インナーブランディング事例 「庄や」のリブランディングを共鳴経済で読み解く

インナーブランディングとは、働く人のマインドと行動が変わっていくことです。理念を壁に掲げるだけでは、現場は変わりません。本記事では、居酒屋「庄や」(株式会社大庄)のリブランディング事例を、共鳴経済の5要素、歴史・理念・デザイン・品質・体験価値で読み解き、社内の理念浸透がブランドの体質を変え、やがて採用にも売上にも効いていく構造を、1000社の知見とともに整理します。

この記事の目次

  1. インナーブランディングとは、働く人が変わること
  2. なぜ理念を「掲げるだけ」では変わらないのか
  3. 事例|「庄や」が取り戻した「板前がいる町の酒場」
  4. 共鳴経済の5要素で読み解く「庄や」の転換
  5. インナーブランディングが採用にも売上にも効く理由
  6. インナーブランディングを自社で始める3ステップ
  7. よくある質問(FAQ)
  8. まとめ|インナーブランディングは理念共鳴から始まる

インナーブランディングとは、働く人が変わること

インナーブランディングとは、社名やロゴを変えることではなく、働く人のマインドと行動が理念に沿って変わっていくことです。

私は1000社以上のブランディングに関わる中で、理念をつくって終わりにしてしまう会社を数多く見てきました。立派な言葉を額に入れて掲げても、評価や日常業務に接続されなければ、社員は自分の言葉で会社を語れません。語れない組織は、社外にも一貫したイメージを届けられない。インナーブランディングは、理念を「掲げる」ことではなく、理念に共鳴した働き手が日々の行動を変え、それが積み重なってブランドになっていく取り組みです。

自社のインナーブランディングを見直したい方は、無料相談をご利用ください。

なぜ理念を「掲げるだけ」では変わらないのか

理念を掲げても現場が変わらないのには、2つの理由があります。

理由1|言葉が日常と評価に接続されていない。 ビジョンやスローガンをつくることと、それが組織で生きていることは別の話です。作った言葉を店舗評価や毎日の振り返りに落とし込むまでが、インナーブランディングです。

理由2|共鳴ではなく指示で動かそうとしている。 「会社が決めたからやる」という状態では、トップの関心が薄れた瞬間に勢いが落ちます。私たちの2025年の調査(全国のビジネスパーソン300名対象)では、年収と社員の共鳴度・使命感の間に正の相関はありませんでした。人を動かし続けるのは、条件や号令ではなく理念への共鳴です。

この2つを押さえ、「自分たちは何を大切にする組織で、どんな価値を届けるのか」を言語化し、日常に接続することが、インナーブランディングの出発点になります。

事例|「庄や」が取り戻した「板前がいる町の酒場」

株式会社大庄が展開する居酒屋「庄や」は、2023年で50周年を迎えたブランドです。同社の30を超えるブランドの中でも一番の店舗数を誇り、創業以来の中核を成しています。

そのリブランディングが始まったのは2018年。当時の庄やは、数多くある居酒屋チェーンとの競争の中で「誰に何を売るべきなのか」を見失いかけていました。店長は「他のチェーンよりも高い」とお客様に言われ、やみくもな安売り、家族もビジネスパーソンもカップルも狙った全方位の料理、クーポンなど、各店舗でバラバラな施策が目立っていました。結果、店長以下のスタッフも「何を売りにして良いのかわからない」状態に陥っていたのです。

「庄や」の原点を取り戻すべく、社長が陣頭指揮を取り、20名を超えるプロジェクトメンバーが結集しました。「誰に何を売るべきなのか」から始まり、「あるべき店舗の雰囲気は」「力を入れるべきメニューは」「メニュー表はどうあるべきか」を1年近く費やして議論。会社の理念を土台に、庄やに関わる人たちが実行すべきビジョン・ミッション・バリューを言語化し、「板前がいる町の酒場」というブランド・スローガンにたどり着きました。

言葉をつくって終わりにしなかったことが、この事例の核心です。庄やはスローガンを店舗評価にも落とし込み、毎月全スタッフにビジョン浸透調査を行って浸透度を数字で把握。各店の取り組みを社内SNSに書き込み、メンバーの投票で選んだ上位10店舗を優秀店舗として毎月表彰し、店長や調理長の座談会を記事化して全店に共有しました。店舗に浸透したのは、天然鮮魚、煮込み、串料理の取り組み。刺し身を美しく押し出す店が増えました。コロナ禍でも取り組みは継続され、SNSには「さすが板前がいる街の酒場」という声が寄せられるようになります。「地元に昔からあって、帰ってきたくなるお気に入りの居酒屋」であり続ける、という認識が店長や調理長に浸透し、リピート客が増加。やみくもな安売りやクーポンは減り、「庄や」ブランドの体質は劇的に変化を遂げました。

飲食店におけるリブランディングとは、すなわち働く人のマインドや行動が変わっていくこと。庄やの取り組みは、まさにインナーブランディングそのものです。

共鳴経済の5要素で読み解く「庄や」の転換

庄やの転換は、私が提唱する共鳴経済の5要素、歴史・理念・デザイン・品質・体験価値でそのまま説明できます。

歴史。 50周年、「地元に昔からあって帰ってきたくなる」という老舗性を、消し去るのではなく前面に置き直しました。

理念。 企業理念「我が社の事業は人類の健康と心の豊かさに奉仕いたします」や「利他の心」「三方よし」、そして「志の五省」「衛生の五省」は、階層別研修や人事評価に接続され、全社員が暗唱できる状態になっています。理念が壁の標語ではなく、日常と評価に生きていました。これこそインナーブランディングの土台です。

