【介護】王慈福祉会:理念を言葉にし、共感で採る。王慈福祉会の採用ブランディング事例

岡山県倉敷市の社会福祉法人・王慈福祉会(以下、王慈会)は、合同説明会で椅子が空き、新卒採用がゼロに終わる年もありました。むすびの採用ブランディングによって、現場にあった情熱を「無茶でもやってみる精神」という言葉に変え、採用スローガン「福祉という言葉をなくす。」を掲げます。採用基準をMUSTとWANTに整理した結果、中途採用は半年で15名、うち7名を人材紹介会社を通さず採用し、約1,120万円の紹介料に相当するコストをかけずに人を集めました。ここでは、その取り組みの中身と効果を紹介します。

この事例のポイント

目次

課題:情熱はあるのに、椅子が埋まらない

王慈会の採用ブースには、毎年同じ光景がありました。合同説明会の会場で、隣の企業には学生が集まるのに、こちらの椅子は空いたまま。着席者が1日に5名も来てくれれば上出来で、新卒採用がゼロに終わった年もあります。

王慈会が担うのは、高齢者福祉・障がい者福祉・児童福祉・地域福祉の4事業です。認知症の方のケア、終末期にある利用者との対話、ご家族との調整などが仕事の中心で、早出や夜勤が定期的にあり、肉体労働も感情労働も多い割に、給与水準は高いとは言えない業界でした。

一方で、現場の職員は利用者一人ひとりと丁寧に向き合い、ときには家族以上に寄り添っていました。利用者の誕生日には手作りの飾り付けでパーティを開き、終末期を迎えた利用者に本人の願いどおりの「最後のお花見」をプレゼントする。他所で「できない」と言われたことでも、王慈会では方法を探し続ける。仕事への熱量が欠けているとは、到底思えませんでした。

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課題:自分たちの価値を語る言葉がなかった

採用が停滞する本当の原因は、現場の熱量ではなく、それを語る言葉の不在にありました。

採用の場になると、「福祉は人が集まりにくい」「給与水準では勝てない」といった諦めが先に立ち、自分たちの価値を積極的に語る言葉が出てきませんでした。求める応募者の基準も、「明るい人」「やる気のある人」といった抽象的な表現にとどまり、何をもって「王慈会らしい人材」とするのかが言語化されていなかったのです。

人が集まらなければ、既存の職員がその隙間を埋めるしかありません。職員に余裕がなくなれば、挑戦よりも安定が優先されます。王慈会は少しずつ、「やりたい」よりも「やらなければならない」が前に出る組織へ傾きかけていました。

転機は、理事長の世代交代でした。30代で就任した新理事長の胡谷俊樹氏は、「この組織を、自分の言葉で語れるだろうか」と考えます。採用難も内定辞退も表面的な問題にすぎないのではないか。そう考えた新理事長から、むすびに声がかかりました。

やったこと1:現場の言葉から「無茶でもやってみる精神」を掘り起こす

むすびがまず着手したのは、王慈会全体のビジョン・ミッション・バリューの再定義でした。

現場の管理者や職員あわせて10名が集まり、理事長自らも参加して、約1年をかけたワークショップが始まります。新しい理念を机上でつくり出すのではありません。現場にすでに存在する言葉や理念をすくい上げ、職員自身の言葉で言語化することを目指しました。

その過程で浮かび上がったのが、「無茶でもやってみる精神」という価値観でした。利用者の「やりたい」に対して、前例がなくても方法を探し続ける。できない理由よりも、できる可能性を先に考える。その姿勢こそが、職員自身が感じている「王慈会らしさの核」だったのです。

やったこと2:「福祉という言葉をなくす。」を掲げる

言語化した自社らしさは、外に向けたメッセージへと形を変えます。

王慈会が新たに掲げた採用スローガンは、「福祉という言葉をなくす。」の一文でした。介護・福祉の現場につきまとう「3K(きつい、きたない、危険)」のイメージ。それが現実であること自体は否定できません。それを認めた上で、「福祉」という枠組みを超え、「人の人生をワクワクさせる仕事」であることを、理事長や職員自らが発信し始めたのです。

同時に、仕事の厳しさも包み隠さず開示しました。夜勤の現実、感情労働の重さ、判断の責任。それらを知っても「やりたい」と言う人にのみターゲットを定めます。「きれいごとで人を集めても、続かなければ意味がない」という理事長の覚悟の表れでした。

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やったこと3:採用基準をMUSTとWANTに分ける

「王慈会らしい人材」を具体化するため、採用基準を「MUST」と「WANT」に分類しました。

たとえば新卒採用では、絶対に譲れない条件(MUST)を「あいさつができること」と「共に楽しめる姿勢があること」に定めます。一方で、「明るさ」や「ストレス耐性」はWANTへ移しました。中途採用も同様に整理し、あらためて採用活動に臨みます。

ここで言うMUSTやWANTは、TOEICの点数や資格、学歴、営業実績といった能力を表すものではありません。むすびがワークで問うのは「自社に入社してほしい人の資質」、つまりその人が大事にしている考え方や行動です。今の能力が高くても活躍できるとは限りませんが、価値観が合う人は能力を発揮しやすいからです。この切り分けにより、面接官ごとの主観が減り、評価の軸が揃いました。

