使うための道具になっています。同社はマルコム・ボルドリッジ国家品質賞を、ホテル企業として唯一、しかも2度(1992年・1999年)受賞しています。
2社に共通するのは、クレドが「額に入った言葉」ではなく、「損得の判断や毎日の運用に組み込まれた仕組み」になっていることです。
形骸化させないクレドの作り方5ステップ
ステップ1. 「どんな判断に使うか」を先に決める
文面を考える前に、自社で現場が迷う場面を10個書き出してください。「納期と品質がぶつかったとき」「クレームで規定外の対応を求められたとき」。クレドはこの場面リストに答えるために作ります。使う場面が思いつかないなら、作るのをやめる判断もここでできます。
ステップ2. 現場の「よかった判断」から言葉を拾う
ゼロから美しい言葉を考えるより、すでに社内で起きた「あの対応はうちらしかった」という出来事を集めるほうが、使える言葉になります。実話が背景にある言葉は、あとで説明するときも強いです。
出来事を集める場としてはワークショップが向いています。進め方はインナーブランディング ワークショップの設計と進め方で詳しく書いています。
ステップ3. あえて賛否が割れる言葉を残す
ここが独自のポイントであり、いちばん大事なところです。草案を関係者に見せると、必ず「この表現は言い過ぎでは」という声が出ます。そのとき、全部を丸めないでください。判断基準とは優先順位のことであり、優先順位とは「何かを後回しにする」宣言です。J&Jが株主を第四に置いたように、社内で賛否が割れる言葉こそ、判断の場面で効きます。全員がすんなり賛成する文面になったら、危険信号だと思ってください。
ステップ4. 場面に当てはめてテストする
完成させる前に、ステップ1で書き出した「迷う場面」に草案を当ててみます。答えが出ない場面があれば、その項目は書き直しです。ここを飛ばすと、配ってから使えないことが判明します。
ステップ5. 「使う場」をセットで設計してから配る
配布はゴールではなくスタートです。週次ミーティングの冒頭5分で1項目を議論する、評価面談でクレドに沿った行動を振り返る、など「使う場」を先に決めてから配ってください。リッツのデイリーラインナップの自社版を、無理のない頻度で作るイメージです。
作ったあとの回し方。測って、直す
クレドは作って終わりではなく、効いているかを測って直すものです。
参考になるのがJ&Jです。同社は毎年1回、全世界の全社員が参加する調査「クレドー・サーベイ」を行い、クレドがどれだけ実践されているかを調べて、その結果からアクションプランを作っています。1943年に作った言葉を、80年以上たった今も測り続けているわけです。
中小企業なら、そこまで大がかりでなくて構いません。年1回、次の2つを聞くだけでも十分です。
- この1年で、クレドを思い出して判断した場面があったか(あれば具体的に)
- クレドの中で、実態と合っていないと感じる項目はどれか
「思い出した場面がない」という回答が多ければ、浸透の問題か、文面の問題です。「実態と合っていない」項目が特定されたら、直すか、実態を変えるかを経営が決めます。クレドは直していいものです。直せているうちは、生きている証拠です。
測り方をもっと細かく設計したい方は、インナーブランディングの効果測定 — KPIの設定と測り方も参考にしてください。
よくある質問
Q. 中小企業でもクレドは必要ですか?
規模だけでは決まりません。社員10名でも店舗が3つに分かれていれば役に立ちますし、30名でも全員が同じフロアで社長と働いているなら、経営理念だけで足りることが多いです。「現場が経営者に聞かずに判断する場面が日常的にあるか」で考えてみてください。
Q. すでにあるクレドが形骸化しています。作り直すべきですか?
いきなり作り直す前に、原因を切り分けてください。文面が丸すぎるのが原因なら書き直しが要ります。文面は悪くないのに使う場がないだけなら、会議の冒頭5分で1項目を議論する場を作るほうが早いです。多くの場合、問題は文面より運用にあります。
Q. クレドとミッションの違いを一言で言うと?
ミッションは「会社がどこへ向かうか」、クレドは「社員が今日どう判断するか」です。向かう先と、日々の判断基準。時間軸と使う人が違います。
Q. クレドは何項目くらいが適切ですか?
決まりはありませんが、現場が覚えて使えることが条件なので、多すぎると機能しません。リッツ・カールトンのサービスバリューズは12項目で、これを毎日1つずつ議論する運用とセットになっています。答えは「運用できる数にすること」です。
まとめ
最後に、この記事の要点をまとめます。
- クレドとは、社員が日々の判断のよりどころにする信条を短くまとめたもの
- 経営理念が「会社の向かう先」なら、クレドは「現場が今日の判断に使う道具」
- すべての会社に必要なわけではない。「現場が上に聞かないと動けない場面が日常的にあるか」で判断する
- 形骸化の最大の原因は、誰も反対しない丸い言葉で作ってしまうこと。丸い言葉は、合意は取れても行動は変えない
- J&Jは優先順位を明記したクレドで約3,100万本の回収を決断し、リッツは毎日15〜20分の議論でクレドを使い続けている
- 作るときは「使う場面」から出発し、賛否が割れる言葉をあえて残す。配ったあとは測って直す
クレドは、作ること自体には価値がありません。現場の誰かが迷った瞬間に思い出され、判断を変えたとき、初めて役に立ったと言えます。作るかどうか迷っているなら、まず自社の「現場が迷う場面」を10個書き出すところから始めてみてください。それが要る・要らないの答えにも、作るときの材料にもなります。
なお、クレドは社内にブランドを根づかせる取り組み(インナーブランディング)のひとつの道具です。全体像から知りたい方は、インナーブランディング完全ガイドをどうぞ。