
採用ブランディングの支援では、いきなり採用コピーを考えたり、発信内容を決めたりすることはありません。弊社むすび株式会社が最初に行うのは、その会社が何を大切にしていて、どんな価値を現場で生み出しているのかを丁寧に聞くことです。
実際、採用に成功している会社ほど、外から見える魅力を後から作っているのではなく、もともと現場にある良さを言葉にできています。今回ご紹介する飲食店も、まさにそうした企業でした。
社長へのヒアリングを通じて見えてきたのは、商品そのものだけではなく、店で過ごす時間や働く人の空気感まで含めて価値にしている会社だということです。
本記事では、むすび株式会社がどのようにヒアリングを行い、どのようにその会社らしさを整理し、採用ブランディングの成功につなげていったのかを事例としてご紹介します。
採用成功の起点はヒアリングにある
今回のプロジェクトでは、採用手法の検討ではなく、社長へのヒアリングからスタートしました。ここでの目的は、会社の表面的な特徴ではなく、「らしさ」や価値観の源泉を見つけることです。
会社の良さはシンプルな言葉の中にある
ヒアリングの中で出てきたのは、非常にシンプルな言葉でした。
・安くてお腹いっぱい食べられる
・元気をもらえる
・アクセスが良い
一見するとどこにでもありそうな内容に見えますが、重要なのはその裏にある考え方です。この会社は「食事」ではなく、「体験」と「感情」を提供しているという前提を持っていました。
働く環境にも一貫した価値観
働く人にとっての良さとして挙がったのは、
・給与が高い
・お互いにプラスになれる関係性
・楽しく働ける環境
という内容でした。
ここで重要なのは、「楽しい」という言葉が単なる雰囲気ではなく、関係性や制度と結びついている点です。企業として何を大切にしているのかが、働く環境にも一貫して現れていました。
ヒアリングで見ているのは「答え」ではなく「構造」
弊社では、ヒアリングを単なる情報収集としては捉えていません。質問の意図は、その会社の思考や価値観の構造を把握することにあります。
事前に仮説を持ってヒアリングを行う
同じ質問を事前に投げかけておくことで、どのような回答が出てくるかの仮説を持った状態でヒアリングに臨みます。
これにより、その場で出てきた言葉を単発で受け取るのではなく、「この会社はこういう方向性を持っているのではないか」という視点で整理できます。
仮説があることで、ヒアリングは深まり、無駄な時間をかけずに本質にたどり着きやすくなります。
ヒアリングの質がその後の精度を左右する
このプロセスを省略すると、後工程でのズレが大きくなります。
・強みのグルーピング
・コンセプト設計
・発信内容の整理
これらすべてに影響するため、ヒアリングの精度は非常に重要です。実際に、この段階を丁寧に行うことで、その後のワークはスムーズに進みました。
ヒアリングで意識している具体的なポイント

ヒアリングは単なる情報収集ではなく、その会社の「らしさ」を引き出す最も重要な工程です。どこまで深く踏み込めるかによって、その後の強みの整理やコンセプト設計の精度が大きく変わります。
表面的な回答だけを拾ってしまうと、どの企業にも当てはまるような言葉にしかならず、結果として差別化できない採用ブランディングになってしまいます。そのため、弊社ではヒアリングの段階から設計し、相手が持っている考えや価値観を自然に引き出しながら、言葉として整理できる状態まで深めていきます。
単に質問を投げるのではなく、対話の中で本質に近づいていくことを前提に進めていきます。
相手が「話したくなる状態」をつくる
まず重要なのは、話しやすい雰囲気をつくることです。
ヒアリングは質問をする場ではありますが、相手が本音を話してくれなければ意味がありません。そのため、楽しいと感じてもらうことを意識しながら進めます。
傾聴とリアクションで深さを引き出す
単に話を聞くだけではなく、リアクションを大きく取りながら、相手の言葉を受け止めます。
・確認する
・具体例を求める
・感情に対して反応する
こうした積み重ねによって、表面的な回答から一歩踏み込んだ内容を引き出します。
仮説をぶつけることで本質に近づく
ヒアリングでは、仮説をぶつけることも重要です。
「こういうことですか?」
「こういう背景があるのではないですか?」
このように投げかけることで、相手の考えが整理されていきます。仮説が正しいかどうかは重要ではなく、対話を通じて深掘りすることが目的です。
ブランディングの本質は、企業の中にある
今回の事例で重要だったのは、採用の見せ方を先に考えたことではなく、社長が持っている認識や現場にある価値を、先に言葉として整理したことです。お店の良さ、働く人にとっての良さ、活躍する人材像、これから目指したい会社の姿を丁寧に聞き出したことで、採用のための言葉ではなく、その会社にもともとあった強みが見えてきました。
弊社がヒアリングを重視するのも、その会社らしさは最初の対話の中にすでに表れていることが多いからです。事前に考え方を把握し、仮説を持って対話し、深く聞き返していくことで、表面的な答えではなく、本当に大事にしている価値観までたどり着きやすくなります。
採用ブランディングに成功する会社は、派手な施策をしている会社ではありません。自分たちの良さを理解し、それをぶらさずに伝えられる会社です。この企業も、まさにその土台があったからこそ、採用の場面でも強さを発揮できたのだと考えています。

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。学術論文7編(査読付き)。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)。国立大学法人富山大学とウェルビーイングに関する共同研究「幸福を超える共鳴」。2025年、新理論「共鳴経済」を日本マーケティング学会にて発表。2026年「共鳴経済 社員が”推す”会社が伸びる」(サンクチュアリ出版)を刊行。