効果1:中途採用は半年で15名、紹介料に頼らず採用

採用基準と発信を整えた結果は、中途採用の数字にはっきり表れました。

中途採用は半年で15名。そのうち7名は、地元のハローワークと就業支援センターの経由で採用できました。人材紹介会社を通さずに採れたということです。仮に年収400万円、紹介手数料を40%とすると、1名あたり約160万円、7名で約1,120万円の紹介料に相当します。介護職は紹介会社を使っても採用が難しいと言われる職種です。その難易度を踏まえると、紹介料をかけずに7名を採れたことは、きわめて大きな効果でした。

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効果2:採用会議の議論が変わり、選考が速く正確になった

数字だけでなく、採用会議のあり方も変わりました。

以前は「人手が足りないから早く採ろう」「経験があるから即戦力だ」といったバラバラの意見が上がり、採用者を決めるのに時間がかかっていました。基準が明確になったことで、「経験はあるが、私たちの大切にしている姿勢と重なるだろうか」という問いが自然に出てくるようになります。意見が割れても判断の土台は同じなので、議論が迷子になりません。結論に至るまでの時間が、明らかに短くなりました。

ある会議では、若手職員の「もっと待遇面を前面に出した方が応募は増える」という発言に対し、別のメンバーが「それはWANTに刺さるかもしれないが、MUSTに共鳴する人を増やす発信になっているか」と問い返しています。最終的に、「応募者数は追うが、理念に響かない表現はしない」という方針でまとまりました。数字と理念が同時に語られるようになったのです。

効果3:説明会と現場が地続きになり、組織が自走を始めた

発信した言葉と、現場の実感が一致していたことも大きな変化でした。

説明会で語られる言葉は、「私たちはこんな人と一緒に働きたい」という率直なメッセージになりました。「あいさつができること」「利用者や仲間と共に楽しめること」を絶対条件として伝え、「3K」と呼ばれる厳しさもごまかさず提示します。実際に働く若手職員に話を聞くと、「ここは利用者さんと本気で向き合える場所です」「一緒に楽しむことを大事にしている」と、ほぼ同じ価値観が返ってきました。人事が用意したコピーではなく、自分の体験として語っているのです。

説明会の場と働く現場の日常が地続きになると、入社後のギャップは激減します。理念に共感した人が入社し、仕事の中で感動や貢献実感を重ねた結果、職員全体が変わっていきました。理事長の指示がなくても現場が自ら考え動く、自走する組織へと生まれ変わったのです。ある職員は、「以前は『明日にでも退職しよう』と毎日考えていたけれど、今は『2年後に死んでもいい!』と感じるくらい、楽しく仕事ができています」と笑顔で語ります。王慈会は、「100人待ちの介護施設」を目標に掲げるまでに変わりました。

この事例からわかること

王慈会を変えたのは、給与でも待遇でもありませんでした。現場にすでにあった情熱を職員自身の言葉にし、「王慈会らしい人材」の輪郭をMUSTとWANTで明確にしたこと。その一点が、採用の数字を変え、会議の質を変え、組織の空気まで変えました。採用ブランディングは、人を集める手法にとどまらず、組織そのものを自走させる取り組みになり得ます。

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よくある質問(FAQ)

Q. 王慈福祉会の採用が停滞していた本当の原因は何でしたか。
A. 現場の情熱の不足ではなく、その情熱を外に語る言葉の不在でした。「福祉は人が集まりにくい」という諦めが先に立ち、求める人材の基準も抽象的なままだったため、合同説明会でも椅子が空く状態が続いていました。

Q. 採用スローガン「福祉という言葉をなくす。」はどう生まれたのですか。
A. 約1年のワークショップで職員自身の言葉を掘り起こす中から生まれました。「3K」という現実を認めた上で、「福祉」の枠を超え「人の人生をワクワクさせる仕事」だと理事長や職員自らが発信するための宣言です。

Q. 採用基準の「MUST」と「WANT」とは何ですか。
A. 絶対に譲れない条件がMUST、あれば望ましい条件がWANTです。王慈会では新卒のMUSTを「あいさつができること」「共に楽しめる姿勢があること」とし、「明るさ」や「ストレス耐性」はWANTへ移しました。資格や学歴などの能力ではなく、価値観や姿勢を基準にしています。

Q. 採用ブランディングの成果は数字でどう表れましたか。
A. 中途採用は半年で15名、うち7名を人材紹介会社を通さず地元のハローワークと就業支援センター経由で採用しました。仮に年収400万円・紹介手数料40%とすると、約1,120万円の紹介料に相当するコストをかけずに人を集めた計算になります。

Q. なぜ採用基準を分けると採用会議が変わったのですか。
A. 「早く採ろう」「即戦力だ」といったバラバラの意見が、「私たちの姿勢と重なるか」という共通の問いに変わったためです。判断の土台が揃い、意見が割れても議論が迷子にならず、結論までの時間が短くなりました。

Q. この手法は自社にも応用できますか。
A. 業種や法人の規模を問わず応用できます。重要なのは、外から理念をつくるのではなく、現場にすでにある言葉をすくい上げ、求める人材の基準を具体化することです。詳しくはお問い合わせください。

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