デザイン。 写真がふんだんに使われたチェーン居酒屋然としたメニュー表を「庄や」らしさでリニューアルし、内装の改装も進めました。私たちの調査では、ファン化に見た目が強く影響しています(β=.329)。

品質。 板前の腕が活きるラインナップに変え、仕入れの強化で味も向上。以前から全店舗の料理人が参加する「調理甲子園」を開き、「プロの技によるうまい料理」を貫いてきました。

体験価値。 美しい盛り付けや、LINEでつながったお客様への訴求など、来店体験そのものが自店らしいものへと設計され直しました。

5つが「板前がいる町の酒場」という一本の軸でつながったとき、庄やは全方位の消耗戦から共鳴の構造へと移りました。インナーブランディングとは、この5要素を働く人の日々の行動へ落とし込み、一貫させていく営みだと言えます。

インナーブランディングが採用にも売上にも効く理由

インナーブランディングは、社内の変化にとどまりません。働く人が理念に共鳴している状態は、そのまま採用と売上の土台になります。

私はこれを一石二鳥と呼んでいます。庄やの「板前がいる町の酒場」という定義は、お客様に何を届けるかを決めると同時に、どんな働き手に来てほしいかを決める採用の軸にもなります。社内の共鳴を先につくり、それを採用や発信に接続する。この順番が、成果の再現性を生みます。

共鳴が成果を決めることは、データでも裏づけられます。私たちの2025年の調査では、採用時の理念共感が現在の理念共感を強く規定し(β=.762)、それが感動経験、仕事の貢献実感、組織での実力発揮、人生の使命感にまで影響していました。理念に共鳴した人は、入社後も自走し、貢献し、自分の使命として働きます。

採用の成果として現れた例もあります。家系ラーメン「町田商店」を展開する株式会社ギフトは、理念とインナーブランディングを徹底したことで、売上が理念決定前の17倍(約170億円)、営業利益率14.4%の高収益に到達しました。採用でも、理念以前は満足に採れなかったのが、有名企業を辞退してギフトを選ぶ学生が出るほどに変わりました。インナーブランディングは、まわりまわって採用力と業績を底上げするのです。

自社のインナーブランディングを成果に接続したい方は、無料相談からご連絡ください。

インナーブランディングを自社で始める3ステップ

大がかりな予算がなくても、インナーブランディングは今日から始められます。

ステップ1|「何を大切にする組織か」を言語化する。 全方位を狙うのをやめ、庄やの「板前がいる町の酒場」のように、自社が誰に何を届ける組織なのかを一言で定義します。

ステップ2|言葉を評価と日常に接続する。 スローガンを掲げて終わりにせず、毎月の浸透確認や評価、社内での事例共有に落とし込み、働く人が自分の言葉で語れる状態をつくります。

ステップ3|接点を5要素で棚卸しする。 歴史・理念・デザイン・品質・体験価値が、店舗・商品・発信・採用のすべてで一貫しているかを点検し、切れ目を1つずつつなぎます。

この3ステップを回すだけでも、インナーブランディングは「掲げる」から「行動が変わる」へと動き始めます。

よくある質問(FAQ)

Q1. インナーブランディングとは何ですか。
働く人のマインドと行動が、理念に沿って変わっていくことです。社名やロゴの刷新ではなく、理念を日常と評価に接続し、社員が自分の言葉で会社を語れる状態をつくる取り組みです。

Q2. 理念を掲げているのに現場が変わりません。
言葉が日常と評価に接続されていない可能性が高いです。庄やのように、スローガンを店舗評価や毎月の浸透確認に落とし込むまでが、インナーブランディングです。

Q3. インナーブランディングは採用や売上に効きますか。
効きます。社内の共鳴が採用の軸になり、業績の土台にもなります。調査でも採用時の理念共感が入社後の貢献や使命感を強く規定していました(β=.762)。

Q4. 「板前がいる町の酒場」のような言葉は、うちでも作れますか。
作れます。全方位を狙わず、自社の歴史・品質・体験のどこに強みがあるかを絞り込めば、自社ならではの一言は必ず見つかります。

Q5. 成果はどのくらいで出ますか。
庄やのリブランディングは言語化から浸透まで1年単位で進みました。社内の変化が先に現れ、採用や売上への効果はその後に続きます。

まとめ|インナーブランディングは理念共鳴から始まる

インナーブランディングとは、理念を掲げることではなく、働く人が理念に共鳴して行動を変えていくことです。庄やは「板前がいる町の酒場」という定義を、歴史・理念・デザイン・品質・体験価値の5要素で一貫させ、店舗評価や社内共有としてやり切ることで、ブランドの体質を変えました。

社内の共鳴を先につくり、それを採用や発信に接続する。この順番でインナーブランディングを組み立てたとき、組織は「掲げるだけ」から「共鳴で動く」へと変わっていきます。

自社のインナーブランディングを本質から見直したい方は、無料相談からご連絡ください。書籍『共鳴経済 社員が"推す"会社が伸びる』(2026年4月30日 サンクチュアリ出版)と合わせて、実践をご検討ください。

関連記事


著者プロフィール

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。学術論文7編(査読付き)。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても"光る人材"が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)。国立大学法人富山大学とウェルビーイングに関する共同研究「幸福を超える共鳴」。2025年、新理論「共鳴経済」を日本マーケティング学会にて発表。2026年「共鳴経済 社員が"推す"会社が伸びる」(サンクチュアリ出版)を刊行。